受信日:2011年4月22日


事務局のみなさん、

 お元気でしょうか。震災のニュースを見ながら、日本もこれからが大変なのだと思っています。

 やっと夏の工事のめどがつきかけ、4月末に一時帰国します。思えば昨年9月中旬から2度だけ、ごく短期にビザ更新に帰っただけでしたが、8か月前の状態を思うと、夢のような気がします。この間の工事のもようは会報で伝えたとおりですが、重要な改修工事をほぼ完了し、何とか難局を乗り切ることができました。

 現在、ガンベリ地域では開墾・灌漑事業が着々と進められています。分けても大きかったのは洪水対策で、排水路の設置は本水路建設以上に手を焼きました。ベスードの夏の護岸工事(天端造成と排水設備など)は、今週から軌道に乗り始めました。マドラサ寮は諸般の事情で建設を急ぎ、再び突貫工事です。来週中に仕上げて「譲渡式」を行い、活動の前線をシギ・ガンベリにまで後退させます。

 これはPMS職員の安全対策があるからです。マルワリード取水口のあるクナール州ジャリババから、用水路4.5㎞地点のスランプールまで、「ISAFと武装勢力との交戦」が時々起きるようになり、近隣農村に住む水門番以外は殆ど立ち入らなくなりました。警察・軍関係への攻撃が一段と増え、一般住民の間では、反欧米感情がいつになく高まってはいるものの、現在のところ冷静です。「武装勢力との交戦」にしても、今ひとつ腑に落ちない点があり、最近の情勢は20数年前のソ連軍撤退前夜のペシャワールを想起させます。工作が何者かによって行われたとしか思えぬ事件も時にあります。いずれにしても、巻き込まれぬよう、細心の注意を凝らしております。

 しかし自然は、騒々しい人の営みに全く頓着なく、季節を巡らせます。麦秋を迎え、初夏の陽ざしが強烈となり、来週中に小麦収穫が一斉に始まります。最近の最大の話題は、何といっても小麦価格の急落です。この6週間で小麦は1㎏当たり50ルピーから41ルピー、約2割落ちました。この理由は、カマの小麦豊作が確実になり、ガンベリやシギで広大な小麦畑が急速に拡張しているからだと言われます。実際、ペシャワールやカブールではそれほど変らず、ジャララバードだけで起きている現象です。ジャララバードの人々は穀類の買出しを直接、シギやカマに求め、商人による買占めが無意味になったからだと説明されています。一般庶民の支出は大半が食費に充てられるので、この話が本当なら苦労のかいがあり、嬉しい限りです。

 来週中に、ベスード第一取水堰・取水門の測量とマドラサ寮の譲渡式を終え、カマ対岸の夏の堤防工事の滑り出しを見届けて帰国します。事業の派手な進行でジャララバードのPMS事務所の奮闘が伝わりませんでしたが、ジア医師以下一丸となり、事業を支えています。往時のたるんだ管理を一掃し、見違えるようになっています。

 月末から本報告もしばらく途切れますので、今回は数回に分け、少し詳しく現状をお知らせしておきます。最近は鈴木の持ちこんだペンタックスK-5のおかげで、ビデオ映像がふんだんに撮れるようになりました。送信はできませんが、事務局でお目にかけます。 どうぞ皆さんもお元気で。
平成23年4月21日




小麦の大豊作。マルワリード用水路P区域(19㎞地点)からの眺め。
3年前まで半砂漠地帯で、下手は逆に湿地が広がり、荒涼とした光景だった。
今、湿地も乾燥地も完全に消え失せ、豊かな実りを約束する。
これを見れば小麦価格も安くなるはず。2011年4月21日



ガンベリ第一農場(C区画)。小麦畑の地平線。農場の区画は100m毎に分水路を引き、
少しずつ灌漑を進めている。第一農場の一区画は長辺1.3㎞、短辺100mの
長方形(13ヘクタール)。下流に向かって末端まで歩けば20分かかる。
麦畑の畝の隙間にスイカが植えてあり、小麦の収穫に続いて西瓜、さらに早苗がそろい、
田植えと続く。農事も結構忙しい。麦は熟成直前2週間前後の灌水が収穫高を決める。
刈取りは人海戦術で一気に行う。突然の雹(ひょう)や熱風が、一瞬で収穫をふいにすることも
あるからだ。この時期、みな給水に敏感、気が立ってくる。2011年4月21日



旧O分水路の拡張工事。ガンベリ沙漠を襲う洪水は、当然低い場所を狙って流路を作る。
開拓地では、東側の岩盤を下る鉄砲水が脅威である。その主な対策は、
近くの谷ならP、Q2、Q3らの大きな池で受け止めて岩盤直下の被害を減らし、
遠くの谷から集まる流路は、場所を決めて用水路を乗り越えさせる。用水路は部分的に
埋めつぶされるが、1年に二度も三度も来ないので、皆で浚渫すればよい。
さらに、植林を密に行えば、洪水速度が落ち、致命的な被害は減る。暴れる水は制御できない。
分散して逃げ道を与え、速度を落とし、通り道に住居を置かぬことに尽きる。2011年4月19日




カマ対岸・ベスード護岸。
増水期の最大の関心が、対岸の護岸である。堤防は、かろうじて冬季の基礎工事を終えたが、
完成していない。適切な高さの天端(堤防頂点)造成と、場所によっては裏法(堤防の陸地側斜面)
の浸透水対策が必要である。写真;護岸1,700mまでは通常の連続堤防。
昨夏の洪水直後の荒れた様子はなくなった。二段の捨石工はかなり強いが、
下段にヤナギ、上段にユーカリを植えて壁を強化する。いずれも水辺によくなじむ樹木で、
洪水に対する強さは経験済み。堤防が交通路として評判が良いのは意外。2011年4月17日



★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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