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ミラーン流域の村落調査

1.人口および耕地面積

ミラーン取水口は東西二つ並んであり、夫々異なった集落を成している。

(1ヘクタール=5ジェリブで計算されている)

これより、およそ4000家族が1100ヘクタールの耕地で暮らしていると見られる。人口の把握は正確には困難だが、家族数は地域の自治会で大凡を知ることができる。農村地帯では一家族が10人以下であることは少ないので、「約4万人」として大きく違わない。一家族を養える耕地は普通2ジェリブ(約4反、0.4ヘクタール)以上で、ミラーンの場合、平均2.8ジェリブである。おそらく荒廃地や草地を含むので、安定灌漑が実現すれば、より安定した生活を保障できると思われる。

部族や民族は様々で、パシュトゥン系、パシャイ系、北部からの移住者が入り乱れて居住、民族間抗争はないが、渇水時に村落間で水争いが頻発する。

2.灌漑に関する地勢と問題点

ミラーンから導かれる水路はクナール河に沿って南西に流れ、一部はカブール河本川との合流地点に至る。長さ8㎞で約30mの落差があり(平均傾斜0.0035)、水路自身の灌漑能力は高い。二つの水路は約500mを並行して走り、共通の排水路を持つ。ひとえに、取水システムに難点がある。

問題は以下に要約される。

  • 取水口が洪水にさらされやすいこと。
  • 安定した取水・送水の調整ができないこと。
  • 夏期の土砂流入が著しいこと。

取水は他の地域と同様、いったん洪水まで取り込んで、中途で過剰水量をクナール河に排水するシステムで、洪水の影響を受けやすい。日本のように河際に水門を設置して 水量調整する仕組みではない。また、取水堰に大きな不備がある。単純突堤で堰き上げるため、突堤先端に洗掘を生じて河床が低下、数年で用水が乗らなくなる。

このため灌漑が不安定で、安定した農業生産ができないでいる。夏に水量が多いと洪水が田畑に侵入し、冬の水量が少ないと小麦の収穫ができない。渇水時には順番制で各 村に給水されるが、順番を待っているうちに作付けの機会を逃す村が多い。

実際、PMSが観察を始めてから、ほぼ毎年、取水口の位置を変えている。2003年以降、某NGOが同部の洪水対策で堤防を築いて取水口を設けたが、2010年の大洪水で崩 壊、数十ヘクタールの土地が流失した。確かに堤防・堰の建設に技術的問題があるが、クナール河は有名な暴れ河で、夏冬の水位差が激しく、それも近年ますます不安定さを増 していることを考えねばならない。

取水口から排水路まで約534m、ここから約500mの排水路が東西水路で共有され、夫々の水路が土手をくぐって給水路を成す。水量調整がこの地点でなされるが、石を積んで 調整する簡素なもので、送水路は土管(径80㎝)を連結してくぐらせている。十分量が取水できているとは言い難い。このまま推移すれば、同流域の農業生産がジリ貧に低下し、 危機的事態に陥ると予想される。

(地図・写真参考)

3.対策

上記のような問題は、クナール河沿いの他の地域と同様で、培ってきたPMS方式の取水システムが有効と思われる。即ち、

  • 河道全面堰き上げの石張り式斜め堰、
  • 堰板で水量調整する取水門、
  • 主幹水路でいったん調節池(沈砂池)に導いて土砂を排水、上水を送水する方法である。
  • また、堤防造成時に適切な位置で十分な余裕高をとり、根固めを強靭にすることが求められる。

ミラーン取水口を下流側から見る。二つ並んでいるのは、水系と土地所有が一体で、夫々別の水番(ミラバーン)が管理しているからだ。2007年頃までは 同位置から約1㎞上流にあったが、年々崩壊をくり返し、現在の位置に後退した。
2014年5月12日

用水路は約530メートルを並行して走り、排水路に突き当たる。

排水路に突き当たった二つの水路は、写真左の道路を土管でくぐらせ、余水を排水する。石を積んで水位を調整するが、洪水と渇水に弱い。

排水路は約500mを下って、クナール河に戻される。護岸は右岸側(写真左)だけで、左岸(写真右)は年々流失する。

取水口を上流から見る。普通ひと夏で流され、次第に後退する。

取水口の上流側。もろい砂質か粘土層で、毎年冠水した上、表土が洗われて耕地を失う。第一、危険。

現取水口から1㎞上流にある旧取水口。ベスードの請負が日本の資金で作ったというが、実体は良く分からない。河床が2メートル以上低下して、取水は困 難。

現取水口から800m上流にある旧取水口。こちらは住民自身が作ったが、一年で崩壊した。土管を入れた簡素なもので、調節機能がない。

同取水口は水門がなく、造成後は高水位の自然河道になってしまった。冬は涸れる。

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