受信日:2010年12月18日


事務局のみなさん、

お疲れさまです。

 今年は河川工事の大当たり年、マルワリード用水路取水堰改修、ベスード郡護岸工事、カマ郡の2つの取水堰完成が大車輪で進行中です。
 昨年の今頃、河川工事がなくなってきたことが寂しく思われましたが、8月の大洪水の後始末で、降って湧いたような同時進行の河の工事です。予測はしていましたが、こんな厳しい冬になるとは思っていませんでした。現地活動史上、これほど大規模かつ困難なことはなかったと思います。

 8月から準備していたカマ取水門・主幹水路・調節門だけは、鈴木・ファヒム技師以下、連戦練磨の作業員が群がって進行が早く、年内に大きな工事を終わり、1ヶ月後には送水し、残余工事は「水上工事」でゆっくりできます。開通式は2月下旬か3月上旬です。

 ベスード側の護岸工事は、緊急事態として進められていますが、工事の距離は対岸1.5㎞から4.2㎞に延長、更に約2㎞を追加、計約6kmを目指し、今や泥沼に陥りました。これは、カマ側から突出した外国支援団体の誤った護岸が主な理由です。住民の圧力によって、さすがに工事だけは停止させていますが、被害を与えたカマ側の護岸線を後退させる様子はないようです。地方政府が外国軍当局の不興を買うことを怖れ、自分の国土さえ自由にすることができないのです。
 結局、PMSが泣き寝入り、ベスード側の護岸線を更に後退させ、約6kmを仕上げねば、死亡者を出したタプー村の人々を守れません。

 6㎞の護岸といっても、土石を置くだけではありません。分流や遊水地、水制、交通路らを造りながら、対岸のカマの堰をも守り、かつ大洪水にも耐えうるように適切な構造でなくてはなりません。力は尽くしますが、残された期間は2ヶ月半、出来上がれば奇跡です。
 せいぜい4㎞前後が吾々の能力の限界、最後の2㎞は夏の増水期を一時的にしのぎ、最終仕上げを2012年まで持ち込む可能性が高くなってきました。

 さて、今週の話題は何といっても、マルワリード取水堰の大改修に目鼻がつきかけていること、ガンベリ試験農場で化学肥料・農薬の全廃を打ち出したことでしょう。実は、今冬最大の課題がこの改修工事でした。12月初旬になって河川敷がさらに見え始め、予想を超える変化が明らかとなりました。その凄まじさは先の報告をご覧ください。
 取水口の水位は下がり続け、一時は「ガンベリ開拓は不可能か」とまで危惧されました。小生も、「万が一の場合」を考えないではなかったのです。
 12月5日に手持ちの重機をはたき、改修工事を始めたものの、生やさしいものでないことを知りました。しかも、カマからマルワリード取水口まで約40㎞、たとえが悪いですが、まるで太平洋戦争のように広大な戦線となり、鈴木学がビザ取りに一時帰国した1週間は地獄のようでありました。

 しかし、河を相手にし始めて7年、これはカマ取水堰やベスード護岸工事と並んで、私たちの河川工事の総決算と言うべきです。この一週間、他の作業場所をそこそこに見回るだけで、専らマルワリード堰の現場に張りついていました。大河クナールの分割処理は、カマ第一取水堰の経験を生かし、流量と傾斜を巧みに配分し、見通しがついてきました。夏の激しい洪水への備えを思うと、その焦りは言葉では尽くせません。1週間が1年に感じました。

 結局、筑後川で見られた「舟通し」の着想を入れ、微妙な高低差をとって主流の回復が成りつつあります。日本から見れば何でもない工事のように思えますが、井堰建設の技術が江戸時代に確立していたことに改めて驚きました。工事は1カ月で完了できます。現在、かさ上げされた取水量は豊富で、ジャリババからシギ村末端まで、延々30㎞以上、途切れない中河川のように流れています。マルワリード用水路流域3,500ヘクタール、特にガンベリ沙漠の渇水は、ここに最終解決を迎えつつあります。

 今週は主に、マルワリード井堰再生をお伝えします。農薬と人工肥料の全廃については重要、充分な説明が要りますので、次回お伝えします。

平成22年12月17日




12月5日、着工直後の現場。予定を早めてマルワリード井堰の改修を開始。
主流化した護岸背面を埋め、中州を復活させる工事。といっても完全な主流閉塞は不可能。
浅い傍流に仕上げて残し、クナール河を4つに分割、無理なく旧主流を復活する方法を採用した。



12月16日現在。掘削した新傍流の礫石で中洲右岸側を埋め立ててゆく。
新傍流は広く浅く、幅50m以上をとってダンプと重機の往来を妨げず、
掘削で得た礫石は埋め立てに使う。こうして拡大しただけ中洲右岸が回復する。
旧主流は更に2つに分割され、河の通過幅を狭めない。堰上がりは現在例年並みに戻り、
用水路流域の渇水を免れた。しかし、余り上げると夏の洪水被害が起きる。その分は
新傍流の掘削と斜め堰の余水吐き(砂吐き)の幅で調整できる。
実作業日数10日、作業の見通しがついてきた。



基礎工事に不可欠な巨石の輸送が不可能。そこで籠の中に石を詰め、
人海戦術で2000個を組み、巨石の代用とする。
その様は、巣を壊されたアリが群れて住まいを直しているのに似ている。ここでは人もアリも、
大自然から見れば大した違いがない。2010年12月16日



カマII主幹水路一段目の最終仕上げ、漏水対策と流速増加のためにソイルセメントで
隅を埋めつぶす。こうすると、粗度がコンクリートに近くなり、低水位のときでも
多量の送水ができる。これまでの経験的な知恵のひとつ。
ソイルセメントは優れた素材で、施工が簡単である上、水際の植物の成長を妨げない。
2010年12月15日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


← 前の報告へ ○報告トップへ○ 次の報告へ →

Topページへ 連絡先 入会案内