受信日:2011年4月23日


事務局のみなさん、

 植樹シリーズです。

 敵を知り己を知らば、百戦危うからず。

 皆さんは、木は植えるだけで独りでに成長すると思っていませんか。私たちが取り扱う木は限られた種類ですが、それぞれに違う性質があり、世話の仕方も異なります。8年でやっと分かりかけてきました。ヤナギに始まり、クワ、ユーカリ、ガズ(紅柳)、オリーブ、ビエラ、ポプラ、ザクロ、イチジクと、多彩になり、最近では農場の一角に大きな育苗場を持ち、オリーブ以外はほとんど他所から調達することがなくなりました。

 この1年の植樹数は約15万本、これは用水路第一期工事4年間を上回るもので、1年後には総植樹数が100万本を超えます。事務局の方から植樹について質問がしばしばありますので、総集編をお送りします。
 資料が膨大なので、要点だけ分けてお知らせします。


平成23年4月22日


沙漠の防風・防砂林、「ガズ」
ガンベリ奇景。ガンベリ沙漠は幅約4㎞の長い渓谷で南北約20km、
ラグマン州とナンガラハル州が境を接する。マルワリード用水路で開拓が可能になった面積は
約1,000 ha。うち180 haがPMS農場に充てられている。だが、ガズの防風防砂林なしに
開墾は不可能で、現在長さ約5㎞、幅300m(150ha)で成長している。沙漠北側にある
ケシュマンド山麓の険しい岩盤に対し、南側はなだらかな「砂利の丘」が延々と続く。
玉砂利と赤土の混ざり合った材質は強くて遮水性に優れ、水路・護岸・交通路など、
至る所で使用されてきた。向こうに見えるのがスピンガル山脈(標高4,000m前後)。
高山の白雪、茶褐色の山肌、濃紺の天空、里の緑が、アフガンの基本色。2011年4月16日



上の写真から約2年前。植樹直後1カ月の状態。成長の速さ、恐るべし。2009年3月25日



給水塔の建設。防風防砂林150ヘクタールは、水路からかなり離れた場所に帯状に
植えられている。灌水は、川や用水路沿いなら作業員の手でできるが、広大な地域は
散水車に頼ってきた。だが散水車はコストが高い上、非能率である。砂防樹林帯と用水路の
標高差は2~5mに過ぎないので、一時全廃したポンプを復活させた。それでも、
ホースが200、300mになると、管内抵抗で水が届かない。結局、
灌漑井戸のタービン式揚水機で給水塔に上げ、小水路に流すのが最善。
樹林帯の最も高い位置から流せば、70%をカバーできる。深井戸からの汲上げでないから、
エネルギー効率は抜群。やはり地球の引力=自然の力が主役なのだ。2011年4月20日



12年前にタリバン政権の手で植えられたガズの林。
かつてガンベリの沙漠最前線だったが、前線はさらに3km沙漠側へPMSが進出。ガズの林は
約6mに成長していたのに、開拓に伴う灌漑排水、浸透水らが含水層を上げ、成長が停止、
株の近くから小枝を盛んに出し、高い部分の葉の色がやや黄ばんでいる。排水路の掘削で
ガズの根を見ると、見事に浸潤線のところで根の生育が止まっていた。この場合は、
ユーカリかヤナギで置き換えるか、土地を適度な湿気に保つ処置を行う。ガズは木質が固く、
防風・防砂林だけでなく、薪としても優れている。2011年4月23日

【右下写真:川辺に自生するガズの『花』。ガズは中国名で紅柳という。
乾燥地では10m以上の高木になるが、多く水を与えると成長せず、灌木化する。
根が含水層に達すると成長をやめるのだ。ガンベリ沙漠では格好の防砂林として
活躍していたが、水路が到着すると浸透水で含水層が上がり、既存の高木の根株から
脇枝が異常に出て、上に伸びなくなった。かつて、水路脇に自生するのを警戒して
除去していたことがある。今となっては笑い話だが、土手に10m近い高木が生えると
土ごと倒れて水路を壊すと怖れていた。しかし、乾燥にはめっぽう強く、水やりは控えめがよい。
ガンベリの砂防林5㎞・150ha、数万本の灌水は、数の割に手間がかからない。
2010年6月17日 カマ取水口にて】



★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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