受信日:2011年7月8日


事務局のみなさん、

暑くて目まぐるしい日々が続きますが、元気です。
今度は突然、渇水が至る所で起き、てんてこ舞いです。
ここまでいろいろとありますと、もう言うことがなくなってきました。
今年も、厳しい年になりそうです。


いやはや、極端な所です。先週まで洪水を心配し、ベスード護岸の突貫工事態勢をとったところ、今週はあちこちで渇水が起き始めました。それも、例年なら最も水量が多い7月初旬です。PMSの工事現場付近だけで、軒並み渇水に見舞われ、今度は一時堰き上げに奔走しています。

ジャララバード市内では、地下水の異常下降が観察され、カブール河沿いでさえ2~3m以上、この2週間で下がっています。

ちょうど準備工事が始まったばかりのカブール河側のベスード取水口、かさ上げ工事中のベスード護岸(クナール河側)は、突然やってきた渇水で皆が動揺しています。PMSが手がけたマルワリード、カマの取水口だけが悠然と水を湛え、おかげで取水技術の優秀さが知れるところとなったものの、手放しで喜べる話ではありません。

今秋本工事を予定しているカブール河側のベスード取水口は、一週間前から急激に水量が落ち始め、7月2日までに上流側の用水路が干上がり、下流側も数日前から半分以下に水が減りました。今年は異常な少雨です。この3ヵ月間で雨らしい雨は一日だけでした。ガンベリ沙漠の鉄砲水は、まさかと思うくらい限局したもので、ナンガラハル州・クナール州・ラグマン州共に、渇水が続いています。カブール河の水量は、本流がとっくの昔に枯れ川となり、パンジシェール渓谷やラグマン(ケシュマンド山麓)などの支流から流れてくるものが主でしたが、何れも激減しているそうです。

今までも、7月・8月に仮堰き上げをしたことはありますが、ここまで広範囲でいちどきに下降したのは初めてです。それでも、PMSの工事現場付近で起きた所は、吾々が努力するだけまだマシだと言わねばなりません。水稲の植付けはあちこちで影響が出るでありましょう。また、地域によっては、飲料水にも事欠く有様です。

 当方としては「誰でもいいから、この状態を何とかしてくれ」と言いたいところ。水利施設どころか、外で見かける外国団体は、宿舎のお隣にあるICRC(国際赤十字委員会)くらいのものです。灌漑局長を除けば、行政の役人さえ恐れて外出しません。ここに至って、「治安権限移譲」とは白々しい話。退却を「転進」に、敗戦を「終戦」に言い換えたのと同じレベル、気持ちは分かるが、せめて建設的なものを残せば恨みも減ったろうにと思う日々であります。

ベスード取水口工事の交通路は、やっと来週中にめどが付きそうです。先ずは仮工事で堰き上げを助け、秋の本工事に向けて準備を本格化させます。暑い日々が続きますが、みなさんもお元気で。



平成23年7月8日


ベスード第一取水口。村人総出の仮工事。石材輸送の交通路がないので、河原の石を集めて籠に詰める。これを巨石の代用にして堰き上げを行う。同地には二本の取水路があり、手前が下流側。
2011年7月6日



一昨年前と異なるのは、洪水の影響で中心部が深くえぐられ(測量で水深3.0~4.0m)、川に浸かって人力で籠を並べることができないことだ(次の写真参照)。やむを得ず掘削機で籠を抱えて投入する。写真はPMSが4回にわたって繰り返した堰の残骸。長さ80mのうち中心約40mが洪水で破られ、残った両端が水制の効果を生み、深掘れを著しくしたもの。
2011年7月6日



2008年7月25日の作業風景。クナール河と違って、まだ人が浸かれる深さで緩やかな流れだった。深掘れで、もうこんな作業ができなくなったのだ。しかも、この時より更に水量が落ちている。取水路は二つあり、岩盤直下に上流側、手前が下流側。この二本でベスード郡の70%を潤す重要地点。みな必死なのだ。



取水口は崖沿いを走る国道から7~8m崖下にあり、ダンプカーを入れる交通路がない。現在その建設を進めて3週間、やっと来週中に開通の目途が立ってきた。開通すれば、直ちに石材輸送を開始、堰は短期間で仮工事を終える。PMSの作業がなければ、大変なことになったはず。
2011年7月6日



法面保護のふとん籠工は、日本でも道路沿いで珍しくない。場所によっては植樹を行い、更に壁面を強化する。現地では、他に選択肢がないが、これはこれで、頑丈である。PMSは今や、水回りはもちろん、農業、植樹、モスク、学校の建築、架橋、蛇籠・井戸枠の生産、道路工事まで、何でも作る建設集団。水のように変幻自在。400名の作業員は全て熟練工だ。50℃の炎天下で黙々と働く彼らが、PMSの底力だ。
2011年7月6日



排水路整備が拡大し、土管の需要が増してきた。場所によっては大げさな工事で架橋せずとも、小さな水路なら管で行ける。井戸枠のモールドを利用して、量産態勢を取ろうとしている。写真は製造後の養生用プール。できた直後のコンクリート管はできるだけ長く水に浸すと強度が増す。
2011年7月5日



アルファルファの定着が最近のクリーンヒット。別名ムラサキウマゴヤシでマメ科の植物、牧草としては一級品。懐古趣味でレンゲを試みたが、うまくゆかなかった。問題は土壌にあるらしく、酸度が低い現地には向かないらしい。アルファルファ原産地は中央アジアで、原種は「シャフタル」といい、広くアフガン中で栽培されるが、茎が中空になっていて、貧弱に見える。日本種は原種より栄養価が高く、季節を問わずに播種できる。実際に見ると、日本のものより草丈が高く、生き生きとしている。やはり先祖の故郷なのだ。ダラエヌールでは、利害も絡み、種を集められなかった。現在、種を蓄え、いずれ盛大に雑草化させる。雑草なら誰も私物化しない。遊牧民も呼び寄せれる。
2011年7月5日 ガンベリ農場



クナール河の突然の低水位。締め切り堤のかさ上げ工事直後に発生した河の水位低下。堤防の前に置かれた水制が先端の洗掘を起こすと共に、水制間に土砂が堆積、堤防を保護しているのが分かる。激しい水位変化は、掘削した中心河道の一部(第3分流)が決壊して、洪水進入路に迫ったものらしい。二日で約1m水位が下がった。これに対して、カマ第一堰の水位変動は、十数㎝に過ぎず、驚くべき安定を示した。
2011年7月6日



ベスード護岸・連続堤防の植樹と水やり風景。水辺で旺盛に繁殖するヤナギとユーカリも、初めはただ根気。アフガン人は植樹好きだが、ポンプを禁止してバケツで水やりし始めて、活着率が飛躍的に向上した。愛着がわくのだ。植樹と言えば、植えるだけと思っている人はいませんか。土地に合ったものを選び、一本一本手塩にかけて育てる。川辺でも最低1~2年、水やり、動物からの保護、剪定、土入れ、弱った苗木の補植などが要る。こうして、やがて対岸左手に見えるような林ができ、洪水を和らげる。10年、20年かけてこそ、後に遺るものとなってゆく。
2011年7月5日



元気で水遊びをやっております。ブランド服トライチを着て、高級車EX270を乗り回しています。お元気で。
2011年7月5日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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