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ミラーン斜め堰造成、大詰め
~降雨なし。クナール河の異常低水位
  タプー堰を廃止、ミラーン堰からの送水を決定~

当地は冬至が近づき、河沿いは冷え冷えとしてきました。河の水は冷たく、水辺の作業は堪えます。それでも、職員・作業員一同、元気に仕事を進めています。

ミラーン堰の造成が佳境に入り、数日以内に完了予定です。これが工事の最大の山場です。シギ堰については、既に勝負がついており、2月初旬までに全体の仕上がりが成ります。

斜め堰ができると、ミラーンの関心は、護岸工事と調節池造成が焦点となってきます。主幹水路は予定400mのうち、約250mのライニングを終え、間もなく用水路壁の蛇籠工が始まります。最大の物量は計2640mの護岸で、こちらは絶対に手を緩めず、増水期までに嵩上げを続けます。

カシコートに劣らず、手に汗握る工事でしたが、このまま努力を続ければ春の増水期までに間に合うと思います。

しかし、工事の進捗は異常低水位に助けられてのことで、手放しでは喜べません。特にクナール河沿いは、秋以来たった一日だけの降雨で、水位下降が続いています。例年なら、12月初旬から曇り日が増え、小雨が降るようになり、河の水位が一定します。これまでに見たことのない異常低水位で、あちこちで悲鳴が聞こえます。身近ではタプー堰が干上がり、少ない余力を絞って回復の努力が続けられています。12月中に降雨がなければ、クナール河沿いとスピンガル山麓の全域で、凶作となるのは確実だと思われます。これはたぶん報道されませんが、政情混乱より恐ろしいと思います。

タプー堰については、ここ4年間改修と観察を続け、堰の維持は困難と判断しました。大工事で出来ないことはありませんが、ミラーン堰の見通しがついた現在、それだけの労力をかけるより、同地域の洪水対策(護岸)に焦点を絞る方が遥かに楽だということです。行政と住民に働きかけ、タプー堰の水系をミラーン堰から分水するよう工作を進めています。

従って、ミラーン堰で潤される地域は、さらに推定600ヘクタールを加え、計約1700ヘクタールに恩恵を与えることになります。これはベスード郡のクナール河沿い耕地の90%に相当します。その意味でも、「ミラーン」は、絶対に護るべき要衝となりました。

小生はミラーン堰の造成を見届けて年末に帰国し、しばらく休みます。

みなさん、どうぞお元気で。

平成26年12月18日 記

クナール河で最も安定していると見られる連続堰の水位変動。マルワリード、カシコート共に下降を続けている。例年なら、雨期の到来と共に、12月初旬から一定水位を保つ。今秋のジャララバードの降雨日は2日のみ。(降雨日;9月中旬、10月8日)。これは異常である。

ミラーン護岸始点から1400m付近は、斜め堰の造成開始で俄かに活気を帯びてきた。低水位に助けられ、一気に堰を仕上げる好機である。堰対岸の処置が12月17日より始められた。
2014年12月18日

斜め堰は全長130m、堰としては小ぶりで浅いが、新しく発生した河道なので河床がもろく、万全を期して進められている。
2014年12月17日

河床材料がもろくて浅い場合は、比較的小径の巨礫(30~60㎝)を幅広く整然と敷き、堰を渡す砂州の保護を徹底する。砂州の保護とは、洪水時に砂州が流失せず、斜め堰先端の巨礫が砂州と密着する工夫で、堰き上げの完了する前に十分な手間をかける。力ずくで延ばす片側からの堰は対岸をえぐり、絶対に成功しない。背の高い巨礫は河床をえぐりやすいので千鳥に埋めて固定し、隙間に小ぶりの巨礫を詰める(山田堰の工法)。
14年12月17日

同上。近景。このような堰は普通なら両岸から同時に伸ばし、狭めた中心に矢板を打ち込むのが理想的だが、クナール河で両岸からのアプローチが出来る堰はむしろまれだと言える。地形上および社会的事情で対岸の交通路確保が難しい。斜め堰の独自性の一つが、片側からの堰造成に非常に向いていることである。

対岸中州から取水口側を見る。
2014年12月18日

対岸砂州の保護と堰先端との密着は、急流の通過場所に籠を埋設することで、よく目的を達する。だが普通、一回の工事で済まされることは少ない。堰という人工物の造成で河の流れが修飾され、精確な予測が立てにくいからだ。改修を前提にして長期的に見れば、これは「布石」である。
2014年12月18日

中州を生き物に喩えると、籠は甲羅に相当し、埋設する巨礫が骨に当たる。砂州の材料がもろいと思われる場合は、籠の設置場所の基部をコンクリート化して固化し、液状のソイルセメントを籠の上から流し込めば密着性に優れる。同じ砂州であっても、砂州ごとに表情が異なる。
2014年12月18日

同工事風景。籠は予測流方向に対して直角方向に幅広く、浅く埋設する。掘削で巨礫(径25㎝以上の玉石)層を確認し、表面材料に応じた措置をとる。流方向は、増水時の視認と、玉石の重なり方で推測できる。
2014年12月18日

作業場のシルエット。河沿いの寒風や凍てつく水の冷たさに、暖かい陽射しが注ぐと、感覚器が狂って不思議な世界に引き込まれる。

人員と資材は筏で渡す。
2014年12月18日

堰の工事開始で水位が上がり、「水上工事」となった取水門。上部施工は試験通水後でも間に合う。主力は間もなく調節池や橋の設置に集中する。
2014年12月18日

堤防基礎がさらに広げられ、高さを少しづつ増している。仮設交通路のために設置した小水制はそのまま埋め立て、堤防の骨格となる。砂利が高くなれば、小水制間に巨礫を更に敷き詰めて根固めとし、基礎を強化する。
2014年12月18日

護岸始点から1200m地点の現在。
2014年12月18日

護岸始点から600m地点の現在。高水敷に設置された越流型水制。堤防が高くなった段階で、表法の下部を覆う捨石工とつながり、根固めの代用とする。クナール河では、この方法で失敗した例がない。
2014年12月18日

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