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洪水(2015年)によるカマ堰周辺の変化 (2015.12.01)

2015年7月~8月にかけて、クナール河全域が突発的な洪水に見舞われた。上流のマルワリード堰では、7月中旬、8月初旬と二波にわたる異常高水位を記録した。建設中のミラーン堰では、十分な余裕高と思われる堤防を築いていたが、溢水寸前まで高水位が襲った。

カマ第二堰では、7月に3.2m(水門・堤防高4.0m)を記録、堤防天端まで80㎝に迫ったが、幸い溢水を免れた。350m上流のカマ第一堰では2.2mに留まった。しかし、低水位期に入り、カマ第二堰の砂州側の破綻、それに伴う砂州の深い侵食が明らかになり、改修を迫られた。

カマ堰と周辺の変化 図参照=図1= =図2=

2015年12月、観察できる変化は以下の通り。

1.砂州Ⅰでは、右岸上流側に土砂が幅30~80m、長さ400mにわたって堆積し、左岸下流側が幅30~35m、長さ約350mにわたって深い侵食を受けた。また、河道2Aの下流側でも幅約50m前後が侵蝕されている。この結果、砂州の下流端が消え、上流端が延び、全体が右岸上流側に移動した形になっている。上流端は河道1中心へ向かい、三日月上に約50m伸びている。

2.砂州Ⅱでは、河道2Bで幅60m、長さ300m前後に土砂が堆積し、河道を半ば閉塞、河道2Bは堤防沿いの細い流れだけを残し、河道2Aが流量を増している。

3.河道1・2は、第二堰造成時および2014年の第二次改修時、それぞれ流量が二分されていたが、2015年12月現在、河道2の流量は河道1の10%以下である。

4.第一堰で破綻はなく、越流線は砂州Ⅰの変化で逆に延長し(約250m)、砂州接合部も安定しているのが観察された。

5.第二堰では、砂州Ⅰとの接合部が破綻、接合部の砂州側背面に幅25~35mの深い急流が発生しており、取水口水位は著しく下降、約50㎝ほどであった。

6.第一堰上流側で見られた主な河道変化;2013年の洪水で侵食された場所に設置した石出し水制群(水衝部1、砂州Ⅰより約150m上流右岸)の周辺に河道全体を横切る砂利堆積線が発生している。堆積前縁は、水衝部1から対岸上流側(水衝部2)に向けて、第一堰の越流線と約30度の角度で弧を描いて越流線を成し、階段状に流水が第一堰に向かう。

7.右岸ベスード護岸(連続堤防)の根固めに沿って河床が低下し、河道2(幅30~50m)の細い流れを作っている。左岸カマ側の堤防では、砂州Ⅰの侵食部のやや上流対面に、細長い砂利堆積が発生している。また河道2B上流端(A・B分岐部)は、砂州Ⅰの堆積線が連続して浅く埋まり、長さ約200mの堆積を越流する幅広い流れとなっている。

8.河床材料の玉石は、堆積による閉塞部で粒径15~30㎝、これに細砂の層が被っている。砂州Ⅰの侵食部では、粒径20~30㎝の層が露出している。砂州Ⅰの下流端は以前から細砂や粒径1~3㎝の脆弱なもので、河道1・河道2Bの両者から挟まれるように完全に流失、砂州下流端が50m以上後退している。

考察と対策

同区間は、川幅200~300m、傾斜1/120~1/150の急流で、左岸カマ側は岩盤に連続し、単列に近い砂州を挟み、右岸ベスード側は砂泥の軟弱地盤である。1㎞上流のカマ橋から、大きな蛇行はない。これまでベスード側で氾濫をくり返すと共に、カマ側で取水設備が破壊され、手におえぬ場所であった。しかし、河の流量に対して比較的狭い川幅であったのは、おそらくカマ側の岩盤沿いに深く速い流れが形成されていたためであろうと思われる。2001年に着工した折、河道全面堰き上げの影響を懸念し、右岸ベスード側の河道2を約50m拡大して川幅を広げたのは、そのためであった。

類似の変化が起きたのは今回が初めてでなく、2013年の大洪水後でも観察された。即ち、河道2の砂利堆積による閉塞と河道1の流量増大、それに続く第一堰と第二堰の砂州側の破綻である。

第一次改修(2013年10月)、第二次改修(2015年2月)では、河道1の流量を減らす既定方針で臨み、一時的に回復したが、今回同様の結果を見るに至った。今回について述べれば、7月20日の第一波で現在見られる変化(河道2の砂利堆積と砂州Ⅰの侵食)が起きて河道2が主流化、8月1日の第二波で砂州Ⅰ下流端が更に侵食されたと思われる。この際、第一堰の砂州Ⅰとの接合部は、砂利で埋まり、「堆積によって護られた」と言える。

クナール河の河道変化は複雑怪奇で、蛇行・流速・河床材料・水深・粗度など、単純な要因では読み取れない。だが、これまでの周辺の人工的干渉(堰、堤防、河道拡大など)にもかかわらず、同部では旧に復する傾向――河道1の主流化と河道2の砂利堆積は変らない。

むしろ最大流量(=大洪水)が作る自然の形状を維持したまま、堰の安定を図るのが良策と考えられる。そのためには、洪水時の「堰の余裕高」を十分にとると共に、過度の砂利堆積を軽減する対策が必要と思われる。

1)河道1を拡大したまま、これに合わせ、第二堰の越流長を増す。

2)洪水後に残った水位を維持し、堰き上げ高を過度に取らない。

3)堰中の砂吐きを十分にとり、射流を起こして堆積を軽減する。

4)砂州Ⅰ下流端と第二堰接合部の河床材料を巨礫に置換し、堰下流の両河道に挟まれる部分全体を亀甲状に強靭な石張りとする。

5) 河道1と2Bの堰上流側に埋設水制(注)を置き、砂州を越える急流を緩和、堰=砂州の接合部の保護を強化、河床材料が弱い背面からの侵食をも防ぐ。

3について言えば、これまで最も成功したのがマルワリード=カシコート連続堰である。マルワリード側の5本の深い砂吐き(石張り)、カシコート側の2つの橋(コンクリート)が「スリット状ダム」のように河床底から砂利排出を促したことも、安定要因だと見られる。

改修では以上を主眼とし、工事を進め、今夏の洪水通過後に再検討する。

以上

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