事務局のみなさん、
お疲れさまです。
ベスード護岸の要が決壊寸前となり、砂嵐騒ぎが一段落つきかけたら、今度はガンベリ沙漠に集中豪雨で鉄砲水。
まるで自然災害の隙間で生活しているような気がします。
鉄砲水の襲いかかる場面は、二年ぶりに目撃しました。ほんとにあっという間で、小さな津波が押し寄せるようです。久しぶりに、用水路後半の部分をゆっくりと回り、驚くような変化も見れました。明日、洪水対策の効果、ガンベリ沙漠緑化の画像を送ります。
現場にいると、米軍撤退は話題にもなりません。
こちらは専ら、自然との共存の営みに明け暮れます。
次から次と、ことの多い所ではありますが、以下、今後のなりゆきを理解するため、現在のPMSの仕事の状態を、まとめてお伝えします。
「もういい加減に」と思われるかもしれませんが、休み休み、根気よく読んでください。これは開拓の報告と云うだけでなく、日本人のご先祖様の努力の歴史を追う作業でもあります。
米軍撤退をめぐるアフガン情勢は、巷でとかくの議論に対し、「天網恢恢、疎にして漏らさず」と言えるのみ。実は政治を論ずる暇がないのです。仕事は極めて厳しいですが、政治と無縁な別次元で自然と対峙しています。
ベスード取水口の準備工事が始まる
やっとベスード取水口の準備工事が始まりました。本工事は河の水位が下がる10月から翌年2月にかけて、一挙に行われますが、この準備を周到にしておかないと、短期の河川工事は不可能なのです。ベスード郡はカブール河とクナール河、それらの合流点に挟まれ、全体が三角形の地形をしています。このうち、カブール河から約3分の2、クナール河から約3分の1が取水されているとされています。何れもPMSが過去仮工事を行い、急場しのぎでかろうじて灌漑を維持していますが、この際、一挙に完成まで持って行き、安定した取水を維持しようというわけです。
今年度はJICA共同事業として、カブール河取水口の建設を目指しています。これまで4回にわたる堰の応急処置を行いましたが、資金難と他の工事に忙殺され、手が出せませんでした。
ベスード郡は耕地三千数百ヘクタール、人口約15万人と言われています。同郡全体が平皿状の盆地で、クナール河の標高はベスード郡中心部より高く、しばしば洪水被害に見舞われました。特に昨夏の大洪水は、クナール河分流のベスード側を主流化させ、危機的になったことはお伝えしてきた通りです。
そのため、昨年はクナール川沿いで3.5㎞の護岸工事を進め、今夏予測された悲劇的な事態を、かろうじて避けています。洪水を防ぎながらカブール河側では取水口建設を行うという、二正面作戦になっています。
今回手を付けようとしているカブール河側の取水堰・主幹水路は、昨年のカマ取水口に比べると、規模は小さいですが、別の難しさがあります。
1.水量が少なく、洪水よりは晩夏に訪れる渇水対策が中心であること。
2.地形上、これまでのような交通路確保が容易でなく、本工事に劣らず準備工事に手間がかかること。
3.上流約5㎞地点にあるドゥルンタ・ダムは、現在同じく深刻な渇水状態にあるスピンガル山麓に多くが送水され、夜間発電のためだけ、ベスード側へ放水される。このため、昼夜の水位変動を十分に考慮せねばならない。
以上の次第で、交通路敷設が夏の工事の最大のポイントで、作業地から8m高い道路脇から下る支線(約300m)を現在建設中です。
クナール川沿いのベスード護岸危機一髪
去る6月27日夜半、小規模な洪水がクナール河沿いを襲いました。各地で河川の異常増水が確認されましたが、いずれも大事には至りませんでした。肝を冷やしたのは、主要作業地の一つ、ベスード護岸です。閉塞した筈の洪水進入路に異常高水位が迫りました。6月28日から突貫工事態勢をとり、かさ上げ工事を急いでいます。ここが破られると、昨年冬から進めていた膨大な努力が水の泡となり、ベスード郡の半分が浸水し、悲劇的な事態となります。住民は一斉退避し、かたずをのんで見守っています。さすがに眠れず、策をめぐらせました。7月1日から水位が下がり始め、一応の山を越えつつあります。
それでも、昨年のような悪夢のような出来事も起こり得るので、工事を念入りにやっています。
ガンベリ沙漠、鉄砲水第一弾
他方、ガンベリ沙漠では、砂嵐の季節が過ぎると、洪水と局地集中豪雨の季節です。これによる鉄砲水対策を昨年12月から進めていましたが、7月3日、早くも第一弾が到来しました。これで吾々の準備が試されました。概ね予想通りでしたが、部分的に見直しを迫られています。また、排水路工事も中途であり、この重要性については、次回述べましょう。いずれにしても、「用水路開通」だけで喜ぶのは、まだ早計、相当な努力と年月をかけねばなりません。
1.熱風と砂嵐対策=防風林
2.集中豪雨と鉄砲水(洪水)対策=主幹水路の保護と遊水地
3.湿害処理=排水網
以上が当分の主な仕事です。確かに根気が要りますが、ここに至り、「ガンベリ開拓の大方針が定まったことが、大きな成果だ」と言えるようです。
このため、当分、公的には農業事業を掲げず、依然として灌漑事業を中心に展開していることになっています。「ガンベリ村落共同体」と自立定着村構想は、開拓事業の中で自然に醸成されてゆくと考えています。
しかし、ガンベリ沙漠とその下流にある湿地が完全に耕地になると、1000~1500ヘクタール以上の農地が新たに生まれることになり、地域にとっては大きな恵みとなります。さらにおまけがあり、シェイワ郡の半分を占めるシギ村落郡の農地全体が完全な二期作(小麦・トウモロコシまたはコメ)を実現できます。広大な同村落郡は、取水口の機能が長いこと麻痺していて、水を全面的にマルワリード用水路に頼っています。それでも、起伏した地形のため、一度に万遍なく給水するのが困難だったのです。ガンベリの給排水路が整備されると、これまでのように配水の順番を待つ必要がなくなり、タイミングよく穀類や野菜の植付けができるようになります。
おそらく、私たちの祖先も、このような努力を営々と積み重ね、現在の国土を築いてきたのだと、最近実感しております。海岸の白砂青松、豊かな稲田、鎮守の森、海の幸・山の幸が溢れる「瑞穂の国」の美しさは、人々の汗と労苦の結実だったと、しみじみと思っています。
平成23年7月3日
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(2011年6月19日)