受信日:2011年2月24日


事務局のみなさん、

お疲れさまです。
 増水期を直前に緊迫していますが、河川工事はほぼ予定通り進んでいます。
 「カマ」は、8年間の努力の蓄積の一つの頂点だと思います。このところ見学者が多く、カブールからも技術者がやってきます。PMSの心算としては、この気候変動の中でアフガン農民が生きのびる術は、取水技術の改善以外に考えられないとして、歓迎・説明することにしています。
 暗い事件や戦争のことばかり報道されますが、人々の生活はなかなか伝わりません。
みなさんの努力と協力に感謝します。

 鈴木、村井くんたちは17日に帰国、少しさみしくなりましたが、あと一息です。今回の「冬の陣」は、例年になく作業地を多く抱え、厳しい事態が続きましたが、無事に終局を迎えつつあります。昨夏の大洪水の後始末で、沈砂池の浚渫、ダラエヌール渓谷土石流路の処置、シェイワ取水口のための河道復活、マルワリード用水路取水堰の改修が加わり、文字通り「治水」に追いまくられた秋冬でした。おまけに戦雲あやしく、3月には政情混乱で工事中断もあり得ると想定、現場の動きを身軽にするため、緊急に鈴木学ひとりに現場の助っ人を絞り、二月下旬までに全ての川周りの仕事を終えるべく努力しました。

 現場はまさに戦場のような状態ですが、日本側ペシャワール会も記録的な募金で、大きな励みとなり、思う存分やることができました。更に現場の方では、8年間鍛えた作業員たちの精鋭をそろえ、ジア先生の事務所改善が威力を発揮、驚くほど手際のよい仕事でした。カマとベスードの長老会の全面協力も欠かせぬ大きな支えだったと思います。この半年間は、洪水に始まり、波瀾万丈でしたが、こうして皆が一致協力して集中できたことが最大の力だと思います。詳しくは過去の報告をご覧ください。

 カマ取水口(堰・水門・主幹水路・調節門)は95%以上完了し、残るは用水路壁のふとん籠上段150m、水門番小屋、植樹(柳枝工)500mほどです。ほぼ化粧の段階です。3月下旬に竣工式を行うべく、現在調です。

 ベスード護岸は2月23日現在で、夏の河道に面する3,500mの基礎護岸を終えました。昨夏の大洪水以上のレベルを想定して、余裕高を洪水レベルより1.5m以上とり、上部施工の段階となりました。現在、中心河道の復活が最大の焦点となっています。二週間後には工事不可能とみて、機械力を集中し、帰国予定を延ばしました。

 マルワリード用水路取水堰の改修(平成22年12月6日開始)は、平成23年1月1日の騒動で中断していましたが、2月8日に再開、2月13日に一応の終止符を打ちました。2010年度の河川工事の規模は、PMSとしては過去最大となり、ガンベリ沙漠開拓とマドラサ寮建設に多少の影響が出たものの、無事にここまで来れたのが奇跡のように思われます。感謝の至り、改めて心から御礼を申し上げます。

 増水期が迫り、河川工事はまもなくできなくなります。そこで、最後の力をふりしぼり、河に張りついての毎日です。実はこれが最も難題でありましたが、2月14日になって河道復活路を決定、マルワリード取水堰から転じて、直ちに工事に入りました。これを終わらせてから一時帰国したいと思います。

 毎日クナール河の流れを相手にしていると、ひたすら水の理に従う日々です。人の世が遠くに感ぜられます。戦乱の噂も、日本からの頼りも、何だか遠くて哀しい別世界のようです。
平成23年2月23日




ベスード側への水量は、かすみ堤によってさらに細分割される。
かすみ堤とは、不連続な堤防で、洪水路を小さく分けて被害を最小限にとどめる方法。
通常の護岸が連続してくっきりした線を描くのに対し、護岸先端が
遠くからかすんで見えることから、この名があるらしい。洪水を完全に制御することはできない。
小さく暴れてもらって、仲良くする。武田信玄が釜無し川で行ったので有名。
確かにかすんで見える。2011年2月22日



掘削中の河原の巨石。教科書通りだと秒速3~5mの急流が通過したことになる。
土、石、砂は本質的な差はなく、サイズの大きさで分類されているだけだ。
礫石25㎝以上を「巨石」と定義するらしい。重いものは激流にも残り、軽いものは流される。
重いものは沈み、軽いものは表面を漂う---と、ひとくさり言いたいが、実は施工者泣かせ。
掘削はなかなか進まず、春の増水期を前に緊迫、石や水との格闘が続く。2011年2月22日




排水門の試験開放。流路の水深55㎝(池の水深105㎝)で全開した時の状態。
毎秒十数トンの水量が流れる。排水管内の流速は測量が困難。
早すぎてストップウォッチの測定誤差が大きすぎるのだ。10mの管内を1秒以下で水が通過する。
通潤橋の浚渫排水に似て壮観なので、みな喜んで見る。2011年2月23日



★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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