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ミラーン、砂州と河道の大変動、取水堰設計の見直し
~8月の大洪水、集中豪雨で各所の補修~

やっと人間界から自然界へ戻っています。ここは日本と別世界で、夢から覚めたような気分でおります。しかし戻ってから蒼くなっています。

今冬「も」と言うべきか、河の猛威の後始末です。毎年のことですが、今夏は格別、主要工事地点のミラーン堰を初め、各所の改修、設計変更で追いまくられます。今夏の洪水は、短時間のものとしては、かつてない規模で起き、クナール河流域全体で相当な被害があったと思われます。

作業地での主な被災状況と予定改修工事は、以下の通りです。

1.ミラーン付近;河道の大幅な変化で取水堰設計を全面変更、調査中

2.シギ堰;ダラエヌール渓谷からの土砂流入

3.ベスード第一堰(カシマバード);河道変化で堰が破綻

4.カマ第二堰;堰の部分決壊(軽微)

5.マルワリード流域の大きな土砂流入;D沈砂池、スランプール

6.シェイワ堰;河道変化による低水位

7.カシコート;堰上流側で部分的な堤防侵食、溢水(洪水流入)

こうして見ると、ほとんどが河周りの工事(護岸と斜め堰)であることが分かると思います。私たちの大方針は、「年々改修を繰り返しながら強化」です。年々の施工で、確かに古い堰ほど改修が不要になって来ています。しかし、個々の仕事は決して難工事ではなくとも、同時に広域にわたるようになると、力が著しく削がれます。今年は何とか春までに工事を終えますが、これを機に、常時「改修チーム」を待機させる方針を採り、行政への報告上「維持補修事業」として別に枠を設けます。財政的にはペシャワール会の全面負担です。

もう一つ、大きな課題は、会報で述べたように、先の広域展開に向けて多方面と協力、研修所を設立することです。来春までに場所を決め、準備を始めます。輪郭がはっきりしてから、改めて報告いたします。

また、ミラーン上流、「タンギトゥクチー堰」の全面的な荒廃(某団体施工)が今夏の大洪水で明らかとなり、現在調査を進めています。こちらの方は、PMSが以前に何度もコミットした経緯があり、先でミラーン堰にも影響するので、何とか来年秋の最大目標とし、手をつけたいと考えています。これも今冬中に調査を完了いたします。

以上の次第で、洪水の後始末で、多少会に負担を増すことになりますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

平成27年9月20日 記

主な取水口の水位変動。このうち、ベスード第一堰のみがカブール河沿いで、他はクナール河沿いにある。クナール河沿いでは7月中下旬をピークに、8月から急速に下降している。カブール河では、6月を頂点に下降を続け、8月に突然低水位となった。極めて変動が激しいのがベスード第一堰で、上流のドゥルンタ・ダムの開閉も影響する。ミラーン堰は、上流の河道変化が原因で低水位状態が続いている(後述)。

マルワリード堰(連続堰マルワリード側)の年比較水位変化。同連続堰は最も安定しており、水位変化はクナール河水量の季節変動を比較的忠実に反映している。昨年とピークが異なる理由は、今年7月初旬~中旬の熱波、7月下旬・8月初旬のクナール河流域の広範囲な集中豪雨が影響していると思われる。

図1.ミラーン作業地の河道変化と砂州の移動・消長(本文参照)。長年クナール河を見てきたが、これ程激しい変化はなかった。

図2.ミラーン作業地の現在の状態(本文参照)

図3.ミラーン周辺の基本的な河の変化を示す模式図。幅1㎞の河川敷内で河が暴れる。砂州と河道の消長は千変万化。 左岸カシコート側で土砂が堆積し、砂州と高水敷が融合する。右岸ミラーン側で軟弱な地層の浸食が起き、主要河道が寄りつく。洪水をくり返しながら河川敷が拡大し、河道変化と砂州移動が起きやすくなる。大砂州は堆積が進むと分裂、または対岸と癒合して屈曲河道形成の一因となる。

以上の変化を、歩く積りで、順次見て行こう。大砂州5の上流端(タンギトゥクチー対岸)。いくつかの分流が発生している。2015年9月20日

護岸線300m地点から上流側を望む。帯状の「砂州6」が主要河道を二分している
2015年9月20日

同300m地点から対岸を望む。河道⑤は土砂堆積が著しく、砂州5に連続した高水敷の一部になっている。河道④は浅く広い流れで、河道③Aと上流を共有する。
2015年9月20日

干上がった河道⑤。砂礫堆積が著しく、砂州5の一部となりかけている。
2015年9月20日

600m地点に置かれた第12水制。ここで撥ねられた流水が河道③の直進を促し、河の中央へ向かう主要河道「③A」の形成に一役買っている。2015年9月20日

750m地点から上流を望む。「埋設水制」で護られた高水敷が残り、よく根固め工の代役を果たしている。ここで河道③はA,Bに分かれる。(次の写真)
2015年9月20日

河道③分岐部。同部は、著しい砂利堆積で河床が高くなっていると思われる。河道③Bは、護岸堤防700m地点から急こう配で下る。2015年9月20日

河道③Bは堤防に沿って進み、堤防線1000m地点で、河道②と河道①に分かれる。
2015年9月20日

もう少し護岸堤防1000m地点を拡大しよう。ここで河道③Bが河道②と河道①に分かれる。砂州2では、10月からの堰造成工事に備え、一ヶ月前から巨礫の蓄積が始まっている。2015年9月20日

下流から見る各河道と砂州の位置関係。2015年9月21日

河道③下流部を見る。A,Bに分かれた河道③は、再び合してカマ方面に下る。洪水による侵食・溢水は皆無であった。ミラーンは洪水の恐怖から解放された。あとは取水設備建設に専念できる。塵も積もれば山となる。巨礫輸送は休みなく続けられ、貯石場が埋まっている。2015年9月21日

浅い流れとなった河道①、砂州1を歩いて渡り、砂州2から辺りを眺めてみよう。近くから見れば、また別の印象と知見が得られる。砂州2から上流を望むと、河道②は意外に広く、水量も豊富だ。秋の陣・冬の陣は、幅175mの河道③の処置が圧巻になる。
2015年9月22日

砂州2は幅95m、長さ160mの楕円状で、砂州1とは浅い流れ(河道①)で連続している。交通はここまでは確保できる。作業の手順は砂吐きの造成、架橋部の設置、河道①の石張り、砂州2・砂州3の籠埋設を同時に進め、仕上がる直前の時点で、河道②の閉塞を一挙に行う。河道③Bの開放は水位が最低となる12月中旬に行う。最大の山を12月下旬~2月初旬と見ている。2015年9月22日

砂州2の河床材料は代表粒径15~25㎝の礫石で、かなり強い。籠を埋設すれば洪水に十分耐え得ると期待される。2015年9月22日

おさらいです。ミラーン村落の破壊を防いだ代償で、河道変化が起きたことが分かります。河の仕事は言葉でごまかしが利きません。人と神の境界領域です。面倒でも、何とか混沌の中から天の則をつかみ取ろうとすることです。あとは天命です。ご協力に感謝します。2015年9月22日

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