事務局のみなさん、
長い長い洪水の後始末が終わりかけ、やっと河との戦いが始まります。
ご協力に感謝します。
当地も急に涼しくなり、もう扇風機を使うことはありません。暑い夏は洪水と共に去り、河川は日に日に水位を下げてきました。当地に戻ってから2週間、洪水の後始末がやっと終わりかけ、河川工事の開始、収穫の季節が目の前に迫ってきました。
パキスタンの方では、人々が戻り始め、土砂に埋まった家屋の前で途方に暮れているそうです。特にカイバル・パクトゥン州は、休みなく続けられる空爆と重なり、救援団体が近づけず、支援が遅れに遅れていると言います。
民心はとうの昔に為政者や欧米軍から離反していましたが、天から降ったような大洪水の悲劇で、むき出しの敵意が確実に拡大しています。「もう、いい加減にしてほしい」というのが普通のアフガン人やパキスタン人の心情のようです。
洪水の次にやってくるのが渇水です。各地の豪雨は雪を流し去り、冬の河川水の異常低下を心配しています。また、信じられない規模の洪水は、あちこちの取水口を破壊しました。一時はPMSの手がけたマルワリード用水路一本でシェイワ・シギ全体が、かろうじて生き延びました。
シギ村は今回の洪水で取水口が機能を停止しましたが、マルワリードの分水だけで十分に生きることができます。シェイワ取水口は、この2週間の作業で、とりあえず十分な水を確保しました。
ダラエヌール渓谷では、地下水が増え、カレーズが復活しているそうです。気になっていたマルワリード用水路のサイフォンは無事でしたが、大量の水が溢れて土石や巨礫を下流に堆積させ、復旧作業は続いています。
ダラエヌール診療所付近で発生したコレラは、次第に下火になり、終息に向かっているようです。数年ぶりに訪れた診療所は以前よりもこざっぱりとした装いになり、職員たちが工夫を凝らし、診療の質の改善とともに、すっかり地域になじんでいるのが印象的でした。「分娩室設置」を要求された騒ぎが収まり、多くの団体が去っていく中、まるで長い悪夢でも見ていたような気がしました。
さて、今年度の最大事業、カマ取水口と主幹水路の工事は、10月に入るや、機械力を集中し、本格的に開始しました。本日(10月2日)、カマ郡の全長老が集まり、10月9日を期して送水を停止、工事を来年3月初旬まで完了、その間、堰・水門・調節池・分水門らの完成を期すべく、日本人の安全を上げて守ると誓い、皆で祈りを捧げました。なにしろ、貴重な小麦収穫を1シーズン分、まるごと放棄するのですから、大変な決意だと思います。
この案件は公的筋の協力が討議されていますが、どちらにしても神と自然を待たせることはできません。あとは全力を挙げて進めるのみです。「やらねばやられる」。長老会の決定は、どんな軍隊よりも恐ろしいものです。そう決めたら、杞憂が吹き飛び、他のことが何だか小さなことのように感ずるから不思議です。
ガンベリ沙漠は確実に緑が広がっています。小生は落花生の収穫に興味があり、尋ねると今年は「数トン」だそうです。稲刈りが来週から始まります。
写真を何枚か送ります。みなさんもお元気で。














★Dr.T.Nakamura★ 中村 哲
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全部で20,000㎡で収穫。2010年9月30日。ガンベリ第一試験農場。