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ベスード第二堰(ミラーン)、第三次JICA共同事業を契約
~ミラーン、洪水で現取水口流失、緊急措置を開始
   流失したシギ堰、5㎞下流で再建・着工~

今週は伝えきれぬほど多くの出来事がありました。政治面では、23日、新大統領が悪事には厳罰で臨み、和平と秩序を回復すると表明しました。治安改善への期待がふくらみ、一転して安堵感が広がっています。人々は戦火と無秩序に辟易しており、もはや暴力的解決は力を持たないでしょう。

事業面では、「ミラーン共同事業の開始が焦眉の急」と見ていましたが、大きな河川工事を伴う上、政情が悪化する中、果たして事業ができるのか、開始が危ぶまれていました。でも、多方面の協力を得て、去る9月20日、ナンガラハル州知事公邸で無事署名式を行いました。さすがに今回は皆心配していて、署名を終わると、一同大きな喜びに包まれました。奔走された関係者、全ての方々に心から感謝します。

実際、間一髪でした。今夏は昨年のように大きな洪水が来なかったにもかかわらず、7月以後の増水期に、ミラーンの現取水口を含む長さ約1.5㎞(堤防予定線全域)にわたって、幅50~80mが浸食され、再測量と計画の修正を余儀なくされています。調節機能のない旧取水口から洪水が侵入、十数ヘクタールが急流で洗われ水面下に沈みました。主流の矛先が変り、日に日に浸食が進んでいます。昨年のシギ堰流失と全く同じパターンです。一週間後にイード(犠牲祭)ですが、イード明けまでに更に数軒が濁流に呑まれると判断、作業地域から急きょあるだけの機械力を投入しています。

一方、昨年取水口が流失して着工を延期していた上流のシギ堰は、ひと夏を経て安定した場所、旧取水口から約5㎞下流地点に新しい堰を設けようとしています。昨年開通した「マルワリード・シギ分水路」で潤されたシギ下流域は安定灌漑が成り、渇水に喘ぐ上流域と明暗を分けていました。そのため、上流域で水争いなども懸念され、早期着工に踏み切りました。「シギ地域安定灌漑計画」の詳細は、昨年の報告をご覧ください。

今秋も昨年に劣らず、多忙となります。予定される工事は以下の通りです。
 1.ミラーン護岸と取水堰・取水口建設
 2.シギ堰(シギ上流域)の建設と護岸
 3.小改修;カシコート連続堰、タプー堰、ベスード第一堰、カマ第二堰
 4.ガンベリ主要排水路
 5.ガンベリ記念公園と農業事務所、牛舎の建設

農業関係では、サトウキビの初収穫、小麦の大幅な増産、果樹(柑橘類)の増加、砂防林の拡大などがあります。女子校舎の建設は、カシコート方面の治安が厳しくなっているので時機をうかがっていますが、体力と安全の限界を超えていると思います。来春まで待たざるを得ないと思います。

とはいえ、この政情で渇水地獄の不安、逃げる先のない農民にとっては、PMSの仕事の成功にすがるしかありません。ここは何としても、各水利工事の見通しをつけたいと考えています。事務局も大変でしょうが、「現地関係・事務」の重要性が更に増しています。ご協力を宜しくお願い申し上げます。

平成26年9月25日 記

州知事公邸の署名式。この時点で、政情・治安は大統領が決まらず最悪、暗いニュースが多い中、一縷の希望を与えるものとなった。知事はカマ郡出身、内戦中はゲリラ党派を率いてクナール河沿いを転戦、PMS作業地の過去の沙漠化した状況を知っていて、理解を示した。
2014年9月20日

ナンガラハル州知事の表彰状 (長年、PMSがマルワリード、シェイワ、カマなどの灌漑、医療らで州の復興に尽くした感謝が述べてある)

お褒めはあり難いですが、実際の現場は・・・・。計画されたミラーン用水路ルートと河岸変化(2014年夏)

ミラーン、倒壊した護岸壁(護岸始点から約30m地点)。護岸根方の洗掘が年々進んでいたが、3カ月の間に倒れるとは思っていなかった。
2014年9月22日

農地の流失。既に低水位期が近づいているのに、異常に多い水量が通過する。詳細と対策は、別の添付書類をご覧ください。
2014年9月22日

危機一髪。これは時間の問題だ。水田が幅80mにわたって消え、河岸線が農家に迫っている。9月25日に他地域の作業を一時停止、機械力を集中し始めて緊急工事を直ちに実施。
2014年9月22日

ベスード第一堰の改修。昨年、激しい洪水で対岸が浸食された。流方向をカブール河の中心へ向かわせ、被害を防止するもの。河川の動きは、長い時間をかけて観察し、必要なら改修をくりかえす。こうして堰は強くなり、地域になじんでゆく。本堰は2012年に竣工、観察・改修を5年間としている。
2014年9月21日

洪水時に脆弱なのは、堰体と砂州との接合部だ。PMS方式では、堰の巨礫と砂州との間に籠を埋設してつなげる。洪水流にはめっぽう強く、今まで大きな洗掘は見られていない。広範囲な場合は井形に組み、中に砂利を入れるだけで十分威力を発揮する。
2014年9月21日

シギ下流域を潤す「マルワリード・シギ分水路」末端2㎞地点。この一帯も最近まで沙漠の一部だったが、完全に緑化している。今夏から、やっと恒常的な流れとなり、日に10万トン以上が送られている。これによって水量調節が楽になり、ガンベリの湿地化を恐れる必要がなくなった。
2014年9月23日

道路を横切ってシギ下流域に注ぐ。水争いは消え、順番の潅水を長く待つことがなくなった。
2014年9月23日


ミラーン取水口の河岸浸食と対策

■ 取水口の変遷と2014年夏の変化

ベスード郡のクナール河の河岸は、郡全体の約35~40%の農業用水を供給するが、同時に激しい洪水にさらされる地域でもある。同河川沿いには中小の取水口があり、ミラーンが最大で計1100ヘクタールを潤している。しかし、他地域と同様、幾多の変遷を重ねて現在に至っている。

PMSが観察を始めた2003年からわずか10年の間に、取水口は3回も替えられている(別図参照)。2004年までに建設されていた取水口Aは、2005年には用水が乗らなくなり、住民自身の手で約400m下流のB地点に移された。だが、2010年の大洪水で破壊され、主水路自身が高水位河道の一つになってしまった。C地点に移された取水口は、2013年の大洪水で再び浸食され、現取水口のD地点に更に後退した。この間、数十ヘクタールの農地が流失し、多数の住民が同水路の下流域に難を避けている。

2014年6月までの観察と調査では、やや後退はしたものの、同地点近傍からの取水が可能であった。しかし2014年9月中旬までに、右岸の侵蝕が急速に進み、河岸線は20~80m後退して村落を脅かし、更に農地が失われた。

■ 考察

2014年夏は、例年に比べて少雨であり、大きな洪水がなかった。にもかかわらず浸食が急激に進んだのは、いくつかの要因が考えられる。
1.上流右岸、タンギトゥクチーの主幹水路沿いの連続堤防で、深掘れが発生・延長
  堤防沿いに新たな河道(河道①)が発生、②と合流して直進
2.高水位河道(河道②)の一つとなった旧取水口Bからの流量が増加
3.上記2の原因として、他の河道③・④・⑤に砂利堆積の可能性

タンギトゥクチー取水路の崩壊は、護岸壁に沿う河床低下を伴って、既に3年前から進んでおり、連続して国道の侵蝕が発生、2013年、道路工事会社が石出し水制を設置して道路を保護した。しかし、下向きの非越流型水制で、流方向が水制下流域で河岸側に向かっていて、変化を更に加速したと思われる。実際、護岸予定線の始点から300mの連続堤防の根方の洗掘が進み、2014年9月までには護岸壁が倒壊している。

クナール河主流は、この護岸壁から大きく左岸へ屈曲し、クズ・カシコート岩盤沿いに深い流れを作ってカマ郡に至る(河道⑤)。一連の人工的な干渉が、直進河道①②の流れを増し、そのまま急流のショートカットを形成しつつあるものと考えられる。

護岸始点から予定排水路末端までの落差は、約2㎞で8メートル以上(傾斜0.004)、かなりの傾斜である。また地層も砂利とシルトからなる柔らかなもので、いったん急流のショートカットが発生すると年々拡大していくものと思われる。

河道③・④・⑤の砂利堆積は、大洪水の起きた2010年、2013年に起きた可能性はあるが、2014年夏には、大きな砂州移動が起きるほどの河の流量を考え難い。しかし、河道①②の拡大に伴って、結果としては起き得る。起きれば悪循環を成し、河道①②の直進が大きな流れとなって左岸ミラーン側を大規模に浸食するのは確実だと思われる。

■ 対策と今後の方針

要は人工的介入以前の自然流をなるべく復することである。
1.旧自然河道④・⑤の流量を回復し、その上で適切な取水位置を決める。
2.そのため、急きょ河道①②を閉塞し、2013年の護岸線で妥協、河道変化を観察す   る。
3.ショートカット拡大を阻止する形で取水堰を建設、防災を兼ねる。
4.取水口位置は低水位の10月末に決定を延期、取水門建設開始を11月とする。

以上

ミラーン 取水口付近の河岸浸食

計画されたミラーン用水路ルートと河岸変化(2014年夏)

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