受信日:2010年10月3日


事務局のみなさん、

長い長い洪水の後始末が終わりかけ、やっと河との戦いが始まります。
ご協力に感謝します。


 当地も急に涼しくなり、もう扇風機を使うことはありません。暑い夏は洪水と共に去り、河川は日に日に水位を下げてきました。当地に戻ってから2週間、洪水の後始末がやっと終わりかけ、河川工事の開始、収穫の季節が目の前に迫ってきました。
 パキスタンの方では、人々が戻り始め、土砂に埋まった家屋の前で途方に暮れているそうです。特にカイバル・パクトゥン州は、休みなく続けられる空爆と重なり、救援団体が近づけず、支援が遅れに遅れていると言います。
 民心はとうの昔に為政者や欧米軍から離反していましたが、天から降ったような大洪水の悲劇で、むき出しの敵意が確実に拡大しています。「もう、いい加減にしてほしい」というのが普通のアフガン人やパキスタン人の心情のようです。

 洪水の次にやってくるのが渇水です。各地の豪雨は雪を流し去り、冬の河川水の異常低下を心配しています。また、信じられない規模の洪水は、あちこちの取水口を破壊しました。一時はPMSの手がけたマルワリード用水路一本でシェイワ・シギ全体が、かろうじて生き延びました。
 シギ村は今回の洪水で取水口が機能を停止しましたが、マルワリードの分水だけで十分に生きることができます。シェイワ取水口は、この2週間の作業で、とりあえず十分な水を確保しました。
 ダラエヌール渓谷では、地下水が増え、カレーズが復活しているそうです。気になっていたマルワリード用水路のサイフォンは無事でしたが、大量の水が溢れて土石や巨礫を下流に堆積させ、復旧作業は続いています。

 ダラエヌール診療所付近で発生したコレラは、次第に下火になり、終息に向かっているようです。数年ぶりに訪れた診療所は以前よりもこざっぱりとした装いになり、職員たちが工夫を凝らし、診療の質の改善とともに、すっかり地域になじんでいるのが印象的でした。「分娩室設置」を要求された騒ぎが収まり、多くの団体が去っていく中、まるで長い悪夢でも見ていたような気がしました。

 さて、今年度の最大事業、カマ取水口と主幹水路の工事は、10月に入るや、機械力を集中し、本格的に開始しました。本日(10月2日)、カマ郡の全長老が集まり、10月9日を期して送水を停止、工事を来年3月初旬まで完了、その間、堰・水門・調節池・分水門らの完成を期すべく、日本人の安全を上げて守ると誓い、皆で祈りを捧げました。なにしろ、貴重な小麦収穫を1シーズン分、まるごと放棄するのですから、大変な決意だと思います。
 この案件は公的筋の協力が討議されていますが、どちらにしても神と自然を待たせることはできません。あとは全力を挙げて進めるのみです。「やらねばやられる」。長老会の決定は、どんな軍隊よりも恐ろしいものです。そう決めたら、杞憂が吹き飛び、他のことが何だか小さなことのように感ずるから不思議です。

 ガンベリ沙漠は確実に緑が広がっています。小生は落花生の収穫に興味があり、尋ねると今年は「数トン」だそうです。稲刈りが来週から始まります。

写真を何枚か送ります。みなさんもお元気で。



文字通りの初穂。稲刈りは1週間後、田植え時期・品種・肥料を変え、
全部で20,000㎡で収穫。2010年9月30日。ガンベリ第一試験農場。



ガンベリ第一試験農場北側に植えた「ビエラ」の果樹園(2ヘクタールに約2,500本植樹)。ビエラは乾燥に極めて強い灌木で、甘い実をつけるので専ら養蜂用に使われる。苗の移植後6カ月。向こうに見えるのは自然土石流路に植えたガズの林。
1年半で2~3mに成長。2010年9月30日



ビエラは棘があり、家畜を寄せつけない。早熟のものは花をつけ始めている。
水やり加減が難しく、やりすぎると実をつけない。1010年9月30日



ガンベリ沙漠第二農場。菜種やスイカで活躍。緑肥をすきこんで小麦畑を作っている(18ヘクタール)。今冬は計30ヘクタールでの収穫を目指している。
ここまで来るのに時間がかかったが、今年は確実だ。2010年9月30日



成長する木々。ユーカリは6カ月、ヤナギは3カ月。ガンベリ沙漠はともかく緑陰を
作らないと、収穫量が減る。水路は末端の1.3㎞。2010年9月30日



平和ヶ丘に集まる遊牧民の群。こうして水飲み場をおけば、家畜の糞で土地が
肥える。今年は遊牧民の下るのが早く、続々と集まってくる。 2010年9月30日



造成後2年を経過したP貯水池。最初のガンベリ沙漠岩盤の貯水池で、ここも5回の改修を経て完成したものだ。公園のように美しい。 2010年9月30日



おなじみQ2貯水池の裏法。最下段に植えたヤナギとユーカリの成長が著しい。
ガズは湿気に弱く、活着しなかった。2010年9月30日



建築中のマドラサ寮。今年は夏の長雨でコンクリート工事ができず、1ヶ月半工期が遅れたが、主要な工事は1カ月で終わる。2010年10月2日



雨雲が去り、やっと屋根うちの残り半分ができる。2010年10月2日



10月2日、カマ対岸の堤防工事を開始。現在交通路を敷設中。



シェイワ取水口の復活。ひと冬はこれで大丈夫だが、夏の洪水に耐えるよう、更に工事を継続。右手の小さな丘がシェイワ取水口岩盤。2010年9月28日



河道復活工事はさらに続け、主流を復活する。



排水路末端の主幹水路。ガンベリ沙漠とシェイワ用水路の水は全てここを通過する。記録的な降雨だったが、排水路整備のおかげで、全地域が守られた。 手前の人物は職員のシェルワリ。1年前、ダンプの下敷きになって内臓破裂、瀕死の状態だったが、緊急手術で命拾いした。今は元気に働いている。 2010年9月29日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


← 前の報告へ ○報告トップへ○ 次の報告へ →

Topページへ 連絡先 入会案内