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ガンベリで「オレンジの花・詩会」開催を準備
~PMS職員の自給態勢本腰~

外気温は40℃を超え、さすがに暑いですが、仕事は着々と進められています。昨年の河周り工事の奮闘で、今年は気分的にもずいぶんと余裕が感ぜられます。再々触れたように、一連の「取水システム」の技術的完成度が高くなり、「緑の大地計画」は山を越しつつあると見ています。焦点は、①ベスード第二堰(ミラーン)の着工、②カシコート既存水路9.8㎞の延長、③ガンベリの主幹排水路の完成に当てられてきました。

何れも小さな工事ではありませんが、時間をかければ可能とみています。政情は依然として不安定ですが、今回の選挙でより良い結果が生まれると、みな期待しているようです。日本と全く逆で、人々は長い戦乱に疲れ、勇ましく拳を振り上げる者や、外国軍の力に頼って権力を濫用してきた軍閥に嫌悪感が広がっています。文字通り「平和志向」が現在の大きな流れで、この流れはもはや変わらないと思います。政府・反政府勢力共に、民意を無視できず、妥協へ向かうと期待されています。政権交代が穏便に進めば、秋頃までに展望が開けるのでないかとの見方が一般的です。

おそらくPMS事業の次の段階は、気候変動による農業の荒廃に対し、解決法を積極的に提示することにあると思います。これまで、莫大な外貨の流入で問題が反って真剣に受けとめられにくかったと考えます。農業生産は数年前、既に半減が伝えられたにもかかわらず、パキスタンやタジキスタンなどから輸入、辛うじてしのげたからです。善意の援助も、「食糧販売国際市場」を大きくするだけで、他国に富が流れ出していきます。

この旱魃は半端なものでありません。スピンガル山脈の穀倉地帯、特にソルフロド郡の壊滅は先に述べた通りですが、かつてアフガン全土に供給していたオレンジの生産消滅は、危機感を広げました。

アフガン人は農民かつ詩人でもあります。象徴的に反映されるのが文学の世界で、伝統的な「詩の会」の行き詰まりが伝えられます。アフガンでは、「カンダハルのザクロの花」、「ジャララバードのオレンジの花」が地域の象徴で、毎年3月、各地から人々が集まり、詩を詠み合います。ジャララバードの「オレンジの花・詩会」は特に有名で、東部アフガン全体、パキスタン北西部からも詩人たちが集まり、政治や身分を超えて賑わいます。

しかし、この数年オレンジ園が消滅し、知事官邸近くで細々と営まれるようになっていました。PMSとしては、ガンベリで大規模なオレンジ生産を始めようとする中、州内で最も治安が良いPMS農場で「オレンジの花・詩会」の開催を提案、大きく動き始めました。花は戦乱の今でこそ、いっそう美しく映えるものです。来年3月、運良く情勢が落ち着けば、日本人も招待できるかもしれません。ご期待ください。

平成26年6月23日

ピークを迎えたクナール河の増水。河道②が最も深い急流を成している。
2014年6月18日

連続堰の両端、カシコート・マルワリードの取水口の水位変動。6月初旬まで比較的低気温が続いたが、酷暑の到来と共に水位は平年並みに復した。 4 月に比べ、マルワリードで約1.2m、カシコートで約1.4mの上昇。現在がピークと考えられる。今のところ異常降雨がなく、平穏に推移している。両取水口の水位差が水量に比例して増すのは、カシコート側取水口が約300m上流にあり、河の勾配だけでなく、河道②で大量の水か抜けるからだと推測される。しかし、大洪水時の砂州移動の影響を考慮すれば、河道②に深い急流を作って径の大きな礫石を通過させ、堆積を防ぐのが妥当だとの判断で設計してある。昨年、カマ堰で苦杯をなめた教訓。分割した河道に砂利が堆積して傍流を塞ぎ、堰に負荷がかかって部分決壊を起した。

カシコート取水口。今年で最高の水位。
2014年6月18日

PMSでは、①河道全面石張り式斜め堰、②二重堰板方式の取水門、③蛇籠工・柳枝工による主幹水路、④調節池(沈砂池、堰板式の送水門、底水をさらうスライド式排水門)を一連の「取水システム」とし、将来クナール河流域やカブール河本川で拡大する方針である。実際には無数の者、特に日本の募金者と地元勢の血のにじむ努力の成果だが、地元勢の強い要望で「中村方式」とされた。どんな賞や賛辞よりも、一枚の石版に絶大な信頼と好意を感ずる。
2014年6月18日

堰板の寸法、強度、重量、チャルハを使った上げ下ろしらも10年の間に工夫が凝らされ、ほぼ定式化した。これについては、川口くんと昨年亡くなられた鬼木さんの功績が大きい。水門の形状は、カマ第一堰(2009年竣工)で原型が出来上がり、カマ第二堰(2012年竣工)とベスード第一堰(2013年竣工)で完成した。取水幅を大きくとって無理な堰き上げを不必要にし、日本で一般的な倒伏式(電動式)の代わりに、手動式の堰板を用いて現地になじんだ。
2014年6月18日

一連の護岸工事で、カシコートの耕作地が広がっている。取水門から上流側には約20ヘクタールの耕地が復活し、数十家族がパキスタンから戻っている。水さえあれば、彼らは水田を作る。田植えも今がピークだ。サルバンド村
2014年6月18日

取水口付近の樹林帯の造成。洪水は運命的なもので、完全に抑えることはできない。必要なのは犠牲を最小限にする工夫だ。吾々の結論では、遊水地を十分にとって居住地にせず、堤防を越える洪水が来ても、樹林帯を到る所に設け、洪水の流速を減殺するのが確実。かつて成富兵庫が佐賀の嘉瀬川で、加藤清正が熊本の白川、緑川らで採用したもの。PMSでは、ベスード郡の護岸とガンベリ平野の鉄砲水対策で効果を確認、積極的に推し進めている。 ヤナギとシーシャムを主に植えるようになったが、ユーカリは約3年で6メートルに成長、即効性の上では捨てがたい。
2014年6月18日

調節池に急きょ加えられた送水門(建設中)。激しい洪水の危険性が遠のき、沈砂池下流に200ヘクタール近い耕作可能地が発生したためだ。
2014年6月18日

送水門と既存水路を連結する水路は約250m、二つのサイフォンをくぐる。ヤナギは挿し木後6ヶ月。ひと夏越せば水やりの手間を離れる。
2014年6月18日

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