受信日:2011年12月4日


河川工事たけなわの毎日です。

河の水位がガタンと落ち、あちこちで渇水が始まっています。アフガンでは、もう長いこと少雨に悩まされています。農家は小麦を作付けするかどうか迷います。農業に適した雨は、通常なら冬の雨季に来ます。天水をあてにした小麦栽培は、必要な時に降雨がないと、ひとたまりもないからです。また、冬の降雨は、高山の積雪となり、夏の水源ともなります。

ベスード取水口の工事をしていて改めて知りましたが、これまで非常に不安定な中で農業が営まれていました。雨だけでなく、川からの取水も当てにできなかったのです。低水位になればたちまち乾き、ひと雨降れば高水位で過剰な水が押し寄せる。現地なりに様々な工夫は凝らされていましたが、近年の気候変化は致命的な打撃を与えていたのです。

去る10月30日にベスード第一取水口で送水が始まると、競うように小麦畑が出現しました。またジャララバード近郊なので多くの野菜が植付けされ、大量に市中へ出荷されます。今年は広大な耕地を擁するカマ郡から大量の野菜が出荷され、ジャララバードの野菜価格は素晴らしく値下がりしました。カマ・ベスードの両郡は高地カブール、シェイワ郡はクナールへ冬野菜を出荷します。不安定な政情に比べ、食糧事情はずいぶん安定してきた印象を受けます。

この背景にPMSによる取水施設の整備があることを思うと、嬉しいものです。実際、斜め堰の機能は目を見張るものがあります。低水位にもかかわらず、水門部では、わずかな変化しかないのです。特にカマの堰は、9月以来、70㎝前後を一定して維持しているのには驚かされました。長期間に物量投入を要したベスード護岸も、ひたすら石や土砂を運ぶこと1年2ヶ月、やっと先が見え、今年は安心して正月を迎えることができそうです。

今週の主な様子をお伝えします。



平成23年12月3日 記


ガンベリ沙漠開墾地に咲いたバラの花。柄ではありませんが、真冬に見るとハッとするほど美しいです。次回、開墾の様子を送ります。



ベスード第一取水口。堰と水門。堰の長さを実測48mから105mに延長。急な増水にも安定してきた。上流のドゥルンタ・ダムからの突然の放流は予告なし。それでも冬季は夜間の発電の時だけになったので、予測して調整できる。
2011年12月3日



進む調節池の建設。調節池(沈砂池)の嚆矢は、マルワリード用水路のD沈砂池だったが、その後改善を重ね、カマ第二取水口・ベスード第一取水口で更に洗練されたものになった。ベスードでは、浚渫の手間を減らすだけでなく、送水門を複数にすることで、二つの取水口を束ね調整が容易だ。
2011年12月3日



同調節門の近景。右手第二送水門の灌漑面積は第一門の3~4倍、門を大きくしている。きれいなので、「公園化」の話が住民側から上がっている。PMSは通常、取水堰新設の場合、最低5年間観察を続ける。水門番をその間に育て、植樹をすれば、ジャララバード市民の憩いの場所となる。
2011年12月3日



石組は何度見ても美しい。間もなく背面の柳枝工が始まる。
2011年12月3日



今年6月下旬に始めた道路敷設は、かなり難航してケガ人まで出したが、慣れてしまうと、「そういえば、道路はなかったなあ」と皆いう。それくらいなじんだということだ。
2011年12月3日



スピンガル山脈(最高峰は4700m)の雪化粧。寒い。寒いけれども、雪の分だけ渇水が減ることを思うと落ち着く。この長大な山麓一帯が深刻な水不足。クナール河のような大河がないので、ただ降雪と降雨を祈るのみ。
2011年12月1日



「ベスード護岸の天王山」と位置づけた第三分流点の処理だったが、直進河道に堆積した砂利が柔らかく、導流堤を25m伸ばしたところで半分を分割でき、工事開始から4日間、あっけなく目的を達した。11月27日、カマ側住民の一部が恐れて強硬に反対、険悪となったが、PMSはあっさりと要求をのみ、しめきり堤の水制の強化で対処する方針に変えた。灌漑の仕事は敵を作りやすい。
2011年11月29日



直進河道の回復でしめきり堤を襲う流れが半減し、新設の水制建設が急速に進んだ。
2011年11月30日



洪水進入路のしめきり堤と新設中の水制。クナール河の場合、通常2~3年を経ると、複数の水制先端を結ぶ線上に深掘れが起き、河床がきわめて低くなる。そのため、隆起して見えることが普通だ。それを期待してカマ住民と争わなかった。ただし膨大な石材が必要。わずか40mの水制にダンプカー500台を既に投入した。
2011年11月30日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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