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カシコート緊迫、12月初旬に大勢を決す
~降雨なし、ベスードII(タンギトゥクチー)流域の収穫壊滅~

今、カシコートは、のるかそるかの局面に入っています。用水路内は確実な見通しが付いたものの、堰と河道の処置が佳境に入りました。この2週間ほどで全てが決まります。何しろ相手が自然の大河です。
これまで幾つもの取水堰を手掛けてきましたが、PMSにとっては、おそらく最大の工事です。

工事を進めるに伴い、事情が分かれば分かるほど、恐怖と希望が同時につのってきます。「カシコートが最大・最後の仕上げ」と張り切っている間は、まだ夢を語るだけの余裕がありました。でも、実際の堰工事がマルワリード側に接近するほど、容易ならざる事態が明らかになってきました。細かな説明は省きますが、要するに、失敗すれば確実にマルワリード用水路が共倒れし、シェイワ郡が再び無人の曠野に帰する。成功すれば両岸共に、長期の安定灌漑が約束される。その分かれ目が、ここ二、三週間だということです。

戻ってから雨が一滴も降らず、河の水は更に下がります。ベスードII(タンギトゥクチー)流域(約700町歩)は乾燥化で今年の収穫を望めません。
ひっきりなしに陳情が来るものの、当方はカシコートから一歩も動けぬ状態です。もともと、外国軍の請負任せの粗雑な工事、富裕層の買収工作で巨額が消えたうえ、PMSの関与する余地が奪われたのです。貧しい農民たちは泣いています。

ほとんど河のことばかり考える毎日が続きます。しかし、作業能率そのものは驚異的で、地域自治会とジャララバード事務所の並々ならぬ協力、作業員・職員一同の組織的動きは、これまでになく見事だという他ありません。作業内容も、水門・水路の建設はもちろん、護岸、河道分割、地盤処理、巨礫輸送、交通路の確保、資機材の調達・輸送、鉄筋加工や蛇籠生産・・・と多岐にわたり、刻々変わる指示に従い、一片の無駄もなく動いています。これまでの総決算です。

小生の報告で、どれ程伝わるか分かりませんが、大自然相手の小細工は限度があります。一方で確かなことは、マルワリード=カシコート流域の20万農民の生命を預かっているということです。
この事情の中で、どこまでを「限度」とするか、決定は人間の観念ではなく、神意にあります。まるで鋭い刃先のような、人と天との接点で、修辞がない世界です。わずかな風のそよぎから、真っ白に砕け落ちる激流まで、何かを語るようです。
傍目には狂ったように見えるでしょうが、そうでも集中しなければ、とんでもない結末を生むことになります。

風蕭々としてクナール河寒し。正月が来れば、小生も齢67歳、手持ちの時間が少なくなってきました。他に望むことも殆ど無くなりました。

みなさんお元気で。

平成24年11月15日 記

シェイワ郡のマドラサ近くで立つ日曜市。
数年前から、毎週家畜市が立つようになった。夜明けから人と家畜が続々と集まる。用水路開通によって人口だけでなく、家畜も太って爆発的に数が増えた。
ダラエヌール、シギ、シェイワ、スランプールなどの周辺農民に、冬は遊牧民が加わって賑わいを見せる。主に牛や羊が売買されるが、数年前まで想像できなかった光景。水によって草地も増えたのだ。
2012年11月11日

シギ・サイフォン工事は、260m中、残るところ約50m。上流側の釜場が目前に見える。
2012年11月15日

シギ分水路は1.8㎞のうち、800m地点を工事中。
サイフォンが開通すれば、水タンク車が要らない分だけ工事は進む。向かいの林は、マルワリード開通後、余水を使って住民たちが植樹したもの。ここも月面のような荒れ地だった。
2012年11月15日

カシコート用水路の取水門と用水路壁下段の造成を背面から見る。
水門から約70mは4段のふとん籠をピラミッド状に積み上げ、高さ4m、中心に幅1mのコンクリート壁で遮水、高水位期の浸透水流入を防ぐ。
2012年11月15日

同正面。堰板を入れる溝は、厚さ6ミリの鉄板を加工し、床面に埋設して鉄筋に溶接される。
全体を強靭にし、大洪水でもビクともしない。PMS方式として定着した作り。
2012年11月15日

水門右翼側。
外側床面が幅広く第⑤河道(右手)に連続する。第⑤河道は当然堰の一部で、水位50㎝以上の水を流す。
2012年11月15日

取水門左翼側。
最も激しい流水圧がかかる部分なので、全体が岩のようなコンクリート塊にする。堤防とのつなぎ目に当たるので、平面上凹状の壁とし、凸状に堤防土砂が接合される。硬い構造物との継ぎ目は崩れやすいからだ。これで崩壊することはなかった。
2012年11月15日

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