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カブール河・クナール河の全域で渇水、ベスードIIは絶望的
~ベスードI・カマI・カマII・マルワリード・シェイワの各堰は安定送水を維持
カシコート工事、天王山へ~

気候は次第に寒くなり、高山の氷結が始まっています。10月中旬から劇的に河の水位が下がり、各地で渇水が起き始めました。
分けても気の毒なのはスピンガル山脈の北麓一帯、ソルフロド・アチン・ロダト・チャプラハルらの各郡です。ドゥルンタ・ダムで潤される限られた地域を除き、かつてアフガンで1,2を争った穀倉地帯は、ほぼ壊滅しました。ジャララバード市の人口集中は、ソルフロドからベスード方面へと移動しています。

職員はソルフロド郡出身者が多く、この十数年の推移をつぶさに見てきました。
アフガン政府なり、国連なり、NGOなりが、官民挙げてやろうと思えばいくらも機会はありました。それが何故できなかったのか、今、歯がゆさをかみしめているところです。

理由はいろいろとあったのでしょうが、総じて、地球規模で広がる気候変動とアフガン農民の困窮が伝わらず、国際的関心をひかないことも、大きかった気がしています。援助の大半がいずこかへ消えたのは、単に政府役人の腐敗や治安問題だけではなかったと思います。


明日から更に機械力を増やし、この6週間が工事の天王山、取水門付近の堰造成と護岸工事が「203高地」だと見ています。
今年失敗しても出来ぬことはないですが、カシコート5万農民の苦渋を伸ばし、莫大な欠損予算を補わざるを得なくなります。下手をすれば対岸マルワリード側に影響します。
ここは慎重に、一日一日の仕事を手際よく進めていきたいと思います。

工事では、洪水進入地点の処理と堰上流にある夏の河道の移動が焦点です。この点が分かりにくいとの指摘がありましたので、多少説明します。
厳密には河道移動ではなく、河道進入地点の移動です。水門から上流側の川幅を広げ、進入地点の推定流量を堰まで本流に流れさせ、堰の地点からから再び、広い高水敷と夏(高水位)河道へ戻してやるのです。
斜め堰の原理は同じですが、これまでは岩盤を背にして行い、上流の洪水進入を気にせずできました。今回は、異なった技術的工夫が要ります。しかし、カマI・カマIIで培った河道処理の経験が役立ちます。何とか切り抜けたいと考えています。

一週間後に、また報告いたします。

平成24年10月28日 記

マルワリード用水路・ガンベリ沙漠末端から送水されるシギ地域へのサイフォン造成。
20m毎に作っては埋め戻す、尺取り虫工法。涸れ川でも信じられない量の洪水が気まぐれに下るから、周りを土手で固めながら進む。
12月までにサイフォンを開通させると、分水路(送水路)1.8㎞の造成に集中できる。
2012年10月24日

カマIIの堰。
今年の増水は2010年の洪水に迫る勢いだったが、ほぼ安定している。崩れなかったのは、上流のカマIの堰地点で河道を分け、流水圧を分散したからだ。
今冬、再度点検し、必要なら小規模な改修を加える。冬ながら一日送水量は40~50万トンを維持している。
2012年10月24日

完成後1年半を経過したカマII主幹水路。
ヤナギが美しい。着工前はカマ郡全体で、冬の取水がほとんど出来なかった。雨がなければ小麦は枯死した。
現在、7000ヘクタールの耕地が余すところなくよみがえり、人口が数倍に増えている。
2012年10月24日

カマIの堰。
これが形状の上で山田堰に最も似ている。冬の越流長260m、夏は推定500mを超える。クナール河沿いで最も水位が安定した堰で不安がない。
2012年10月24日

カマIの堰で分けられた水量が、カマIIの堰を通過する。
2008年12月から続けられてきた努力は、3年がかりでほぼ落着した。
2012年10月24日

カマI・カマII堰対岸、ベスード側(右岸)の護岸。
樹木が成長して堤防が見えにくくなった(2011/4/27報告書参照)。連続堤防の根固め工に沿って、水深が約0.5m増し、流れも速くなっている。このため河の二分化が促進され、カマIの堰がかけられた砂州が上流側に伸びている。堰を安定させる望ましい変化。
2012年10月24日

ベスード側から見る。
成長した樹木で河が見えにくくなっている。堤防下段はヤナギの密植で根固めと連続。高水敷となるが、今年の洪水では、一部(数十メートル)で数センチの高さで浸かり、概ねヤナギの根元を越えることはなかった。
2012年10月24日

堤防下段の根固めの変化。
巨礫はほとんど動かず、堤防沿いに施工時より0.5m前後深く、かつ速い流れを作って安定している。
河床材料の弱い部分では、過度の洗掘が起きると、巨礫が河側へ転がり、そのうち安定する。巨礫間のヤナギの密植はドイツやスイスで盛んな「生物学的工法」を真似たもので、予想外に強い。
2012年10月24日

問題の1700m地点(下の図参照。2011年10月8日報告書に日本語版あり)。第一・第二分流の分岐点。
第二分流が不連続堤防による河床低下で主流化し、第一分流にある中規模のタプー堰が取水できなくなっていた。
「昨年から適量の分割」を目的に、分岐部の河床を上げる措置を取った。砂礫の堆積で流れにくくなっているが、目的は達した。来週中に最終措置を行い、工事を仕上げる。
2012年10月24日

タプー堰取水門(正面)。
小さいが、これでも700ヘクタール以上の命綱。水は細々と流れている。
2012年10月24日

水位が低下して、越流しなくなった斜め堰。
住民が土砂吐きに石を並べて、取水している。来週中に上記1700m地点を浚渫すれば、水が滔々と流れ込む。
2012年10月24日

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