事務局のみなさん、
夏の仕事も大詰めを迎えました。
熱い熱い夏ですが、元気に乗り切りましょう。
ガンベリ沙漠の数時間の集中豪雨は、嘘みたいに局地的で、これ以外にまる3ヵ月間雨が降りません。あちこちで渇水が起きています。9月まで、集中豪雨が来る可能性は十分ありますが、晩夏から初秋にかけて、早めに水不足が来るのは間違いないと思います。
現在PMSが取りかかったベスードI取水口も、一時はどうなることかと思いましたが、交通路建設を急がせ、去る7月11日に強行開通させました。堰上げに、籠だけではとても間に合わなくなったからです。いったん異常低水位となれば、いつでも速やかに石材をダンプ輸送、対応できるようになりました。地域住民は落ち着いています。現在、秋の本工事に向けて、用水路主幹(予定)の橋の建設を開始、ラマザン(断食月)前に完成し、一か月後に通します。こうしておけば、動かぬ掘削レベルの基準点ともなり、悠々と本工事にもって行けます。巨礫などの資材搬送が土曜日から始められます。
この一週間で重要な動きは、長い懸案であったベスード護岸の裏法排水路の問題が解決しかけていることです。大切な件なので、少し説明します。普通、堤防の陸側斜面には、ドレーン工が施されます。長雨や河の水位上昇で赤土の堤体が軟化することがあります。日本での決壊被害は、たいていこれによります。この防止は、かつてガンベリ沙漠Q岩盤地帯の貯水池堤防と同じで、堤体に水分が溜まりにくくするために、浸潤線を下げる措置を行い、排水溝を置きます。
ベスード護岸では、もう一つ問題がありました。川沿いの村人が、小さな取水口を危険な場所からとっていたのです。PMSでは3500m全線で小さな側溝を置き、上流側から流して、給排水が行えるようにする予定でいました。しかし、上流側の村が下流側へ水を送らず、川に捨て、下流側の村は危険を冒して河から取水してきたのでした。この背景には、半ば流民化して定着した村々が下流側に多く、先住者たちとうまくゆかなかったことがあります。先住者たちにして見れば、突然、権力を握ったよそ者が入会地を切り売りして利を得、ウロウロされては叶わないという気持ちがあります。しかし、流れて定着した人は、だまされて土地を買わされ、洪水に脅えながら暮らしてきた被害者です。
これは長い対立の歴史があり、容易に話が進みませんでした。しかし、偶然、いつもPMSを助けてきた元保健所長・医師の家が、堤防の近くにありました。彼は、上流側の村の有力地主でもあり、発言力があります。ジア先生が例によって粘り強く働きかけ、やっと7月13日、地元の村長格を集め、手打ち式にこぎつけました。
水を扱う仕事は医療と同様、単なる技術ではありません。時には人々の私欲や独占欲、意地悪や敵対心を治めながら、地域の和解を進める社会事業ともならざるを得ません。アフガン農村では、これは容易でないこともあります。報告書ではほとんど述べられませんが、治水事業の見えない基礎の一つです。
いずれにせよ、護岸・灌漑工事の明るい見通しはつきました。秋の工事に向けて、一段落できると思います。
平成23年7月15日 記
平成23年7月15日
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成長する砂防林の遠望
ガンベリ沙漠は東西に延びる長い沙漠で、幅約4.5㎞ある。PMSの防風林植樹は、西側約3.5㎞、南側約2.0㎞を覆っている。ほぼ全て、ガズ(紅柳)の木で、沙漠でたくましく成長する。樹林帯は東西に厚く(300~600m)植えられ、南側は薄い。PMS試験農場はこれらの林に囲まれるように置かれている。西側樹林の南端に砂丘が出現したが、灌漑予定地の大半は思ったほど砂が堆積していない。今回の砂嵐罹災は、用水路分岐が埋めつぶされることによる渇水が大きな問題だった。
ガズはガンベリ沙漠の土質が最適で、二年で3m以上成長する。木質が固く、薪としては良品。活着率が高いのは、動物が食べないこと、少ない潅水の方が却って成長しやすいことだ。地面に湿気が増え過ぎると、成長が停止し、矮小化することが多い。それでも、全線約5.5㎞の水やりは大変だったが、上手に潅水路をめぐらし、ずいぶん楽になってきている。樹林は毎年幅を増していき、文字通りの沙漠最前線だ。ともかく広い。180℃の眺めを合成すると小さく見える。向うに見える山が「Q区域岩盤地帯」、手前の枯れ川が自然土石流路。左手の高く見える地面は開墾地より約7㎞先、60mほど高い位置にある。