受信日:2011年8月2日


事務局のみなさん、

お疲れさまです。
現地は8月1日にラマザン(断食月)に入りました。

ベスード郡第一取水口工事は、8月3日に準備工事を一段落させ、9月中旬の渇水期入りまで休戦です。資機材の搬入が自由自在となり、現在、巨礫の輸送を続けています。

現在、焦点の一つとなっているガンベリ沙漠開拓は、6月に報告したように、

1 ) 防風防砂林の拡大、2 ) 給水・排水路の整備、以上と重なりますが、3 ) 遊水地を含む主幹用水路(S区域=沙漠横断路後半1.5㎞、T区域=砂漠縦断路1.3㎞)の保護が、大きな課題となっています。今回の砂嵐被害は、砂の堆積そのものより、主幹水路と主要分水路の閉塞で水が通らなかったことが主な作物被害の原因です。

 それでも、長い目で見れば、確実に成果が上がっています。洪水・湿害対策を兼ねた主幹排水路(三か所、計十数㎞)の建設を終えました。懸案の防砂林灌水は、二基目の給水塔建設にとりかかり、ちょうど植樹が活発になる二ヶ月後には完成します。

 こうした成果を背景に、シギ村落群の人口増加と農地増加のため、現在大変動が同地に起きています。シギ村はシェイワ郡の一部ですが、パシュトゥ族で占められ、シェイワに多いパシャイ民族と一線を画しています。人口は推定4~5万人、約1500~2000ヘクタールの農地があります。しかし、これまで水不足で、灌水の順番を待っているうちに作付け時期を逃す農家が多かったのです。ガンベリ沙漠開拓に伴うPMSのマルワリード用水路末端・T区域の整備によって、既存給水路の他に新たに二か所で給水ルートが開けました。水争いが解消するだけでなく、二毛作が可能となります。二年前から農家間で話し合いが粘り強く進み、半年前から住民たちは一斉に家屋の移動を始めました。一般にアフガン農村では、水が来ると宅地より農地が優先されます。水利用できる土地は農地にし、宅地は高いところに置かれます。

 そこで、ガンベリ沙漠南西部にある無人の丘陵地帯は、住宅群が忽然と姿を現しました。農家の大移動です。7月30日、31日に長老会メンバーが集い、PMSと話合いが持たれました。問題は、マルワリード用水路T区域からの送水路です。現在、水路末端は余水を自然洪水路に落とし、クナール河に戻すルートになっています。ところが、自然地形では偶に襲う激しい洪水で、取水路を引くと同時に災害も受けてしまいます。洪水路の横断水路が引けないかという相談でした。

 技術的には百数十mのサイフォンで可能ですが、折から集中豪雨の季節、「時期を選んで適切な方法で行う。心配なきよう」と、約しました。元来、このような目的で用水路建設事業が進められてきたのですから、断る理由はありません。10月に着工致します。「他のNGOやアフガン政府に任せればよいではないか」と考えられましょうが、もはやアフガン東部にはこのような工事を行う団体がありません。仮に善意の支援が寄せられても、やっつけ工事で終り、業者と現地役人の山分けで大半のカネが消えてしまう。住民たちは、その事情を熟知しているのです。

 今秋は、自然河川を直接相手にする工事は昨年より少なくなりましたが、灌漑事業は依然として手が抜けません。財政の苦しい折、大変恐縮ですが、文字通り支援の手が届かぬ今の現地事情を考慮し、よろしく御協力願います。米軍撤退に伴う事件ばかりが伝えられますが、私たちにとり、やはり最大の危急事は、餓えた人を減らすことです。日本で詳しい事情を説明いたします。



平成23年8月2日


ほぼ完成したベスード第一取水口への交通路。まだ細かな仕上げは残っているが、資機材搬入に全く支障がなくなった。
2011年7月31日



交通路のり面は、設計上、中途から水路護岸壁に連続する。土圧、流水の両方を考慮、頑丈な仕上げ。
2011年8月3日



用水路横断橋。欄干を作っている。一か月後に使える。幅8メートル、PMSの作った主幹水路の中で最大の幅。
2011年8月3日



同橋上部。 欄干は必ずダンプらが当た って破損するので、鉄筋は入れない。
2011年8月3日



ベスード第一堰の仮堰上げ。続々と到着する巨礫で、渇水に速やかに対応できる。異常低水位のカブール河で、ベスード郡は幸運だった。もう籠を入れるだけでは、間に合わなくなっていたのだ。
2011年8月2日



同、仮堰上げを終えた堰。堰中心の深掘れを巨礫で埋め、手前に深い急流を移す。こうしておくと、水位変動に自在に対処できる。クナール河と異なり、低水位対策が主になるが、堰の工夫は案外難しい。冬の水位を確認してから最終設計が可能。
2011年8月2日



ガンベリ沙漠のその後。マルワリード用水路・S区域(横断水路)、始点から1000m地点。木々の森に包まれる用水路。作業員たちが共通して実感するのは「平和な静寂」だそうだ。2年前、水なし地獄を血まなこになってツルハシ、シャベルをふるった形跡はない。この森が水路の護り役だ。洪水に幾度も潰された場所だが、今や木霊たちがとりなして人里に恵みを与える。
「此中に真意有り」
2011年8月2日



ガンベリ沙漠、第三排水路の開通と主な地点の架橋が終了。第三排水路はPMS第一農場の末端にあり、農場を潤す全ての灌漑用水が通過する。これがないと湿害を起こすので、開墾ができない。
2011年8月3日



ガンベリ沙漠。PMS第二農場。広さ17ヘクタール。苗代を作る場所だったが、第一農場が砂嵐でやられ、今年は次の年のための種もみ生産にとどめている。手前の田植えが乱雑なのは、早苗を間引きして、そのまま水田にしたからだ。作付は約2.0ヘクタールのみ。
2011年8月2日



平和ヶ丘の給水塔建設工事を始める。丘の高さは用水路から約12m高い。秋までに完成すれば、防砂林の60%の灌水がここだけでできる。即ち、砂防林を育成する「水やり水路」の水源となる。
2011年8月2日



西側防砂林全景。平和ヶ丘は、マルワリード沙漠横断水路(S区)3.5㎞の、約1200m地点にあり、6月に完成した給水塔を合わせると、西側の林全体をカバーできる。そのうえ、さらに沙漠側の高い位置にも灌水でき、年々幅を増す林にゆとりを以て対処できる。
2011年8月2日



カマ第一取水口を対岸から見る。水門から弧を描いて突き出す堰は、すり鉢の縁のように水輪を成して濁流を落とす。この時、他の地域では1mを前後する水位変動があった。カマ第一堰では、水位変動幅が8~10㎝、驚くべき安定を見せた。これが斜め堰の完成に近い形だと思える。今冬まで観察を続け、必要なら恐らく最後の改修工事を行う。
2011年7月29日



こちらカマ第二堰は、水位変動幅が25~40㎝、第一堰に比べると多いが、他のクナール川沿い地域の変動よりはるかに少ない。PMSの手で成ったマルワリード堰、シェイワ堰、いずれも変動が少なかった。
2011年7月29日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


← 前の報告へ ○報告トップへ○ 次の報告へ →

Topページへ 連絡先 入会案内