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カシコート=マルワリード連続堰

1.現在の自然河道と変化

クナール河と近年の変化

クナール河はヒンズークシ山脈南東部の降雨・降雪領域の水を集め、カブール河に注ぎ、パキスタンのアトックでインダス河本流に合流する。インド亜大陸から北上するモンスーンは、概ね東のカラコルム・ヒマラヤ山脈でより多くの降雨・降雪をもたらし、ヒンズークシ山脈では少なくなる傾向がある。インド・パキスタン側で洪水でも、アフガン側では渇水が起きることが稀ではない。

クナール河は高水位と低水位の差が甚だしい。一般に低水位期は10月に始まり、徐々に下降する。12月下旬に最低となって一定水位を保ち、3月中旬から上昇し始める。5月下旬から6月中旬にピークとなり、8月まで続く。
しかし、近年の不安定な気候で、変動が著しく、特に冬季の降雪量、夏季の集中豪雨の規模に、大きく左右される。
夏の集中豪雨は局地性が著しく、予測し難いのに対し、冬は比較的安定した雨期が訪れる。継続的に河の水量を保証するのは冬期の降雪である。

ここ20~30年間で見られる大きな変化は、
①増水期が以前より早く訪れ、異常高水位が多発すること
②降雪量が一定せず、年により著しく異なること
③夏期に、ゲリラ集中豪雨の多発と夕立の減少傾向が目立つこと

以上に伴って、洪水と渇水が同居して河川からの取水・灌漑を困難にすると共に、支流の中小河川沿いで地下水位の降下が観察され、カレーズによる灌漑も不可能になっている。また、不安定な取水と降雨で、播種や収穫の時機を逸し、農業生産は著しく低下してきた。

カシコート取水堰付近と最近の変化

建設予定の取水口は、マルワリード取水口の対岸にあたる。上流側の川幅は100~140mと比較的狭く、右岸は緩やかな円弧を描く岩盤でなり、左岸(カシコート側)は厚い砂礫を成している。堰予定地から下流側は、急速に川幅300~400mと広くなり、高水敷が広がる。さらに1.5㎞下流で再び狭まっている。

下流側の狭まりは、EC土木団体の主流閉塞工事(2004年)、PRT(米軍・地方復興チーム)の架橋(2009年)による。架橋部は104mで、2010年の大洪水時に激しい堰上がりを生じ、カシコートの村々を襲った。橋が折れて危険な状態だったので、2012年2月~4月、PMSが架橋部の両端を広げた。右岸の巨礫堆積部を掘削除去し、左岸の旧堤防を撤去して約30m川幅を広げ、旧中心河道を回復した。

取水口予定地点は、対岸との直角距離は約200m前後、マルワリード取水口側へ向かって斜め下流に河道が広がり、両点を斜めに結ぶ曲線は約600m前後ある。2010年までは、対岸との間に二つの中州があり、主要河道が右岸マルワリード側にあった。左岸カシコートは高水位期にのみ、二つの分流が高水敷を洗い、広々とした河原に浅い流れを作っていた。2010年の大洪水で、マルワリード堰のかけられた中州が流失し、低水位河道の一部となっている。

堰予定地から下流1.5㎞までの傾斜は1/300前後、堰予定地の直下150mまでが最も急で、約1/100である。カシコート側の河床材料は全般に礫石で、夏の河道では径30~40㎝の巨礫が表面を覆っている。河岸は砂礫が多い。これに対し、対岸マルワリード側では、岩盤または径60~100㎝の巨礫が露出していて、水深・流速共に大きい。


2.取水堰と関連工事の概要

以上の状態で施工する工事は以下の通り(別図参照);

① 取水口から上流約400mの左岸を幅50~60mにわたって掘削、川幅を拡大。
② 夏の河道を取水口下流側に移動し、堰造成による変化に対処。
③ 洪水進入地点から約2.5㎞、簡易堤防を設置、交通路を兼ねる。
④ 取水堰は、自然に形成された越流幅600mの旧中洲(流失)上流側縁に沿って建設、対岸マルワリード堰(約300m)と連続させる。
⑤ 流失した中州を一部復活し、長さ約60~100m、傾斜0.01で巨礫の石張りとする。
⑥ 堰全体で主な舟通しは4本、取水門直前に急傾斜のものを設け、土砂吐きとする。

このうち、①~③が洪水対策、④~⑥が取水堰造成だが、取水部は同時に洪水にも襲われやすい運命にあり、いずれも一体と見なすべきで、堰建設が周辺に影響を及ぼすものであってはならない。

これが成れば、対岸マルワリード取水口も安定し、今後の維持を容易にする。連続する堰全体は「Marwarid-Kashkot 堰」とし、半分を「Kashkot 堰」と便宜上、呼称する。石張りの総面積は約30,000㎡、厚さ1.0m以上。石材は50㎝以上の巨礫を使用、夏の様子を十分観察し、2年がかりで施工する。

余談だが、サルバンド村は、交通路をPMSが敷設して、最初の道路ができた。それまで病人の輸送は、畦道を担架にかつぎ、筏が使えぬ夏期なら、まる一日かけてカマ橋まで歩いた。今回の工事で農業生産が上がると共に、出荷が容易になり、村民は喜んでいる。

なお、河川工事は建築と異なって、あまりに不確実要素が多く、予測できない事態が発生する。計画はその都度、現場で変更して実施する。

以上

カシコート=マルワリード堰、主幹水路の要図

カシコート=マルワリード連続堰要図

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