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連続堰工事着工
~クナデイ村・水車設置を完了
ガンベリ記念公園オープン~

やっとカシコートの堰工事に着手できました。大洪水による崩壊部、マルワリード側への交通路確保(河道③)、河道間を仕切る「堰中の堰」が目下の関心事ですが、生憎、連日の雨で工事が期待通りに進みません。それでも、8月から3カ月間石材を集積したおかげで、崩壊部を一週間で閉塞、現在、「堰中堰」造成と架橋作業が進められています。河道の処置の説明はややこしいので、興味のある方は添付の図と計画書をご覧ください。

揚水水車は、やっと基礎を終えて設置されました。思った以上の出来栄えでしたが、今後観察を続け、更に改善されてゆくと思います。

11月5日、ガンベリ沙漠横断水路の建設時の司令塔が公園化され、長年PMSで働いてきた職員たちが表彰されました。10年以上が普通で、中には20年、25年と働いてきた人々もいます。後藤会長と中村名で、賞状と記念品が渡されました。内々の集まりでしたが、州灌漑局、農業局長、ディダール技師、カリール技師、水利組合長なども列席し、10年前の着工時の様子などを語り合い、楽しいひと時を過ごしました。

今年は天候に恵まれず、大洪水の後始末も続いていますが、クナール河の水位が低い冬期に何とか連続堰を完成させ、カシコート全域の灌漑に着手しようと考えています。

カシコート主幹水路完成後は、PMS=ペシャワール会単独事業として旧水路の拡張(9.5㎞)を5年がかりで実施します。カシコートも帰郷・帰農する者が増え続け、今のままでは養えない事態が遠からず来ると見ています。これについては近々、正確な調査報告書を出し、ペシャワール会と行政側に諮ったうえで、12月初旬、正式に着工に踏み切りたいと考えています。

当地も夏から突然冬の気候が来たようで、川べりはかなり冷えます。

平成25年11月7日 記

河道④・⑤間の決壊。2013年9月28日、決壊部の手前15メートル前後に迫ったが、河の水量が多く、堰上がりで困難。いったん中止して機会を一カ月待った。

現在の状態。仮架橋(河道④)を再開。来週より河道③の処置に入る。2013年11月7日

2013年9月30日、破綻部の状態を近くから見る。構造物の上流・左岸側が大きく抉られ、激流となっていた。水深は4~5メートル、作業が危険なだけでなく、無理に押しつぶせば堰全体の水位が上がり、交通路を確保できなくなる。河の水位が下がる迄、待つ一手で、近傍に石材を貯めていた。

一週間の作業で少しずつ埋め、交通路を回復。構造物は左翼の一部が破損したのみで、大きな破壊はなかった。2013年11月7日

水利施設が設計図とアイデアだけでできると思っている人はいませんか。寒風と冷雨をついて、働く人々が居てのことです。作業員は若い人々が増えてきた。ここでは、人間は戦い、働くアリなのだ。実を重んずる気風は、労働から生まれる。2013年11月7日

マルワリード取水口、取水堰(河道①:水・砂吐き部)を遠望。2013年11月7日

マルワリード堰(河道②)を遠望。今回は、河道②の安定が最大の標的。2013年11月7日

河道④・⑤間の「堰の中の堰」の造成。河道④・⑤間の落差は約1.5m、自然に発生した回廊状の砂州は、大洪水が乗り越え、今回の破堤につながった。右岸マルワリード側と異なり、岩盤を背にしないカシコート堰は、別の工夫が必要。カシコート側の河道・水位を保つには、越流を前提に「堰中堰」が確実。2013年11月7日

同部工事風景。ともかく、巨礫による捨石工しか選択肢がない。3~5トン級の巨礫で傾斜をつけてゆく。2013年11月5日

河道③の上流端。復旧した中州の辺縁に置いた籠や巨礫が残り、周辺の水位を安定させる。越流線が著しく伸び、余水をこぼれるように窪んだ河道へ流すからだ。マルワリード取水口から300m上流のカシコート取水口の差が10㎝ほどしかないのは、このためだ。2013年11月5日

ここからの写真は、日本で撮影したものです。お間違えなく。増水時の現山田堰。この類似性は偶然ではない。堰の辺縁に巨礫(抱え石)を埋設し、水位安定を図る技術が取り入れられたのは驚くべきだ。(2013年8月)

河道を分け、目的とする取水口へ上流側の水位を運び、余水を堰の中の河道で受けさせる。堰体を強くするため、緩斜面で余水を落とす。工事中のマルワリード=カシコート連続堰も、寸分たがわずこの構造が採用されている。(2013年8月、増水期の山田堰)

現大石堰を下流側から見る。「堰の中の堰」という着想にどうしても行き着く。山田堰との共通項は、異なった水位の河道からの溢水を、いかに無理なく起こすかだ。(2004年11月 日本の大石堰)






カシコート工事区間の河道・砂州変化
-- マルワリード=カシコート連続堰 --

1.河道④・⑤間、および河道⑤⑥の変化

2013年8月、交通路を兼ねた河道④の架橋部左岸が洗掘されて部分的に崩壊。コンクリート構造物の直下(約2m)がえぐられ、河道⑤⑥に注ぐ水量の殆どがここを通過、幅約40m、水深4m前後、落差1.5~2.0mの急流を成した。

河道⑤・⑥では、著しい土砂堆積が起き、流水が上記の洗掘部を通過、9月下旬までに同河道の流水が途切れた。また、堰先端線から直角の流方向に沿って、下流部の右岸側の洗掘、左岸側の土砂堆積が観察された。

2.復旧砂州(河道③)の変化

 この部は、幅約200m四方の砂州があり、マルワリード取水口から伸びる斜め堰が掛けられた場所で、河道造成をめざして2012年、中州を低位置で復旧したものである。 今年10月に観察された変化は;

●表層の砂礫が流され、高水位河道が形成されている。
●河道④より0.5~1.0m高い位置で、幅約100m、砂州の下流端まで約120m、より緩やかな傾斜(約1/100)で下る。
●下流に向かうに従い、より高い位置にある河道②から越流する水を集め、次第に大きな中心流を成す。
●上流端辺縁(約70m)及び河道②との境界(約120m・旧砂州右岸)に敷いた巨礫、護岸用の蛇籠列が残存し、マルワリード側の水位を安定させている。

-- 連続堰より1.5㎞下流の変化 --

●2013年6月、壊れたカシコート橋脚の直前、河道中心で砂州発生が見られた。既に6月、橋脚より上流に小さな(目測で径約10m)が確認されたが、その後数派の洪水で消えた。10月になって、同地点から下流に幅広く伸びる砂州形成が観察され、折れた橋脚の中心が埋められている。発生した砂州は、長径約80m、短径40m前後の紡錘状で、低い位置にあり、下流端が傾いた橋脚の基礎を埋めている。

●橋の右岸側B岩盤、左岸側堤防・水制に沿って河床が低下し、砂州形成による堰き上がりは皆無であった。

●河全体は橋の約800m上流から左岸カシコート側に向かって緩やかに弧を描いて蛇行、カシコート側で河床低下が著明、右岸ジャリババ側で多少の砂礫堆積が観察される。

-- 考察と対策 --

クナール河の旧主要河道(2003年)は、現マルワリード堰にあり、冬季の90%以上の流れが通過していた。しかし、2010年8月の洪水で対岸砂州が完全に流失した上、同部に深い中心河道が形成された。このため、堰の側に用水が乗らなくなり、マルワリード流域は取水困難で再沙漠化が懸念された。

カシコート側の取水に必要な水位を得るため、2012年秋の工事で砂州を低位置で回復、「連続堰」とする計画が実施されたが、これは同時にマルワリード堰復旧を意味した。厳密には「砂州回復」ではなく、「適切な位置の河道造成」である。約100m四方、「回復砂州」の基礎全体を巨礫と籠を敷き詰め、粒径20~40㎝の礫石で覆い、全体を平皿状に造成し、緩傾斜とした(2012年12月)。今回の大洪水で、表面の砂礫が流されたことにより、高い位置で、安定した河道が自然に形成されたと言える。

河道④・⑤間の破綻は予想しなかった。原因は、カシコート取水門右翼が激流を刎ねて同部へ向かい、コンクリート構造物と砂利層の間で洗掘が発生したことである。もともと、これを想定して架橋部をコンクリートで急傾斜を作り、砂吐きを兼ねる設計であったが、構造物と自然砂州との接合処置が不十分であったと思われる。

対策は、以下に要約される。

1. 大きな崩壊が起きた河道④⑤間は、捨石工で厚く埋め、増水期に越流する区間、長さ約100mにわたって堅牢な「堰中の堰」を築く。
2. 河道⑤の堰上流端を流方向に対して直角にとる。
3. 洪水で自然に形成された河道③は、基本的に大きな操作をしない。上流端で仮架橋(約30m)を行って河道②への交通路を確保、適切な流量を確保して改修に伴う堰上がりと、夏の土砂堆積を軽減する。
4. 河道②の越流長を増し、堅固にする。(巨礫の石張り傾斜を緩やかにする)
5. 旧中洲辺縁の蛇籠列、巨礫列を補強、更に安定させる。
6. その他;壊れたカシコート橋脚の直前の砂州発生は、橋脚の保護となり得る。手を加えず、観察を続ける。カシコート側護岸の脆弱部を水制で強化。

連続堰と河道の最終位置(模式図)

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