受信日:2011年11月26日


無事に現地へ戻りました。往路も帰路もハプニング続きで、こんなことも珍しいと感じながらの長旅でした。

着いたその日から現場にゆき、再び河との激闘です。それでも、ベスード第一堰の見通しが立った分だけ、昨年より余裕を持てます。日本では、土木関係の方々との接触が増え、奇しくも甲府では武田信玄の業績にふれ、感慨深いものがありました。

アフガニスタンは相変わらずの情勢ですが、みな争いごとに疲れています。河の仕事をしていると、なおさら、人間同士の争いが小さくてつまらなく思えるのです。冬のクナール河は清流で、凛として美しいです。

なお、ベスード取水堰は確実な見通しが立ち、夏の間気をもんだベスード護岸では、遂に、第三分流の処理に入りました(10月7日報告参照)。カマ第二取水門付近の深掘れ対策は到着後3日で決着をつけました。来年度を視野に入れたカシコート取水堰の完成は、PMS=ペシャワール会の「緑の大地計画」の画竜点睛というべきものです。近々詳しくお伝えいたします。

ジャリババでも、ガンベリ沙漠でも作業が進んでいますが、今週は河川工事ばかりで見回る余裕がありませんでした。次回お伝えします。

平成23年11月25日 記


ベスード第二取水口。取水門の状態。旧水路は完全に埋めつぶされ、構造物の建設は詰めの段階に入った。
2011年11月24日



取水門を正面から見る。洪水高を多めに見積もり、最終的には0.5m更に高くする。残る最大の課題が堰の造成だ。過去3年間くりかえした仮工事で凡その見当はつくが、「超低水位の取水」という点では、この水門と堰が最も完成度が高い。河が緩やかな割に水門幅を広く取っている。
2011年11月23日



対岸中洲との間に堰を置くときは、特別な工夫が要る。堰造成の際、先端が深掘れを起こして成功しない。河道の全面堰き上げが原則だが、たとい一時的に成功した場合でも、増水期に中洲部分に洗掘が起きる。特に河床材料が弱い場合、粒径の大きな礫石を集め、籠を埋設するのが最善である。8年かけて得た「我流技術」だが、相当の激流にも耐える。施工は簡単だ。川の流れが激しければ、セメントミルクを流し込んで砂利層と密着させる。
2011年11月22日



上記の完成後。籠を砂利で覆うと見えないが、欠かせぬ工事。堰の到着点の20m四方に籠が埋まっていて、洪水が中洲に氾濫しても、堰先端の深掘れが起きない。強い石と弱い砂利の仲を取り持つのが籠だ。水利工事は見えない部分が重要だ。
2011年11月24日



取水門を背面から見る。主幹水路幅は8メートルで過去最大。灌漑面積は約2000haでカマ郡の三分の一ほどしかないが、地形が緩やかな場合、低水位で十分量を得るには浅く広くして流水断面を増やす以外にない。マルワリード取水堰でも、実はこの方法が最善だったが、今となっては経験不足としか言えない。取水部の構造物が大きくなっても、無理な堰き上げが不要。
2011年11月24日



ベスード第一堰の調節池(沈砂池)。取り込んだ水は調節が容易だ。水門では「水上工事」が進む。まだまだ時間がかかるが、もうこちらのペースで安心して施工できる。
2011年11月24日



今年4月に竣工したカマ第2取水堰・水門の接合部に発生した深掘れ。水門を覆っていた蛇籠が沈下し、基礎が脅かされている。第二堰は直角に近い角度で河を横切り、急流の流水圧の影響を受けやすい。湾曲部外縁に取水門が位置する場合、強化対策が必要だった。これは危ない。
2011年11月21日



上記場所の修復後の状態。急きょ巨礫を大量に輸送、深掘れ部分の埋め立てを行った。使われた石は、ダンプカー50台分。結果的に斜め堰と類似の形状になった。おそらく日本でも、吾々と同じような経験を重ねながら、「斜め堰」が定着していったのではないかと思える。
2011年11月24日



上記場所の作業風景。オンボロ重機は現場で修理しながら使うという、日本ではお目にかかれぬ光景。蛇籠がねじれて沈下した部分は深さ2メートルほど下部が洗掘され、基礎部分が露出していた。危なかったとはいえ、籠の屈伸性が構造物を守ったと言える。
2011年11月24日



ベスード護岸、最後の詰めの工事を開始。詳しくは10月7日報告をご覧ください。洪水進入路の締切りと天端工事が終わり、ついに主流化した第三分流の処理に入った。中心河道の掘削と導流堤で主流復活をめざすが、最低でも半分以上を直進させねば、しめきり堤は突破される。今年度最大の工事で、来週から機械力を集中し、来春2月までに一気呵成に完成を期する。川中島、嵐前の静けさ。
2011年11月24日


注;「導流堤」は、筑後川にもあり、ふつう緩やかな河口付近で支川をしめきり、主流の勢いを増して堆積泥土を押し流す目的で使われたそうです。私たちの場合は、蛇行路のショートカットを作って河道中心流を回復、しめきり堤を襲う水の勢いを減殺することにあります。その目的のための補助手段で、主流化した支川の流量を減ずるのです。基本的には、流れを変える水制の一種だと考えて差し支えありません。  河川工事は耳慣れぬ言葉が多いかも知れませんが、知れば面白いことがたくさんあります。
★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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