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ガンベリ沙漠・灌漑に伴う気温変化

■ はじめに

PMSでは、2010年にマルワリード用水路(約25 km)を開通しシェイワ郡の大部分を回復すると共に、全くの荒野であったガンベリ沙漠の開拓(全体で約900㌶)に取り組んできた。この間、洪水や砂嵐に襲われ続けながら、緑化を進めてきた。

他方、東部アフガンで信頼できる気象情報が乏しく、2011年から農業班が気温と水温を記録してきた。記録は2011年から始められ、灌漑や砂防林による気候変化を知ろうとしている。本来は開通時点の2009年から始めるべきであったが、2011年頃はまだ沙漠気候の印象が強かったので、不充分ながら経過をまとめ、今後の参考に供したい。

■ 方法

記録はガンベリ沙漠の一角に開かれた鉄筋加工や蛇籠のワークショップ(現ガンベリ記念公園)で、沙漠で唯一の日蔭であった。記録は、①気温(午前10時、午後2時((2011年のみ正午)と2回、作業場の日蔭で実施)、②水温(午前10時、午後2時(2011年のみ正午)と2回、近傍のマルワリード用水路で実施)、および天候(晴れ、曇り、雨)について行われた。

治安や休日の問題があって、記録できた日数は通年で70~75%程度である(表1)。温度計は簡単なデジタル温度計などを使っている。

天候については、細かな記載ができず、「晴れ」は概ね快晴、「曇り」は雲が多くほとんどが日蔭の場合、「雨」は少しでも日中に降雨があった場合で、小雨から土砂降りまで全てを含む。夕刻や夜間の降雨は、翌日が晴れであれば、記載されていない。従って、正確な雨量を表すものではない。

■ 結果と考察

別表の通り。

表1. 各年の記録をしなかった日数。

表2. 2011年1月から2014年5月までの各月の平均気温と平均水温、
晴れ、曇天、降雨の日数。

表3. 午前10時と午後2時(2011年のみ正午)の月平均気温の推移

表4. 気温と水温

表5. ガンベリ沙漠の気温と日照・降雨、月別と季節別表

表6. 気温・水温推移グラフ

記録が毎日ではなかったものの、非記録日が各月に万遍なく散っているので、各月平均値(記録日の値の総計を記録日数で割ったもの)は大凡の実態を表していると考えてよい。

惜しむらくは、2011年の測定時間だけが正午で、厳密な比較ができない。しかし、日中気温はほぼ例外なく午後二時頃が最高なので、2012年以降との比較は、その分を考慮して考え得る。午前10時のものが、変動をより忠実に表している。

1.全体の気温が年毎に下降する傾向が見られる。年平均で5℃前後、特に2012年  以降は夏の気温が10℃以上、劇的に下がっている。冬季も下がっているが、概  ね5℃以下の下降である。
2.水温は気温と共に変動するが、午前10時は比較的一定しており、正午または午  後2時のもので変動が大きく、夏季の水温が2012年以降に著しく下がっている。
3.天候と気温の関係は、月平均で見る限り明らかではない。冬季と夏季に雨天日  がやや多いが、単なる天気日数と月平均との相関関係は薄い。調査法にも問題  があり、正確には日照量(時間)と雨量の測定が必要と思われる。

以上から推測できるのは、ガンベリ沙漠の環境の変化である。

2009年8月に沙漠横断水路が開通した折、摂氏50℃を超える日は珍しくなかった。精確な記録がないので断定できないが、その後の開墾の推進で気温に影響を与え得る要因がいくつか考えられる。

① 砂防林の成長で熱風や洪水が減少したこと
② 灌漑面積の拡大で湿潤な土地が増加、地表だけでなく、地下水も上昇したこと
③ むき出しの砂地が減り、草地が著しく増えたこと(植物による掩蔽面積増加)

おそらく、その何れもが関係していると思われるが、砂防林の著しい成長が効果を表し始めたのが2012年以降である。約5 km、幅200~400mの樹林帯(紅柳、約20万本)が8m以上に成長し、熱風や砂嵐だけでなく、洪水を緩流化してガンベリ全体の保水性を増している。それまで、激しい熱風で水辺のヤナギがドライフラワーのように乾燥する夏日さえあり、開墾が危ぶまれる程であった。

灌漑による田畑の増加も明らかに関係している。また、湿潤さを増した土地で自然植生も増え、草地が広がり始めたのが2012年頃であった。

水温の低下は、ヤナギの成長と関係が深いと思われる。特に遮蔽物がなかったガンベリ沙漠では、ヤナギの木陰が用水路を覆うようになり、直射日光が当たり難くなっている。

蒸発熱も無視できない。2008年~2010年にかけての工事中、大きな貯水池周辺では著しい気温の低下が確認されている。

いずれにしても、灌漑事業そのものが、灌水を可能にして草木の成長を促し、成長した植物が温和な気候を生み出すという、好循環を示していると思われる。今後も観察を続け、灌漑の重要性を実証していきたい。

 

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