受信日:2011年9月24日


事務局のみなさん、

お疲れさまです。
お彼岸になり、夜は肌寒いことがあります。仕事は予定通り滑り出し始めました。今年も河川工事が目白押しで、青息吐息になりそうですが、何とかやります。今冬の標的はベスード第一取水堰で、準備工事を今月に終え、10月から本格攻勢となります。ベスードについては、次回詳しくお伝えします。
ご協力に感謝です。

現地に戻ってから一週間が経ちました。この間、暑さが突然下火となり、明け方は少し冷えます。

 相変わらず争いが続いています。先日暗殺されたラバニ元大統領は、ペシャワール時代(ジャミアテ・イスラム党首時代)に何度か会ったことがあります。「古き良きアフガン」を体現するような風貌、敵を作らない温厚な紳士でした。これで混乱が更に複雑化する可能性があります。心ない暴力の応酬に、人々はうんざりしています。

 この件は、PMSにとっても「更に不透明な新局面」と認識され、来年度の継続の可否をも念頭に、注意して情勢を追いたいと思います。作業地付近の一連の出来事とも併せ、「来たるべき日が近づいた」と感じています。しかし来春まで尚早な判断は禁物。当面の相手は河、人間界の理屈が通らぬ自然の世界。それに合わせて動く努力しかできません。渇水期を目前に力を尽くしたいと存じます。

 今秋から来春にかけて行うべき仕事は以下の通り。

  1. ベスード第一取水堰と主幹用水路の完成
  2. ベスード護岸の完成
  3. カマ取水堰の小さな補修
  4. マルワリード取水堰改修(仕上げ)
  5. シェイワ取水堰の河道回復
  6. ガンベリ沙漠開拓
    1. 平和ヶ丘給水塔(防砂林の拡大造成のため)
    2. 浸透水処理(排水路整備)
    3. 試験農場給水路増設
    4. シギ村への送水路
以上です。

河川工事は昨年ほどではありませんが、やはり広大な戦線です。今秋の最大の標的は、何と言っても「ベスード第一取水堰」です。7月からの準備工事を9月中に終え、10月早々、本工事に入ります。他は昨年度の仕上げと考えて差し支えありません。現場を長く空けたツケか、現地は数回の集中豪雨に見舞われ、留守部隊の苦労は並大抵でなかったようです。

シェイワ取水堰については、ひどい状態になっていました。いずれ詳細を報告します。これが多くのアフガン農村の現状を示すものだからです。
作業地で治安が最も安定しているのはカマ郡で、不安定なのがシェイワ郡、ガンベリ沙漠は平穏で、ほぼ安全に仕事が進んでいます。
最も慎重を要するのがマルワリード取水堰ですが、昨年のいきさつもあるので、川の水が下がり、寒さが訪れる時期に、一挙に残余工事を終えたいと考えています。

日本も大変な時期ですが、今度ばかりは観念し、「万一」を念頭に、有終の美を飾るつもりで臨みたいと思います。ご協力を宜しくお願い申し上げます。

平成23年9月24日


ガンベリ沙漠に建設中の給水槽。横断水路1500m地点(用水路約21㎞地点)に小高い丘があり、ここに給水塔を置いて砂防林の大半の水やりを効率よく行おうとするもの。今春の砂嵐被害で砂防林潅水が大きな課題となった。これが完成すると防風林造成が格段に容易になる。なお、同丘はガンベリ沙漠では唯一の丘で、2009年にPMSがケシュマンド方面の軍閥一族と和睦した際、「平和ヶ丘(アマン・ゴンデイ)」と名付けられた。
2011年9月22日



平和ヶ丘の高さは、マルワリード用水路(水面)から約15mの高さ。本水路から長い引き込みを作り、麓からポンプで上げて水槽を満たす。水槽は10m四方、十分量を貯水できる。これ一つだけで、ガズの防砂林ベルト3~4㎞の灌水が可能、かつて吾々を泣かせた散水車の10倍以上の給水力、10分の1以下のコスト。作業は8月に道路敷設を進めていたが、この一週間で一挙に基礎を終えた。9月中完成予定。水路の向うは畑地になった元沙漠。
2011年9月22日



引き込み水路は幅を広く取り、緩やかな岸辺を造成中。これは遊牧民対策で、作物や植樹を守り、家畜の糞を集めるため。ここで脱糞してもらい、後で地面の表層をかきとって集めると、立派な肥料を大量に得る。秋の気配を感じた遊牧の群が続々と集まっている。
2011年9月20日



カマ第一・第二取水堰。クナール河はこの1週間で、突然水位を下げた。川沿いのあちこちが渇水となっているが、カマ郡は水涸れ知らず。現在、両者合わせて毎日80~90万トンを送水し続けている。今秋は、第二堰・取水門付近に発生した小さな洗掘点を巨石で埋めるのみ。仮工事から3年目、感無量。機能的には、このカマ第一堰が朝倉市の山田堰に近く、完成度も高い。
2011年9月22日



同第一取水口を対岸ベスード側より見る。堰は美しい円弧を描いて水を落とし、崩壊は見られない。砂利で成る中洲も、籠の埋設が奏功して、ひと夏を経て洗掘はほとんどない。最も弱かったのが堰と中洲の連続部分であったが、昨年の大改修で決着がついた。外から見えないが埋設された籠(2×1×1m)は3年間で900以上。砂礫とよく馴染み、めくれや滑動は観察されない。砂利の島の一部として落ち着いたのだ
2011年9月22日



カマ取水口対岸・ベスード護岸。連続堤防に植えられた木の成長。水辺はヤナギの密植、高い段はユーカリ並木にしている。2011年3月から6か月間、ヤナギ1.0~1.5m、ユーカリ0.8~1.0m、高さが伸びている。天端工事は終わりに近づいている。なお、今夏増水期、ヤナギの段を水が越えることはなかった。河道整備によって河全体が浅く・広く・急になり、かつ中心の河道が深くなった。理論的にはこの天端高で昨年並みの洪水なら溢れない。冬季に再調査して結論とする。巨礫の壁は、コンクリートパネルより強靭、植物ともよく馴染む。
2011年9月20日



ベスード護岸。1700m地点。ベスード側に発生した新主流が完全に涸れてしまい、逆に渇水で川沿いの小さな取水堰に送水せねばならなくなった。主流は元の中心河道に復し、今冬主な地点に小さな取水門を設置する。予想以上の変化。
2011年9月21日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


← 前の報告へ ○報告トップへ○ 次の報告へ →

Topページへ 連絡先 入会案内