受信日:2011年12月11日


異常少雨で各地に渇水

マルワリード灌漑流域にも影響大
カマ、ベスードは安泰

異常な少雨です。私たちが観察を始めた2002年からの9年間で、最も少ない川の水位です。2000年の大干ばつの時でさえ、これほどではありませんでした。12月初旬、雨季を思わせる曇天が数日あり、申し訳程度に高山の降雪があっただけです。政情混乱と重なり、人々の間に不安が蔓延し、殺気立っています。スピンガル山麓、特にソルフロッド郡は、もう小麦は壊滅とあきらめています。私たちのカバーするジャララバード北部でも、水争いがあちこちで発生しています。この一週間は水不足解消で飛び回り、疲労困憊。

この中にあって、例年ならカラカラのカマ・ベスードの両郡は、PMSの取水堰建設で渇水知らず、幸運だったと思います。和解したばかりのカシコートは、悲惨の一語。水の大切さを改めて思い知りました。

以下、今週の動きです。

  1. ジャリババ洪水通過路;構造物の建設を間もなく終了。

  2. カシコート河道回復工事;クナール河は巨大。現在の機械力では単年で終了は不可能。数年に分けて施工するが賢明。今冬は河道を分割してカシコート側を襲う流水圧を減ずるにとどめ、夏の様子を観察したのち、来秋に更に工事を進める。

  3. ベスード第一取水堰;堰は最終段階で、堰き上げ高を再確認したのち、来週中に堰造成を完了。取水門、調節池の送水門、排水門はコンクリート工事を12月中に完了する見通し。現在、植樹を準備中。排水路は12月中に試験全開して排水能力を確認。

  4. ベスード護岸;3.5㎞全体の天端工事を終了し、しめきり堤保護の新設石出し水制(長さ40m)を完了。現在、灌漑路を兼ねて2000m地点から約700mにわたり、浸透水処理の側溝を、堤防法尻に設置中。小取水門を上流端に置く。

    1700m地点からの蛇行路(旧第一支川)は、直進河道の深掘れで、初秋に完全な渇水に陥るようになった。更に、直進河道の掘削延長が住民の猛反対で不可能となった今、第3分流から本川化した流れが、しめきり堤を直撃する危険が完全に去ったとは言えない。同堤の保護のためには、ある程度第一支川を回復し、流圧を分散する方が望ましいと思える。最低水位の状態で、再調査を行う予定。

  5. カマ取水堰;第一、第二とも水量が安定、ほぼ冬季の予定量(1日約50~60万トン)を送り続けている。

  6. マルワリード取水堰;ジャリババの洪水被害から立ち直り、冬季の必要量は取水できている。

    しかし、シギ村落群が異常渇水に見舞われ、シェイワ取水堰がシェイワ村落群だけをかろうじて潤すにとどまっている。(シギの取水口は数年前から完全に取水困難に陥っており、専らシェイワ用水路とマルワリード用水路からの分水に依存してきた。)シェイワ取水堰は異常な低水位で取水が制限され、水争いが発生している。シェイワ堰の取水量の低下は、昨年の大洪水でクナール河の主要河道が変化したことに加え、冬の異常な少雨によるもので、過去8年間で最低水位を記録している。同取水堰に注ぐ河道の回復を図ると共に、マルワリード用水路の取水能力を上げる以外に方法がないと判断される。

    そのためにマルワリード用水路取水口の間口を広げる改修を計画していたが、工事規模は小さくない。今年は過密な工事計画で断念した。

    代替えに昨年中断した中洲回復工事による堰上がりに期待したが、中心河道が深くなって重機の通過は危険、カシコート側からのアプローチでなければ不可能と判断、これも年度内施工を断念した。しかし、対岸カシコート堰が近い将来できれば、この問題の解決ともなり得る。12月5日からマルワリード堰の余水吐き(砂吐き)を木材や柳の小枝を束ねてせき止め、水位を上げている。シギ地域はこれによって来週中に全域を灌漑できる見通し。

  7. シェイワ取水堰;上述の通り。ジャリババの鉄砲水(10月)で一時中断していた河道回復工事(堰に注ぐ支川の復活)を再開。とりあえず緊急に送水路を掘削、来週に機械力を集中して一挙に進める予定。

  8. その他;ガンベリ開拓;農業専門家の高橋さんから土壌の分析結果をいただき、凡その方針に大きな差がないことを確認。
現在、排水路造成に集中。これがないと開墾ができない。カルシウム塩濃度を下げる土地改良も、排水が大前提。測定されたEC値の低さは、「まだ沙漠だ」ということである。落葉、水田、マメ科の作付け、砂防林の効果、野草・動物の生息、家畜の徘徊などで有機物が増えれば、自ずと土地は肥える。開墾もまた、自然を相手にする総合的な作業である。土地の特殊事情に合わせ、時間をかけ、着実に進める。



平成23年12月10日 記


マルワリード堰。昨年の大洪水で中洲が流失したものの、回復工事で必要水量を保っている。今年は、やりかけの改修工事の完成を企図したが、重機の渡渉点が見いだせず、断念した。シギ地域の冬の灌漑確保は、シェイワ堰河道復活以外に本格的な方法がなくなった。
2011年12月7日                                



マルワリード堰の砂吐き(水路内に土砂の流入を防ぐために水門前に設置する溝)は、計6か所にある。山田堰と同様、渇水期に水量を増したいときは、障害物を置いて流れを止める。堰の中の堰。これでもかなり効果があり、冬のシギ地域の必要量の半分をまかなえる。
2011年12月7日



マルワリード堰全体を対岸側から見る。長さ260m、幅50mの巨礫の塊。砂吐きは計6か所、順次必要に応じて手作業で塞ぎ得る。昨年の大洪水にも耐えたつわものだが、強すぎて中洲を失ったのでは本末転倒。今思えば、力ずくの堰き上げをせず、取水口の間口を広く取るべきだった。しかし、この教訓は、カマとベスードの堰建設に生かされた。
2011年12月7日



ベスード第一堰。カブール河はクナール河と比べ、水量が少ないうえに緩やかだ。しかし、それだけに冬の渇水は深刻だった。こちらは教訓を生かして取水の間口を思い切り広げ、低い堰で十分量を取り込めるようにしてある。それでも堰き上げ過ぎが起きるので、観察して更に低くする。
2011年12月7日



シェイワ堰を潤す河道の回復工事。2007年、2008年の工事で回復していたが、昨年の大洪水で砂利が堆積して再び機能を失っていた。2011年、一時的処置で急場をしのいだが、掘削幅が狭く、土砂堆積で冬の取水が困難になっていた。元来主流であったが、欧米系NGOの手で2003年に上流のカシコートで主流閉塞が行われると、河道が変化し、長く機能していたシェイワ堰の水が途絶えてしまった。今回は抜本的な対策を立て、旧主流の復活を目指す。この工事の歴史は非常に長いが面白く、機会あれば詳細報告。間もなく本工事を開始。現場の職員一同、仇敵にあたるかのように闘志を燃やす。
2011年12月10日



知る人はおなじみのG岩盤(マルワリード取水口から4.8㎞地点)シェイワ河道回復掘削地点の近傍にある。2007年1月、120mの石出し水制3基で洪水を遠ざけ、水路を守ったいきさつがある。上流の主流閉塞のあおりを受けて、岩盤直下に主流が迫っていた。その後、2007年のシェイワ堰建設時、大洪水後と工事をくりかえしたが、いずれも過密な河川工事に追われて満足にできなかった。今回は本格的にやる。高さ17mの盛り土上の水路は斜面に林ができ、もはや安泰。
2011年12月7日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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