受信日:2011年7月4日-(2)


事務局のみなさん、

昨日の鉄砲水の写真を送ります。
先日砂嵐の報を送りましたが、改めてガンベリ沙漠全体を眺め、着実に緑化が進んでいると思いました。
根気の要る排水路建設、植樹、湿害処理などの地味な仕事は、どうしても表の華やかさに隠れてしまいますが、時間がかかることを痛感しております。
みなさんの、辛抱強いお支えに感謝します。


平成23年7月3日




(資料)

ガンベリ沙漠・シギ村周辺排水路要図 橋と水門位置 2011年7月現在





2011年7月3日午前7時、2か月ぶりの降雨は、ケシュマンド南麓だけに発生し、鉄砲水がガンベリ沙漠開拓地を直撃した。恒例のできごとで、特別なことではないが、10ヶ月をかけて作ってきた洪水路、主幹水路の保護対策が試された。写真は沙漠横断路1500m地点の洪水通過路。

主幹水路と洪水路の交差する直前に広い窪地の遊水地を置き、速度を落として泥土流入を最小限に抑え、水は水路内に取り込む。それでも溢れるときは、同地点の水路壁を低く取り、溢れるに任す。多少の冠水はあっても、大被害を免れる。(2011年7月3日、鉄砲水通過後一時間の状態) 窪地に蓄積する泥土は肥沃で、後で試験農場に運ばれる。



1100m地点の「洪水通過橋」。幅20mで急傾斜をつけている。こちらの洪水路は砂を多く含むので、お通り願う。
2011年7月3日



こちらも上流側は長い窪地を作り、1100mまでの鉄砲水を集め、ここで通過させる。密集した植樹は鉄砲水の緩流化に大いに役立つ。900m木々の間をくぐってくる水は到着するまでに激しい流れでなくなる。
2011年7月3日



同地点から上流側を望む。1100m地点までは、かつて小さな洪水路通過地点が3~4本あり、降雨の度に砂で埋まり、浚渫に泣かされていた。洪水側の土手を高く取って植樹を密に行い、樹林帯の中を洪水が水路沿いにくぐり抜けて通過橋に集まる仕組み。この樹林帯は肥沃な土が蓄積し、木々の成長が驚くほど速い。植樹から二年、ヤナギ、ガズ、ユーカリがはち切れんばかりに伸びる。
2011年7月3日



(写真A)昨年数度にわたる鉄砲水は、下手の入植者を震え上がらせた。すでに住居がひしめき合う状態だったので、住民を説得して遊水地を多くとり、洪水を分割して流す方針をとった。多少の改修は必要だが大局はOK。これで住居群は守られている。

S1(横断水路始点)からの緊急排水路と上記洪水通過橋(S2)の多くが通過する。Q岩盤直下にあり、ガンベリ沙漠中で最も低い場所。岩盤沿い大池からの浸透水・排水路としても機能している。流路は同部の灌漑用水も提供する「多機能水路」。
2011年7月3日 



洪水路記録の撮りついでに、いつも気になる大池の現在を伝えます。Q3大池の現在。造成から二年を経て風格あり。一般に、鉄砲水にさらされる場所は、木々の成長が速いのが特徴。左からユーカリ、ヤナギ、クワの木の林。ユーカリは水辺で旺盛に成長すると共に、乾燥した岩の隙間でも育つ。
2011年7月3日



同Q3大池からガンベリ沙漠を望む。用水路沿いに緑が広がり、砂の平坦部が黒土に変わっているのが分かる。洪水も流れ方によっては悪いことばかりではないのだ。
2011年7月3日



Q2大池の現在。二年前とは見違える。用水路中で最大の物量を要したこともあって、つい何度も見たくなる。土手の木々が確実に根を張り、浸透水は完全に処理された。何だかむか~しからあったような-------- もはや集中豪雨は怖くない。
2011年7月3日



同岩盤地帯から平和ヶ丘を遠望。丘のふもとの柳の列が砂漠横断・用水路。左手ガズの防砂林。沙漠が消え、耕地が徐々に整備されている。
2011年7月3日



PMS試験農場遠望。遠くの緑の縁取りが砂防林。それに囲まれる手前の土地がPMS農場。砂嵐が暴れたとはいえ、確実に耕地化が進んでいるのが分かる。手前の緑は、早めに住み着いていた移住者たちの住居と耕作地。ガズの木にとって代わり、ユーカリとヤナギの成長が著しい。地下水位が徐々に上がってきているのだ。
2011年7月3日。



(写真B);写真Aの地点で分割された洪水排水路の再合流地点。一つはO分水路と合し、ここで合流する。ここで各分水路のはざまにある耕地と住居は、全て湿地化・鉄砲水被害を免れ、人里は安定した。移住者の多くはラグマン州のパシャイ族。

故郷で敵を作って荒野に逃れていたクナール州、ローガル州出身者、干ばつで定住を決めた遊牧民はパシュトゥンと、雑多な構成である。これにPMS職員が加わる。皆、水路の存在なしにガンベリ沙漠開拓が進まないことが分かってきたので、誰も吾々と敵対せず、協力を惜しまない。自立定着村は目に見えないが既に存在しているのだ。
2011年7月3日



(写真C);上述写真Bの合流地点から400m、平和ヶ丘からやってくる洪水路が合流する。これが旧称「マッチ棒池」方面に下り、処理された湿害地を貫通する主幹排水路に連続する。
2011年7月3日



上述の写真C合流地点に注ぐ平和ヶ丘からの洪水排水路。PMS事務所の村井くんが、この一連の洪水の写真を見て、初めて位置関係と重要性が分かったそうです。まるでジグゾーパズルのようですが、暇ひまに地図を見て楽しんでください。



シギ村を貫通する主幹排水路の改修工事は営々と続けられている。すべてのガンベリの灌漑用水・集中豪雨の水が、ここに流れ込み、最終的にクナール河へ戻る。既存の村落を通るので、交渉を重ねながらの難工事。すでに開始から3年を経て、なお必死の努力が続けられている。

一部報道に「灌漑計画終了」とあったが、悲しい誤報。即席に事が成るは紙上のみ。短気軽薄の気風、目に余りあり。亡国の兆し――と言いたいが、言葉は虚し。吠えても灌漑は進まない。
2011年6月20日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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