前の報告へ | 報告トップへ | 次の報告へ

クナール河の急激な増水始まる
~カシコートの洪水浸入部、突貫工事
渉外・安全対策を強化、農業部の新態勢が発足~

今年も異常気象です。先週、寒波が戻ったと思ったら、3日前から急に気温が上がり、初夏を思わせる強烈な陽ざしとなりました。山々の白雪は突然薄くなり始め、河川の増水が始まりました。今年は、「早めの洪水、早めの渇水」、「夏期の降雨がなければ2000年夏以来の大干ばつ」と想定、全体の動きを引き締めています。ここ1~2週間が河川工事の限界と見ています。このため、焦点であったサルバンド村・洪水浸入部に機械力と人員を集中、必死の護岸作業が行われています。

また、農村で不作が続けば、おそらく政治的にも大きな変動があり得ると予測しています。PMSとしては、ジャララバード北部地帯(カマ・ベスード・シェイワ3郡)を守り抜き、同農村部の圧倒的支持を背景に、工事を遅滞なく進める方針でおります。

PMS事務所では、人々の動きを精細に把握し、地域の地縁血縁を縦横に生かして安全対策を強化、行政とも協力して地域を安定させるよう努力を続けています。この複雑怪奇な人間関係は、外国人には分かりにくい世界です。

アフガン農村を律するのは思想や党派ではなく、地縁・血縁の絆だけだと言っても過言ではありません。場合によっては、報道よりも正確で早く、人々の動向を察知することができます。怪情報をたどって行くと、意外な筋が源であったりします。しかし、不安要因の確実かつ最大のものが、薄くなった山々の白雪です。

PMSは今週から全力を集中して河川工事の仕上げを急ぐと共に、護岸線延長による大幅な遅れを取り戻すべく、4月下旬から5月初旬にかけて主幹水路1.8㎞に水を流し、残余工事を今秋までに完了する予定でおります。当面の河川工事さえ片づけば、一息つけると思っています。

なお、ガンベリ沙漠開拓が進むにつれ、こちらも組織的な動きが求められるようになりました。シギ村への送水、末端の湿地処理、植林事業、生産物の管理など、事業が質量ともに大きく拡がり、今後は農業部門を強化せねばPMS事業が分解してしまいます。このため、3月4日、アジュマル農業技師を中心に事務所と現場が一体になり、より計画的に農業事業を推進すべく、新体制が発足しました。これはPMSの現地事業上、大きな動きです。将来、数百名の開拓団が文字通り「食えるかどうか」、自立持久態勢の問題にも関ってきます。

自然は予測できません。護岸線の延長も、こんな急激な河川の増水も、計画当初は予想できませんでした。こればかりは、こちらが自然に合わせるしか方法がありません。あと一息です。ご協力に感謝します。

平成25年3月7日 記

ガンベリ沙漠のシギ村落で古い言い伝えがある。かつて同沙漠は豊かな村々が広がっていた。ケシュマンド山脈からの雪解け水が絶えず流れていた。しかし、次第に水量が減っていったとき、水争いで村は二つに分かれて流血の抗争、遂に共倒れとなって四散したという。

それを裏付けるように、明らかに段々畑を思わせるシルト層が砂の下に埋もれている。保水力があるのはこのせいで、開拓には望ましいものの、砂丘の隙間や窪地に浸透水が溜まる場所を作る。

ガンベリ沙漠開拓は、灌漑と同時に湿地処理が切り離せない

湿地処理の方法は単純で、ひたすら排水路を設け、浸潤線を下げることだ。
筑後川下流端にある柳川を想像すれば分かりやすい。ただし、単純でも根気が要る

シギ送水路第2サイフォン。始点から約800m地点。来週早々に完了予定
2013年3月7日

シギ送水路第3サイフォン。約1100m地点。これも来週中に終わる
2013年3月7日

シギ下流域の村落群は、殆どがガンベリ沙漠方面へ大移動し、水がある所、たちまち田畑を作る。写真は約1㎞地点で、建設中の分水路の水を利用して新たに誕生した小麦畑
2013年3月7日

クナール河の増水。連続堰の場所で、この3日間に25㎝の水位上昇が観察された。間もなく造成中洲の上を流れ始める。河の色が茶褐色に変わり始めている。取水門前の水位は、両岸とも95㎝。設計上は3.5m高さでも耐え得るようにしているが、こればかりは自然の裁きを待つ以外にない
2013年3月7日

カシコート洪水浸入部の護岸工事。護岸線は水門から1.6㎞に伸び切り、増水と競うように工事が進められている。現在最も集中している区域。河床から得た礫石は径20~30㎝、これを積んで護岸壁となし、河表に緩傾斜(1:4~5)をつけ、巨礫間にヤナギの密植を行っている。植樹時期が間もなく終わる。人海戦術で約300~400mの植樹を行い、夏期の増水に備える。裏法にはユーカリが植えられる。洪水が乗り越えても、樹林帯で速度を落とし、被害を減らす
2013年3月7日

護岸壁前の砂利堆積。護岸とは堤防を作ることだけでなく、出水時の異常な堰き上がりをかわすことだ。2010年夏、洪水は第一波が7月27日、第二波が7月30日、第三波が8月2日と断続的に襲った。最初の二派で巨礫の山が狭い河道を閉塞、続く数派が村に侵入したと思われる。対岸のマルワリード堰が健在だったのは、中州が流されて洪水流を開放したからだ。クナール河増水期に入り、もうすぐ作業できなくなる。工事を急ぎ、水の逃げ道を作る
2013年3月7日

洪水が運んで来た石は、ビックリするほど大粒で、護岸壁に利用できる。重機・ダンプの運転手もまた、この10年、PMSと命運を共にしてきた者が多い。水は誤れば人を滅ぼす。その厳しさを知っているから、指揮に従って難工事に挑む。今さら弱音は吐けぬ。これは総力戦だ
2013年3月7日

主幹水路は、これまで手掛けたものの中で最長。1790mはカマ第二取水口の約二倍。それでも1100mを既に仕上げた。下手をすると、ここも酷暑の泥沼作業になる。だがここは我慢、ひたすら石を積む以外に道はないのだ
2013年3月7日

調節池、排水門の床うち作業。基礎は表層の泥土厚さ1~7mを除去、巨礫層までコンクリート層で置換し、万全を期している
2013年3月7日

各作業班の中で最も早いのが構造物担当で、調節池の送水門は2週間以内に作業を終える。しかし、河周りの構造物はガンベリの作業班を緊急に送って乗り越えたいきさつがある。謳えない春を告げるや ヤナギかな
2013年3月7日

同時進行で排水路掘削が進む。排水路は旧主要河道をたどり、3.5㎞先で落差7m、クナール河に抜ける。地層は、砂利の上に泥土が堆積したもので、掘削は早い
2013年3月7日

前の報告へ | 報告トップへ | 次の報告へ