2009年度の水利事業報告 及び2010年度の計画 ペシャワール会現地代表・PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長 中村哲 |
ペシャワール会報104号より (2010年7月7日発行) |
■マルワリード用水路開通
09年9月の大洪水の経験で更に補強、改修工事が繰り返され、用水路工事中で最大の物量を投入した。内法のブランケット工、外法の浸透水処理工事を併せると、使用された土石量は60万立米以上で、2年をかけ、2010年3月、工事を完了した。この結果、集中豪雨被害を制し、人里は守られた。 沙漠横断路は、耕地となる土地の高低を考慮して更に1,3kmを加え、最終的に25,5kmに延長され、現在、排水路と灌漑路網が巡らされている。2010年2月8日、州政府知事や長老を招き、開通式が挙行された。 |
水路の名称 | マルワリード用水路(Marwarid Canal:marwaridはペルシャ語で「真珠」の意) |
場所 | アフガニスタン国クナール州ジャリババからニングラハル州シェイワ郡ブディアライ村を経て、同郡シギ村ガンベリ沙漠まで |
全長 | 約25,5km(第一期13,0km、第二期12,5km) |
標高差 (落差) |
17,2m(ジャリババ取水口633,5m、 ブディアライ村624,4m、ガンベリ砂漠末端616,3m) |
取水量 | 4,5〜5,5立方メートル/秒(限界最大量6,0立方メートル) |
灌漑給水能力 | 3,0〜4,5立法メートル/秒(一日25〜40万トン) |
灌漑可能面積 (推定) |
約9,700ヘクタール(約9,700町歩=小麦作付け)、約3,000ヘクタール(約3,000町歩=水稲作付け) ※既に灌漑している耕地と給水量から算出。土壌の保水性、作付けの相違で、日本の基準とは必ずしも一致しない。 |
水路沿い植樹 総数 |
318,326本(2009年12月現在)、 うち第一期工事128,150本、第二期190,176本 |
■湿害対策と排水路/植樹 09年3月から継続されていた湿害対策は、既存の排水路の拡張・延長工事が手作業で続けられている。主要排水路は浚渫路と橋を建設しながら約15kmが完成、分岐路が更に網の目のように張り巡らされている。作業はなお続行中だが、回復した農地は約450ヘクタールに上り、百数十家族の農民が帰還した。ここに既存村落の復活が完成した。 干上がった広大な旧沼地は水稲の作付けに適しており、2010年度中に更に農道整備・架橋・灌漑水道等の工事を進める。 また、取水量の調節は当分PMSが自ら行う。今後増え続ける耕作地に必要な量を観察、水の配分を決定する。これは、もともと現地で、水門による取水量を決める慣習がなかったためで、2010年度はPMS主導で水管理態勢を確立する。 ■植樹 植樹の目的は、
2010年度秋から、柑橘類、ブドウ、ザクロなどの果樹園造成が始まる。植樹チームは後述の農業チームと、年度内に一体化する予定である。 ■カマ用水路の取水口建設 最近の気候変動は、アフガニスタン全土で大きな影響を与えている。即ち、雪解けと洪水が早めに訪れ、最も農業用水が要る時期に、渇水が始まる。大河川クナール河沿いの村落は、大きな被害を受けている。 カマ郡は面積7,000ヘクタール、スピンガル山麓のソルフロッドが壊滅した現在、ニングラハル州最大の穀倉地帯となっている。同郡の農業生産高はジャララバードの穀物価格を決定すると言われている。 2008年12月に着工した第一取水堰は2010年3月、第3次改修を終えて安定している。 2009年度、マルワリード用水路建設と並行して行われた取水堰の建設は、カマ郡の第二取水口である。この結果、2010年3月までに、カマ郡全域、約7,000ヘクタールの農地が完全に回復した。現在、帰農した者を含め30万人と言われている。2010年2月9日、カマ郡長老会、アフガン下院からPMSに感謝状が贈られた。 しかし、今後最低3年間の観察、小規模な改修は欠かせない。 なお、2003年3月から2010年2月まで、用水路に関わる事故は、死亡5名、重症5名である。内訳は以下の通り。 死亡(重機運転手の誘拐殺人1名、子供の水路内の溺死事故3名、熱中症が原因と思われる心筋梗塞1名)。重症(頭蓋骨骨折1名、内臓破裂1名、四肢骨折3名)である。作業中の事故死は出さなかった。これらの人々の冥福と重症者の早期回復を心から祈りたい。 |