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カシコート堰・用水路工事を宣言
~あらゆる敵対を超え、30年の総決算「緑の大地」完成を~
本工事は2012年10月に着工

カシコート計画の火ぶたが切って落とされました。1月7日、マルワリード堰対岸のサルバンド村に、ナンガラハル州行政からは副知事、灌漑局長、地方復興局長、農業局長、シェイワ郡長、警察局長が、カシコート住民側からは各村長約40名、宗教指導者ら長老会メンバー全員が、PMS側からは小生以下、ジア先生、事務所・現場責任者が出席、本格的な事業開始宣言がなされました。

実際は昨年10月の和解後から、少しずつ河川工事を進めていましたが、相手はあまりに巨大。増水期を3週後に控え、ここで一気呵成に進めなければ、今年10月に予定する本工事が確実に流れます。
河は人の都合を待ちません。他方カシコートは、ただでさえ貧困なのに、2010年の大洪水でとどめを刺されたかのごとく、荒れ放題です。
ベスード・カマの取水堰・護岸工事が終局に近づいた現在、来秋の工事開始に不可欠な、河周りの準備をすべきだとの判断でした。

「カシコート」がおそらく、私たちの最後で最大の挑戦となるでありましょう。昨秋報告したように、道義的な意味においても、十年にわたる「緑の大地計画」の仕上げとなり、ペシャワール会30年の活動の帰結と言えると思います。見捨てられて誰も手を付けたがらない、このような所に力を注ぐことにこそ、私たち本来の面目があります。

本計画が成れば、カシコート2500ヘクタールの農地、5万名の農民を安定させるだけでなく、クズクナール全域が緑を回復することになり、マルワリード用水路の維持保全も安泰となります。

また、小生の年齢もあります。後継について取りざたされますが、私たちの仕事の結実――特に堰と用水路が、最大の後継者だと思います。絶対に必要なものなら、改修に改修を重ねて保全され、引き継がれてゆくからです。
さほど必要でないなら、そのうち置き去られ、忘れ去られてゆくでありましょう。それが摂理であります。

日本自身が大きな過渡期にあるところ恐縮ですが、ここは将来への思いと希望を一つに、力を尽くすべき時だと思います。精神力だけで事業はなりませんが、最後の気力で臨みたいと考えています。事業の概要は次の機会に、まとめて詳しく述べます。

当面は準備工事といえ、賽は投げられました。引き返す道はないでしょう。この状態で変則的な進行を避けられませんので、場合によっては独り道です。みなさんの理解と協力を切にお願い申し上げます。

以下、最近の仕事の進捗と予定です。

1.ベスード第一堰;植樹ら、小さな仕事を残すのみ。3月末までに竣工式を終え、9月まで小さな残余工事を行う。観察は5年間(2017年まで)、その間水量調節や維持補修を住民と協力して行う。

2.カマ第一・第二堰;ほぼ完了したが2016年まで観察、必要なら同様に住民と協力。

3.ベスード護岸;中洲の回復工事を終了。第一分流を回復し、現在小規模な堰と取水門を建設中。

4.ガンベリ沙漠開拓;

a: 平和ヶ丘給水塔と植樹;2月5日に給水を開始。ポンプ小屋は未だ建設中。これによって砂防林の拡大と保全は見通しがついた。
なお、植樹は2004年~2011年末までで、63万本を超えた。約半数が水路沿いのヤナギで、砂防林の紅柳(ガズ)、土手のクワ、ユーカリ、オリーブらが圧倒的多数。年間10数万本のペースで、3年以内に100万本を超える。今年は果樹園造成が大きな目標で、6000本のザクロの挿し木が、先週完了した。柑橘類、イチジクなど約1000本が現在、移植されている。

b: 排水路;浸透水処理が問題となり、第三排水路の再掘削を完了。現在、詰めの工事が進められている。

c: 湿地帯処理;現在、作業は末端部に及び、最終的に旧シェイワ村落の半分近くをカバーすると思われる。
問題になっていた場所については、カブールから技師が派遣されて実見。

d: シギ村送水路;住民の希望に沿い、自然洪水路を横断する小規模サイフォンを予定、2月9日に測量を完了。

以上、カシコートを除けば、スムースな進行だと思います。付け加えると、おそらく政情を反映してか、行政側が非常に友好的に対応しています。

平成23年2月10日 記

カシコート、サルバンド村で挨拶。18年前のマラリア診療の終着点がここだった。薬品が切れて苦戦したことを述べた。皆よく覚えていた。その頃子供だった者たちが、今屈強の若者に育っている。2012年2月7日(職員撮影)

テープカット。「カシコート」は、行政側との友好も生み出した。前列左から、シェイワ郡警察署長、州副知事、州灌漑局長、PMS院長、シェイワ郡長、PMS職員3名。後列右から地域復興局長、カシコート長老会代表。副知事が現れるのは誰も予想しなかった。善いことは、みな嬉しいのだ。2012年2月7日(職員撮影)

一方、人の世をよそに、河は人を待たない。増水期が目の前だ。3週間の限定作戦で重機・ダンプの大量動員態勢を敷き、絶望的とも見える河道回復工事が行われている。砂州の長さ約600m、これを左岸カシコート側へ寄せる。この工事がなければ、取水堰は洪水を誘致する無用の長物となる。やたらに砂利を搬送するだけでは成功しない。短絡路の流量を推測し、適切な場所で開放、河道を分割して主流の流勢を弱める。文字通りの真剣勝負。2012年2月11日

ガンベリ沙漠、第三排水路の最終地点、チュクレイ村到着地点。この村自身が長い間、シェイワ用水路の過剰送水で湿地化していたが、PMSの排水工事で復活(2010年)、快く協力している。2012年1月31日撮影

第三排水路、始点から約1㎞地点。始点はマルワリード用水路に連続していて、第一試験農場を潤す分水路の水を集めて下る。砂地とシルト層の上を急流が下るから、砂利を厚さ1m以上敷き、ソイルセメントで固定、強靭な根固めを両岸に施す。気の遠くなる作業だが、時間は十分にある。2012年2月9日

送水を始めた「平和ヶ丘給水塔」。用水路から引き込んで11メートル揚水する。これで砂防林のケアは万全となる。2012年2月7日

カシコートが重機の総動員態勢なら、ガンベリ沙漠は今、植樹要員の総動員。砂防林の拡大に加えて、予定したザクロの挿し木2000本が6000本に増え、その上に柑橘類1000本の苗が移植されるからだ。第二農場14ヘクタールの半分を使い、育苗する。見渡すザクロの林となる。空づみの分水路壁は意外に強靭で、すっかり風物として溶け込んでいる。沙漠はどこかに行ってしまった。2012年2月7日

挿し木は、カブール州のタガウ農園から、灌漑局が積極的に協力して採取、3日以内に挿し木する。実をつけるまで普通3~4年という。いったん試験農場で育て、根を下ろして一年後に適した場所に移植する。ザクロはアフガニスタンの逸品のひとつで、甘くて大きく、種が小さい。6000本が実をつければ壮観だ。2012年2月7日

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