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ガンベリ沙漠の水田――素人の観察メモ

はじめに

東部アフガンでは、難民帰郷による人口増加が著しい。PMSの「緑の大地計画」の目的は、膨大な農民層の帰農を促し、食糧自給を実現することにあった。そのために農業用水の確保が急務だと見たのである。

確かに「安定灌漑」の実現によって、乾燥化で荒廃していた農地の回復はめざましく、多くの農民が自給できるようになった。しかし各村落の人口が予想以上に増加し、今後、より集約的な農業が求められると思われる。現地では小麦から作るナンが主食で、栄養価の高いコメはより高価である。この理由は一重に、多量の水を要する水稲栽培ができなかったからで、PMSとしては流域全体で大幅に奨励する方針である。単純に、水稲は連作ができ、水田そのものが土地を肥沃にするという、現地の考えに基づいている。このため、以下を指針としている。

  • 河からの取水量、既存水路への送水量を増すこと
  • 排水路の充実と湿害の防止
  • 効果的な水稲栽培方法や輪作の研究と奨励

ガンベリのPMS農場は、3)を目的として、2013年度から水田開発を拡大してきた。小さいながら試験的な作付けをくり返し、PMS職員自身の自給と共に、地域での範となるように努力している。

2013年度の試みと結果

別表に今年度の収量を示す。

  • 全体では約9ヘクタールで約15トン、種もみの総量は900㎏で、約17倍の収穫を得ている。ヘクタール当たり約1.7トン以下と少ないが、条件別にみると、かなり異なる。
  • 大きな差が出たのは、①きちんと田植えしたもの、 ②マメ科のシャフタル(シロツメクサに似た、アルファルファ原種)を裏作に植付けしたもので、突出して高収量になっている。二つの条件を満たす区画C9~C16、計3.7ヘクタールで11.7トン(単位面積当たり3.2トン/ha)である。直播きの収量は、その五分の一である。
  • 「田植え」の中でも、細かく見ると、ヘクタール当たり4トンに迫るものから、3トン以下の二群に分かれている。
  • 小麦の収穫地で水稲栽培が行われなかった。

なお、種もみは、ベスード郡で栽培されたもの、州農業省の奨励するものと二種類を使った。何れも現地で一般的な長粒米に属するもので、結果は殆ど変らなかった。日本種は使用しない。これは脱穀・保存・調理の方法や嗜好が異なるからで、結局、「現地に定着していたのが最善」という結論である。

考察と2014年度の方針

  • 先ず、思ったより収量が多かったのが印象的である。直前の土壌分析では、pHが高いこと、EC (電気伝導度)やCEC(塩基置換容量)が極端に低いことが指摘され、「要するに生産性の乏しい荒地としか言えない」という判定が複数の研究所から出された。
    今となっては、サンプル採取に問題があった可能性もあるが、水田そのものによる土壌改善効果も少なくないと思えた。

ガンベリ沙漠では、表層の砂質土層の直下0.5~3.5mに厚い粘土性シルト層が広範囲に存在する。保水性がかなりあり、ナトリウム塩が少ないことは、ボーリング井戸の掘削で知られていた。
また、それまで行われていたスイカ、落花生らの栽培では例を見ない好結果を得ている。洪水のあと地は、野草が旺盛に繁殖し、樹木の活着も良好である。
全くの不毛の大地ではないことは、これまでの経験から漠然と想像をしていた。今回のコメの収穫は、それを実証したと言える。

  • 13年度、水稲栽培は土壌改良の目的で始められた。農家に負担を与えず、かつ安全な食を目指し、ほぼ自然肥料が中心であった。
  • マメ科植物(落花生、大豆、シロツメクサ、アルファルファなど)を大量に植える
  • 人糞や家畜糞を集めて土中で発酵させる
  • 洪水通過地に堆積したシルトや沼地の土を集める
  • 収穫後の野菜や果物、落葉などで堆肥を作る
    そして最大の努力は
  • 長大な砂防林を造成して、砂嵐と洪水で表土が流失するのを防ぐこと、であった

そのいずれもが好影響をもたらしたと思われる。

「水田造成そのものが土壌改良」という考えは全くその通りで、田圃にはカエルや水生昆虫が繁殖し、それを捕食する鳥や小魚が入り、有機物の堆積を増大したと思われる。

  • 水稲の直播きは非常識と思われようが、現地では「手間をかけずとも粗放農業で十分」という考えが根強くあり、田圃造成に熱が入らなかったことがある。
    初歩的ではあっても、水稲栽培による土壌改善の効果、水田保全の大切さを知りたかった。もちろん自然条件によっては、直播きで事足りる場合はあろうが、少なくともガンベリ沙漠では不向きである。

  • 区画ごとの収穫高比較から容易に想像できるのは、シャフタルによる窒素固定との関係である。
    ただそれだけでないことは、シャフタル関係でも収量が二群に分かれて多寡を示していることで、次回の土壌検査と共に、次年度の正確な条件記録を伴う収穫結果を待ちたい。
    日照時間・気温・湿度・田植え時期・追肥量と種類・品種らについて、基本的な記録ができなかったのは惜しまれる。

  • 小麦畑を水田に使えなかったのは、PMS全体が洪水対策に追われ、農繁期に人を動員できなかったことが大きい。
    小麦収穫後の田おこしができなかった。やはり小麦の栽培は必須で、今後、水稲といかに両立させるかの工夫が欠かせない。次年度の試みに待つ。

  • 菜種の緑肥はマメ科に比べると効果が劣る。ただし菜種の生育そのものが優良と言えなかった。

結語

やや粗雑な「試験農場」であるが、ともかく努力すれば、現地に適い、コストをかけぬ方法で、「1ヘクタール当たり4トン以上」の目標が夢でなくなった(日本では一般に、普通米6トン前後、ブランド米4トン強と言われるが、ふんだんに農機具、薬品、肥料らを投じての話だ)無機肥料・殺虫剤の購買を抑えて生産の実を上げれば、東部アフガン農村が自給する強力な柱になると思える。実際、ダラエヌール試験農場時代に試みられた九州の「旭竜」は、現地向きではなかったものの、単位面積当たりの収量が日本を凌ぐことが実証されている。2014年度は更に水田を拡大、実践的な試みを重ねる。

小麦を軸にした冬野菜らの裏作と、豆類、米、トウモロコシらの収穫をいかに組み合わせるか、輪作を含めて、長期かつ継続的に農業生産を高めることが今後の大きな課題である。現地農民層と協力しながら、進めていきたい。

2014年3月12日 記



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