「20年継続体制」に向けて日本側の支援強化を
――2016年度現地事業報告

PMS総院長/ペシャワール会現地代表
中村 哲
ペシャワール会報132号より
(2017年6月28日)
アフガニスタンで起きた出来事から今の世界を眺めるとき、世界は末期的状態にさしかかっているようにさえ見えます。無差別の暴力は過去の自分たちの姿です。敵は外にあるのではありません。私たちの中に潜む欲望や偏見、残虐性が束になるとき、正気を持つ個人が消え、主語のない狂気と臆病が力を振るうことを見てきました。このような状況だからこそ、人と人、人と自然の和解を訴え、私たちの事業も営々と続けられます。ここは祈りを込め、道を探る以外にありません。・・・そして、この祈りを共有する多くの日本人とアフガン人の手で事業が支えられてきたこと、そのことに救いを見るような気がしています。
2016年度の概要
異常気象と送還難民

2016年5月から6ヵ月間、アフガニスタン東部は極端な少雨が続き、大干ばつの再来が危ぶまれた。天水に頼る農地は作付けできなかった。現在、全アフガンの耕作地のうち灌漑可能な土地は半分に満たず、相当な打撃があったと見られている。
2017年1月になって降雨があったものの、降雪量が少なく、水不足は依然として続くものと思われる。

追い打ちをかけるようにパキスタンからのアフガン人難民の強制送還の動きが活発化し、1年間で100万人以上が東部方面に戻ったと報ぜられた。アフガン政府は難民を東部にとどめ置く方針を発表、受け入れ準備を進めた。だが全土で治安が悪化、作業地のあるナンガラハル州でもIS(イスラム国)の動きが活発化した。対する米軍は専ら空爆に頼り、誤爆で各地に被害が出ている。この間隙で犯罪者の動きも激しくなり、警察と軍が監視できるのは点と線になっている。

マルワリードU用水路壁の蛇籠工に取り組むヤールモハマッド監督(左)率いる作業員たち(2017年6月1日)
送還難民の約70%が東部(ラグマン州、ナンガラハル州、クナール州)出身と言われ、大半が農村地帯である。しかし、凶作も重なって難民を吸収する余力なく、多くの人々がジャララバード市内とその北部に集中した。PMS作業地では各村の爆発的な人口増加が起き、国道沿いは至る所にバザールが林立、想像を超える雑踏が俄かに出現した。難民だけでなく、他地域の不作や治安悪化によって多くの者が逃れてきたからである。

このため、PMS作業地は人口密集地帯となり、交通渋滞で移動にさえ困難をきたす状態である。それでも作業地の治安はさほど荒れておらず、住民とよく一致協力、仕事は遅滞なく進められた。

PMS年度事業のあらまし
14年10月に始まったミラーン堰(ベスード第二堰)は2回の洪水期を経て、9月に竣工、第4次JICA=PMS共同事業(マルワリードU)が、ミラーン堰対岸地域で開始された。これまで蓄積された経験が活かされ、2017年3月までに、予定の工程を完了した。

ガンベリ沙漠方面では、最大の懸案であった主幹排水路の再建が軌道に乗り、17年3月までに全線1.7kmを開通した。これによりPMSはマルワリード用水路沿いの水紛争に完全に終止符を打ち、ガンベリ地域の灌漑が保障された。湿害の軽度のものを含めると、シギ・シェイワ両村落群で約1,000ヘクタールを超える広大なものである。安定灌漑農地が全村で飛躍的に増加、地域との絆はさらに深まった。03年からのマルワリード用水路建設は、これを以て名実共に完成する。

「緑の大地計画」20年継続態勢
PMSでは、今後2020年までに予定地域の安定灌漑を実現すると共に、次の展開を見据えて維持体制の確立を図る。このため、16年3月にガンベリ試験農場の貸与契約を20年として、アフガン政府と協約を結んだ。

次の20年間(2036年まで)に新たな展開を予測し、これに備えるためである。見通しがつかない政情の中で、いつでも変化に即応できる体制をとり、水利施設=地域の護りを固める。こうして農村社会に土着化し、維持の上で予期せぬ事態に備え、将来的に「モデル」としての役割を発揮する。広域展開に際して、これが不可欠の基礎だと思われる。

日本ペシャワール会側も既にPMS・Japan(PMS支援室)を設置、この動きに歩調を合わせて強化を図り、長期継続体制を目指すに至った。

1.医療事業
別表1. 2016年度診療数及び検査件数
国際救援組織が殆ど撤退する中、地域で重きをなしている。16年度の診療内容は別表の通り(別表1)

2.灌漑事業
主な工事は別表2の通り。16年度は将来の広域展開と、そのための「20年継続体制」へ向け、準備段階に入った。

「緑の大地計画」は、2020年までに計画地域(安定灌漑面積16,500ヘクタール、人口65万人)を完成し、広域展開のためのモデルケースとする予定である。

◎ミラーン堰(ベスード第二堰)
14年10月に着工したミラーン堰は、16年9月に竣工した。技術的には以下が新局面で、新たな工夫が凝らされた。

1.浸食されやすい軟弱地盤での堰造成
2.砂州移動と膨大な土砂堆積の対策
3.石出し水制を組み込む護岸方式
4.不安定河道=砂州の固定
今後も観察を続け、改修を重ねて強化していく。特に土砂堆積を避ける「部分可動堰」は、既にカシコート堰で試みられていたが、ミラーン堰でスタイルが決定し、有用性が実証されたと思われる。

なお本堰はベスード郡クナール河沿いの1,100ヘクタールを潤すが、安定した本堰にタプー流域500ヘクタールを統合した。タプー堰を廃止し、現在ミラーン堰の灌漑面積は1,600ヘクタールである。

別表2「緑の大地計画」の経過と予定表
◎マルワリードUの着工
マルワリードU堰と取水門の鳥瞰図
ミラーン堰対岸は、4ヵ村に3万人が居住する。15年夏の出水で同堰対岸上流に分流が発生、堰を通過する水量が激減してミラーン側が取水困難に陥ると共に、対岸村落(コーティ、タラーン、ベラ)では耕地の半分が冠水または流失した。対岸の村民は一斉にパキスタンへ難民化したが、PMSが新河道の閉塞と約2,5kmの護岸を行って洪水被害の進行を食い止めた。

ミラーン堰維持のためにも同地域の安定は欠かせない。16年2月、対岸自治会とPMSとの間で協約が成り調査を開始、州行政やJICAが協力、16年10月から4年間をかける対岸地域の復興計画(マルワリードU)が計画された(詳細は以下)。

ミラーン堰対岸の灌漑計画(マルワリード第U堰)

趣旨

JICAとの共同事業で完成したミラーン堰の対岸(クナール河左岸)には、4ヵ村に約3万人が居住する。同地はナンガラハル州の中でも辺地にあり、援助が行き届きにくい貧困地域である。同地域はクナール河左岸にあり、上流はカシコート地方(2014年・共同事業で取水堰建設)、下流はカマ地方(2012年・取水堰建設)に連続し、上下流約8kmのベルト地帯を成している。かつては耕地850ヘクタールを擁する大きな村落群であった。
しかし、近年頻発する夏の洪水や冬の低水位で取水・灌漑に困難が続き、次第に荒れていった。特に2010年、2013年、2015年と立て続けに起きた記録的な洪水で、耕地の約60%に相当する500ヘクタールを失い、一時は村民の大半が難民化した。

2015年の洪水では、分流が発生してクナール河を二分、下流にあるミラーン堰(当時PMSが建設中)の水量が激減して取水に困難を来たした。取水方法にも問題があり、洪水流入と表土の流失を促し、近年の気候変動による河川の変化(洪水と極端な低水位)に適応できないと思われる。
同地の取水設備を整備して適切な護岸を行えば、難民化した村民の帰農を促し、同地4ヵ村の復興を約束すると共に、対岸(右岸)にあるミラーン堰、シギ村落の安定に大きく寄与することは疑いない。加えて、本事業ではこれまで培ってきた技術・経験が全て活かされ、人員の訓練の場を提供して、次の飛躍を期待できると思われる。

水はアフガン難民にとって生命線である。長引く戦乱に加え、気候変動による農地荒廃は、致命的な打撃を与えてきた。同地の復興によって、PMSが実施してきた「緑の大地計画」が完成に近づき、以て東部アフガンで農村復興の範となることを期待する。

◎用水路・堰の名称;マルワリード第U堰(村落間抗争を避けるため、特定村落の名を冠せず)
◎期間(第一期);2016年10月から2018年9月(2年間)
◎工事内容(第一期);
・取水堰(石張り式斜め堰、堰幅約250m)
・取水門(二重堰板方式、取水量2〜5m3/秒)
・主幹水路(ソイルセメント・ライニング、水路壁に柳技工・ふとん籠工、全長4,9kmのうち、第1期・約1,7km)
・沈砂池(送水門2、排水門2を備える)
・護岸工事(根固め工を伴う連続堤防、全長8,4kmのうち約5km)
・植樹(堤防沿い樹林帯)
◎裨益人口;約28,000名(同地域住民)、対岸の安定を入れると更に大きい。
◎灌漑面積;約850ヘクタール(既存耕作地を含む)
◎設計者;PMS(ピース・ジャパン・メディカル・サービス)
◎施行者;PMS(ピース・ジャパン・メディカル・サービス)
◎推定総工費;約7億円
◎全建設後の観察期間;5年間(2020年〜2025年)、PMS現地の責任で実施

2016年10月に第一期2ヵ年の工事が最上流のカチャラ村で始まった。17年3月までに堰の仮工事を終了、沈砂池まで約1kmの主幹水路に送水を開始した。これによって、最上流のカチャラ村の灌漑農地が倍増し、帰還難民の爆発的増加に悩む同村に大きな安堵を与えた。また、洪水対策で護岸の緊急仮工事が急ピッチで進められ、17年6月現在、護岸線は予定8,5kmのうち、6km地点を工事中である(うち約2,5kmはミラーン堰工事の一環で行われた分流のしめきり堤)。

技術的にはこれまでの経験が大いに活かされ、「部分可動堰」+固定堰(湾曲斜め堰)のスタイルが確立、完成度が最も高いものとなっている。土砂堆積がミラーン堰と同様、大きな課題であったが、本堰の建設によって決着が期待されている。
また、現場と事務所が一体となって工事の手順に慣れ、異例の速さで建設が進められたことも、特筆すべきである。
折よく難民の帰郷時期に重なったことは、地域にとって大きな意味を持った。臨時ではあるが、村々は数百名の雇用を得て農地拡大に寄与し、難民の帰農が促された。

◎シェイワ郡全域の湿地処理=マルワリード用水路の実質的な完成
1年4ヵ月にわたる主幹排水路工事約1,7kmが間もなく完了する(詳細は15年度報告――会報128号を参照)。マルワリード用水路建設に伴う湿地処理は、長い間の懸案であった。2015年までに大小約60kmを超える排水路網で湿地が処理されてはいたが、排水力が限界に達してガンベリ沙漠開拓が危ぶまれていた。主幹排水路の通過するシギ上流域全体が低地で、沙漠開拓に伴う湿地化が懸念されていたからだ。遅くとも17年8月までに同工事が終了するのは確実である。
ここでも帰郷難民があふれ、PMSは可能な限り人海戦術を採用、数百名の作業員の雇用を確保した。
排水路の恩恵はシェイワ郡約2,000ヘクタールに及び、これによって「マルワリード用水路建設」が名実共に完成、ガンベリ沙漠開拓を保証した。

◎他地域展開への準備
ミラーン堰近くに建設中の訓練所(2017年4月26日)
PMSは以後の工事を「他地域展開への準備」と位置づけ、FAO(国連食糧農業機関)とも協力、以下が16年度に行われた。
1. 訓練所の建設
2. 実習教材の準備

訓練所はミラーン堰の空き地に建設され、PMSの各取水設備にアプローチしやすく(*巻末資料(カラ―)地図2枚目参照»)、今後の維持の上で利便性が高い。訓練所は宿泊施設に簡単な教室を併設したもので、現場で働きながら学ぶ者を対象とする。一般的な河川工学や灌漑技術の知識を教えるのではなく、PMSの取水設備を実際に体得することを主な目的としている。各村の農民、地主、水主らが対象で、読み書きの能力を問わない。
17年3月までに基礎と1階部分が成り、現在2階部分を建設中である。約60名が宿泊可能である。

日本側では、山田堰土地改良区とペシャワール会(福岡)が協力し、山田堰の模型やビデオなど、訓練のための教材作成が進められた。
基本方針の要約は以下の通り。
1. 文化や地勢・気候の類似した東部アフガンを中心に、徐々に且つ確実に拡大。
2. 実事業を継続しながら、その中で「土着の実践部隊」を組織的に育成。
3. 中央集権的な方法でなく、地域中心、かつ住民の自主性を尊重。
現下の不穏情勢を考慮し、「緑の大地計画」が区切りを迎える2020年頃までには体制を整える予定である。

◎カシコート方面の工事を延期、カマ第1・2堰の改修
「マルワリードU」と排水路工事の見通しが立つ段階で、カシコート方面の工事が計画されていたが、難民の急増と治安の悪化で動きがつかなかった。広域で複数にまたがる作業地は管理困難と判断、当面の計画を延期した。

代ってマルワリードUの下流に隣接するカマ堰の最終的な改修を計画している。カマ堰は「緑の大地計画」の中で耕地面積が最大で、T・U堰併せて約7,000ヘクタール、全体の約半分を占める。年々の小改修で安定してはいるが、砂州移動の及ぼす影響が問題になっている。かつ帰還難民の最大の吸収地である。万一の混乱に備えて部分可動堰を設置、安定給水を更に確実なものにする。16年度は測量を繰り返し、17年に施工すべく計画された。

* 部分可動堰+湾曲斜め堰について
日本では可動堰を河道全体に設置し、倒伏式のゲートで油圧電動式、コンピューター制御である。冬の低水位期に水位を上げて取水を安定させる便がある。現地では建設が不可能なので、堰板手動式で増水期前にゲートを開放する。また、コンクリートの特性を活かし、深い急流を作れば土砂対策に極めて有効。PMSでは、岩盤を背にした取水堰で土砂吐きと兼用で斜め堰(固定堰)と組み合わせる方式が定着した。堰造成に際して架橋し、交通路を確保でき、工期を著しく短縮することができる。カシコート堰で試され、ミラーン堰で実用化された。
湾曲斜め堰は、一昔前まで日本でも行われた固定堰の工法である。斜め堰上流側を湾曲させて越流する水を河道中央に集め、対岸への影響を防ぐ。

3.農業・ガンベリ沙漠開拓
◎PMSガンベリ農場

ガンベリ農場で刈り取った小麦の脱穀作業(2017年5月18日)
ガンベリ沙漠では、2009年、用水路の開通と同時にガンベリ農場を拓き、PMSの自給体制を整え、用水路維持に役立てようとした。これが「自立定着村」構想である。その後農地法の改正で居住区ができなくなり、ベスード郡の一角に移した。

16年2月、アフガン政府と協約、開墾地235ヘクタールを農地として半永久的に借用する契約が成った。契約は20年毎に更新され、PMSの解散がない限り、継続される。
排水路問題が解決した現在、急速に開墾が進むことが予想される。

◎オレンジの出荷
16年度の最大の成果は、柑橘類の結果が観察され始めたことで、移植したオレンジ約12,000本のうち数パーセントで結果を確認した。出荷に向けて期待が高まっている。小麦は約60ヘクタールで作付けが行われ、ヘクタールあたり約2トン、米はヘクタールあたり2.3トンの収穫を得ている。

ザクロは品質が今一つで、苗木の植え替えまたは柑橘類への変更を検討している。畜産関係で進展が見られ乳牛11頭、子牛20頭となり、わずかではあるが生乳からの収入が毎月発生している。
日本大使館が協力したナツメヤシ園の造成は、早生種の苗を移植、17年3月に完了した。

◎植樹
16年1月〜12月の植樹数は23,538本、大半が新設用水路沿いの柳技工と護岸工事に伴う樹林帯造成で占められる。17年3月までの総植樹数は901,677本である(別表3)。

別表3 植樹総数(2003年3月から2017年3月まで)
4.ワーカー派遣・その他
◎支援室の強化と20年継続体制

現場に中村1名が常駐した。
事務量が膨大となり、ペシャワール会事務局内に「PMS支援室」が設置されたが追いつかず、更に専従の増員強化が計画されている。
支援室は事実上ジャララバード事務所と一体化し、円滑な業務を遂行する。
今後「20年体制」の日本側の要として機能すべく、基金団体であるペシャワール会と、現地事業体であるPMSとの役割分担が明確にされた。

また、実情を知るうえで現地との交流を活発にすることの必要性が痛感され、17年4月、ジア副院長一行の歓迎会が催された。長期継続のためには、今後の交流の機会を増やすこと、将来に備えて基金を蓄積することが、ペシャワール会とPMSの間で確認された。

2017年度計画
2016年度の連続である。
河川・灌漑関係では、対岸コーティ、タラーン、ベラ、カチャラの4ヵ村の復興に力を注ぐ(「マルワリードU」)。約850ヘクタールのうちカチャラ村200ヘクタールの安定灌漑、全既存耕地の送水路確保、洪水対策を計画している(*巻末資料(カラ―)地図1枚目参照»)。
カマ堰改修は17年10月に準備を開始、同年11月から18年2月までの4ヵ月間で一気に部分可動堰設置を進める。

訓練所の建設はFAOと協力して17年10月までに竣工予定。教材も同時期にそろえ、訓練計画の日程が作成される。しかし、泥沼の治安情勢の中で小さくない工事を抱え、計画通りに進めるのは困難であるため、柔軟に対処する予定である。
最大のものは「20年継続体制」の準備である。PMSジャララバード事務所の改組、日本側PMS・Japan(PMS支援室)の拡充を実行し、長期に備える。
なお、カシコート方面は当分大きな仕事は無理と判断され、情勢の安定する時機まで待機する。全体に現下の情勢は予断を許さず、短期的に計画の変更や延期があり得るので、事態を注視して頂きたい。

2016年度を振り返って
ゆく者はくの如しか。昼夜をおかず。
ペシャワール赴任から33年が経ちました。歳をとったせいか、川の流れを見ながら、この間の出来事を夢のように思い返すことが多くなってきました。多くの友人や仲間、先輩たちも他界し、ここまで生き延びて事業が続いていることを奇跡のように感じています。
最近アフガニスタンの報道が絶え、たまに日本に伝わるのは爆破事件、テロ、誤爆や難民など、恐ろしいことや悲しいことばかりです。いつの間にか「テロ」という言葉が人々の頭脳に定着し、対テロと言えば何でも正当化できるような錯覚が流布しています。しかし、今世界が脅えるテロの恐怖は、16年前の2001年、「アフガン報復爆撃」に始まりました。

あの時が分岐点でした。飢餓に苦しむ瀕死の小国に対し、世界中の強国が集まってとどめを刺しました。無論、罪のない大勢のアフガン人が死にました。そして「二次被害」の一言で、おびただしい犠牲は「仕方ない」とされました。まるで魔女狩りのようにテロリスト狩りが横行し、どんな残虐な仕打ちも黙認されました。平和を求める声を冷たい視線を浴び、武力が現実的解決であるかのような論調が横行しました。
文明は倫理的な歯止めを失い、弱い立場の者を大勢で虐待することが世界中で流行り始めたのです。別の道は本当になかったのでしょうか。

他方、干ばつと飢餓はやまず、多くの人々が依然として飢餓と貧困にあえいでいます。
アフガニスタンで起きた出来事から今の世界を眺めるとき、世界は末期的状態にさしかかかっているようにさえ見えます。無差別の暴力は過去の自分たちの姿です。敵は外にあるのではありません。私たちの中に潜む欲望や偏見、残虐性が束になるとき、正気を持つ個人が消え、主語のない狂気と臆病が力を振るうことを見てきました。

このような状況だからこそ、私たちの事業も営々と続けられます。ここは祈りを込め、道を探る以外にありません。祈りがその通りに実現するとは限りませんが、それで正気と人間らしさを保つことはできます。 そして、この祈りを共有する多くの日本人とアフガン人の手で事業が支えられてきたこと、そのことに救いを見るような気がしています。

今また20年継続体制を打ち出し、事業を次の代に引き継ぐ時がやってきました。この良心の絆を絶やさず、最後の体当たりのつもりで臨みたいと考えています。これまでの温かいご関心に感謝し、ご協力を切にお願い申し上げます。

巻末資料(カラ―)
建設中の交通路・連続堤防及び用水路・排水路予定ルート
PMSの水利事業で安定灌漑される予定地域 2020年