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河川の増水、2010年の大洪水レベルに迫る
~ベスード護岸のしめきり堤、決壊寸前で防止~

「気候変化」も、ここでは大陸的です。小生らが戻る数日前まで例年より気温が低かったそうですが、この2週間、室内で40℃、屋外で45℃前後の日々が続いています。
昨冬は豪雪だったので、河の水位上昇に注意していましたが、案の定、平年より高い水位が続き、さらに上がり始めました。7月8日、カマ第一取水口前で2.1mを超えました(2010年の大洪水時は、同部で2.2~2.5m)。広範囲の降雨があると、同様の事態になる可能性が強いと思います。

しかし、PMSが作ったどの取水口も、大洪水(2010)時の水位より1メートル以上高く取り、対岸の川幅を大きく広げているので、大過はないと今のところ考えています。

肝を冷やしたのは、ベスード護岸3㎞地点のしめきり堤です。昨年11月、直進河道回復がカマ側住民の猛反対で挫折したことは、お伝えした通りです。第二分流の主流化が避けられぬとみて、洪水進入地点のしめきり堤を強化しました。第二分流は約4~5mの落差を長さ約700mで滝のように下ります。これが約75度の急角度でしめきり堤に衝突します。強化措置は50メートル間隔で3基の頑丈な水制(長さ約40m)を置いたのですが、増水期の状態によっては、更に補強するつもりでした。

6月29日、堤防決壊を怖れた住民多数が集合して請願、同日から急きょ、補強工事を開始しました。水位は更に上がり、7月8日にピークに達し、依然として予断を許さぬ状態が続いています。

驚くことに、4月下旬から今まで、雨が一滴も降りません。しかも今年は水田が増えています。このため、マルワリード用水路は上限まで大量に送水、7月7日現在、一日送水量は60万トンを超えています。

なお、ジャララバード北部は、スイカの一大産地となり、輸入から輸出へ転じています。価格も、他の野菜と同様、約半分安くなっています。最大の出荷地はカマ郡・シェイワ郡(クズクナール)だそうです。小麦価格は著しく下落しませんが、安定するようになっています。

カシコートでは夏の測量が終わり、堰・水路・調節池の位置、傾斜、構造物(取水門、橋、サイフォンなど)、計画水量が間もなく決定されます。東京では「復興会議」が開かれているそうですが、東部農村では皆、冷やかに眺めているように思えます。確かにここに居れば、人権、教育、経済発展などなど、伝わる議論と現状の隔たりが、絶望的に思えるからです。「一日の苦労はその日にて足る」。そう感じます。

みなさんもお元気で。

平成24年7月9日 記

6月30日のしめきり堤の洗掘地点。驚いた村民が集まっていたが、工事が始まると安心して来なくなった。写真左手が第一・第二分流が合する流れ。第二・第三水制間に斜めから押し寄せ、大きな渦流を発生したもの。それでも、水位はまだ低かった。
2012年6月30日

7月7日、補強工事7日目。水位は更に上がったが、第二・第三水制間に更に小水制(第2.5、長さ14m)を加え、第三との間に巨礫を詰めて収まった。河川工事は不確定要素が多く、万一に備えて石材を現場に蓄積していたことが幸いした。洗掘部は深く、120台分の石を入れた。危機一髪。
2012年7月7日

しめきり堤400mは、絶対の防衛線だ。この日、河の水位が今夏で最高になり、2010年の大洪水の水量に迫った。水面は裏法の地面から約3メートル高い。堤防がなければ・・・・ かなり恐ろしい話。水制の威力に改めて感謝。普通、年を経るごとに水制端の河床低下が起こり安定する。それまでは手が抜けない。
2012年7月7日

カマ第二取水口。水門のてっぺんまであと1メートル(水門の高さ4.5m)、2010年の大洪水時とほぼ同じ水位。
2012年7月7日

取水門を用水路側から見る。堰板を分厚くした上に鉄板を張り、折れることはなくなったが、前列は激しい流圧にさらされるので、必ず階段状に落とすよう指導する。水門番は普段は空耳だが、洪水を目の当たりにすると、さすがに真剣。この高さの水量がそのまま、かつては人里に向かっていたのだ。
2012年7月7日

カシコート旧主要河道上の護岸と高水敷。恐ろしいと言えば、こちらも恐ろしい話。裏法の地面から約1.0~1.5メートル高い川の水面。だが高水敷は浅く、越流型水制を4基、高水敷の上に置いているので、堤防洗掘は考えにくい。やはり頑張っていて良かった。村民は難民化をやめたし、上流側2ケ村がとりあえず十分な灌漑の恩恵に浴したからだ。秋に始まる取水堰・用水路工事も、おそらく悲惨な状態になったに違いない。交通路がそのまま簡易堤防。
2012年7月7日

大洪水に迫る水量であるにもかかわらず、壊れた橋の場所で堰上がりが殆ど観察されなかった。直進河道を復活し、両岸を開放したのが奏功したのだ。この橋から上流側は、むしろ平年より0.5メートル以上水位を下げ、冠水の危険は更に遠のいた。住民、施工者共々に、胸をなで下ろしている。直接工事に携わり、財政調達に駆け回った者としては、これほど嬉しいことはない。みなさん、ありがとうございました。
2012年7月7日

途絶えていたというか、流失していた主要水路。だが、20㎞に及ぶカシコート地方全体には水量が及ばない。予定の新設水路はこれに沿って作られ、毎秒3~5トン(一日25~45万トン)の安定灌漑をめざしている。
2012年7月7日

調節池(沈砂池)の予定地。取水口から1700mを一気に下らせ、下流の村々に送水する。道路の破壊は2010年夏の大洪水の爪あとで、取水堰予定地より約3m低い。護岸工事で安心したのか、子供たちがのんびりとクリケットで遊んでいる。
2012年7月7日

対岸のジャリババ渓谷を望む。例年なら、河の水面が用水路の高さに迫っていた。今年は鉄砲水の通過路が広く、PRTの橋の影響もなく、安心して眺められる。
2012年7月7日

なお、ベスード護岸は分かりにくいので、更新地図を添付しました。
この中で、1700m地点で分れる流れは、以下の通りです。

1)第一分流;屈曲してベスード側に寄りつくもの
2)第二分流;やや直進して屈曲、しめきり堤を正面から襲うもの
3)第三分流;そのまま直進するもの
4)第四分流;カマ第二取水堰を通過する流れと合流、カマ側に寄りつくもの

水は恩恵ですが、誤ると恐ろしいものです。
カシコートの調査も終わり、秋に備えます。
お元気で。

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