受信日:2010年11月12日


カマ対岸のベスード郡被害の実情と緊急対策

 2010年8月の大洪水は、ヒンズークッシュ山脈を源流とするカブール河、クナール河でも相当な被害をもたらした。PMSのかかわるクナール河流域は、洪水被害が日常的に見られ、暴れ川として有名である。建設中のカマ取水口の対岸は、堰の建設に当たって対岸被害の発生の可能性を考慮し、1.8kmの護岸工事を予定していた。しかし、低水位期の11月になって河道の変化などが明らかになり、護岸工事の場所の延長、工期と工種の変更が求められている。以下、11月8日から3日間と工事前の調査(2008年12月~2010年3月)で得た実態を報告する。

1.第一・第二カマ取水口対岸工事約1.5kmまでの被害と変化
 カマ橋は約40年前、ソ連の援助で作られ、左岸の岩盤掘削と右岸の堤防工事が見られる。堤防は根固め工、高水敷を橋の両端約50mに施してあり、大洪水にも殆んど影響を受けなかった。この下流側に約400m、米国筋の支援でなる護岸があるが、巨石をほぼ垂直に積み上げただけのもので、隙間から浸透が起き、根元の洗掘が発生している。護岸高は橋よりも低い。これに連続してPMSの工事が現在進められている。

 カマ取水口・堰側との間には幅60~120m、長さ約600mの楕円状の中洲があり、2010年夏の大洪水時には完全に水没した。溢水が両岸に起き、カマ側では第一用水路の主幹堤防高を約45~60cm越え、河沿い約300mの用水路が砂で埋め潰された。

 ベスード側でも同様の水位で洗われ、細砂で約30ヘクタールの田畑が埋まり、幅約10~50メートルにわたって河岸が洗掘され、流失している。また、中洲をはさむベスード側主流は水深を増し、中洲の河岸も幅数メートル洗掘されている。低水位の現在、河の流量は中洲でほぼ二分されているが、砂州をはさんでベスード側の方が依然として河床が高い。しかし中洲末端から逆にカマ側の河床が高くなり、ベスード側へ流れ込んでいるのが観察される。

2.1.5㎞地点以後の変化
 護岸工事1.5㎞地点から、上記の二分された主流が合する。ここからクナール河は4つの分流となる。これら四つが互いに絡み合うように流れ、約4~5㎞先でカブール河本流に注ぎこんでいる。左岸にPMSの第二カマ取水口と共に、巨石を積んだ護岸が約2㎞続いている。二年前まで遊水地の河原であった場所が囲われ、河側に大きく張り出している。(地図参照)

 ベスード側で最も被害を受けたのがこの場所で、中でもパプー村は数百名が家を失って退避、テント生活が続いている。この地区は上記地区より標高が10m以上低く、溢れた水が一挙に流入した。村落は2m以上浸水、家屋が流失・損壊した。流された河岸はもともと湿地帯であったが、田畑の冠水は約80ヘクタールに及んだ。

 河床の変化は、主に低湿地帯流失によるものと推測され、クナール河分流の一つが川幅と水量を増し、更にベスード側へ寄りついている。2008年と異なるのは、冬には枯れていた小さな分流が、低水位の現在でも、滔々と流れる主要な分流の一つとなっていることである。かつての沼地は消え、砂礫の岸辺となっている。

3.今後予想される変化
 過去の状態と比べ、明らかにベスード側に主流が寄ってゆく傾向がある。標高もカマ側より低い場所が多い上、土質が柔らかく、年々河岸の洗掘が続けば、おそらく数百ヘクタール、相当な田畑が失われる。また、カマ側に比べて生産力が乏しく貧困である。アフガン政府や援助機関の関心は薄く、今後も大きな護岸工事は期待できない。このままでは、多数の「国内避難民」を生みだす地域の一つとなろう。

4.考察と対策
●確かに対岸・ベスード郡クナール河沿いの広範囲が大洪水の被害を受けたが、住民の主張する「新河道の発生」は今年のものではない。今回の洪水の影響は、主として河に面する低湿地の洗掘と溢水で、河道変化はかなり以前から進行しており、洪水によって加速されたと考えるべきである。同地はカブール河・クナール河の合流地点に近く、河川氾濫が日常的に起きており、住民と灌漑局は昨年から護岸工事を望んでいた。

●護岸工事1.5㎞地点から見られる分流は、2010年11月現在、確認できるだけで4つあり、これらが互いに合流したり、並行して流れたり、複雑に絡み合っている。幅1~2㎞全体が「大きな河川敷」または「洪積平野の形成過程地域」と呼ぶべきで、無人の中洲が延々と連続し、年毎に変化する。川幅を狭める工事は絶対に避けるべきである。

●カマ第一取水堰の影響は少ない。渦巻き型に変化した同堰の越流線は300m以上、自然の川幅よりも広く、2009年夏の高水位時期は影響がなかった。対岸の溢水は河川水の絶対量の増加によると見るべきである。

●カマ側からせり出した堤防の影響は大きい。殊に2007年以降の施工は、遊水地を囲う無謀なもので、クナール河の幅を著しく狭め、今回のベスード側被害を大きくした可能性が高い。


対策

 ベスード側河岸の浸食は広範囲であり、冠水による田畑の荒廃、家屋の損壊でかなりの村落が被害を受けている。かつ年々河岸浸食が進むのは確実で、無視できる状態ではない。しかも2011年3月の増水期まで4カ月、自然時間の制約は動かし難い。対策は自ずと限られる。以下を早急に実施する。

① 防御線を思い切って河から遠ざけ、既存の村落群(居住地)の防衛を第一義とする。

② 冠水で荒廃した河寄りの田畑は、それ以上の浸食を食い止めるにとどめ、半ば遊水地と考えて当面の工事を低水位護岸に徹し、2011年4月以降に高水敷き完成を期する。捨石工と石出し水制しか工種を選べないが、浸食防止はできる。

③ 高水敷きの護岸線を、最も被害の大きかったベスード郡・パプー村まで延長、初期計画の1.8kmから4.2㎞とする。

④ 左岸カマ側の護岸線のうち、遊水地に張り出した部分を100m以上遠ざけるか撤去し、自然の河原を復活させる。これは外国軍当局が絡む問題なので、州灌漑局と協力して実現する。

⑤ 以上のため、2010年12月まで、全行程4.2kmの交通路を一挙に敷設し、石材(捨石工・水制に使う巨石)輸送を2010年11月中旬から開始する。なお、「交通路敷設」自身が高水敷工事の一部となるべく、透水性の少ない材質を使用する。

⑥上記計画実施のため、カマ取水口・堰・主幹用水路の主要工事を早め、機械力をベスード護岸工事に集中する態勢をとる。

⑦政情は現在、相対的におちついて見えるが、毎冬の傾向である。春以降、再び戦乱が拡大し、工事に影響が出る可能性は否定できない。全体の工期をあらゆる意味でも早めるべきである。

以上


河岸を洗掘されて拡大した分流。対岸がカマ郡。 以前は冬は枯れ川だったものが、
常に流れている。2010年11月9日



パプー村の目前にある分流と壊れた家屋群。元湿地が流失している。増水期には
確実に再び村落に浸水する。2010年11月9日



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★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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