干ばつと飢餓はやまず無政府状態 人の和を大切に力を尽くす 2017年度現地事業報告 PMS(平和医療団・日本)総院長/ペシャワール会現地代表 中村 哲 |
ペシャワール会報136号より (2018年06月27日) |
干ばつと飢餓はやまず、多くの人々が依然として飢餓と貧困にあえいでいます。そのためのPMS方式の普及計画ですが、この終末的と言ってよい状態の中で、この事業が変わらずに続いている、そのことに希望があるような気がしています。こんな時にこそ、人の気持ちが分かります。現場でまじめに働く作業員から、政府高官に至るまで、この仕事を貴いと感ずる人々の共感と心意気が継続の主なエネルギーだと感じています。戦乱の中にあっても、この人の和を大切に、最後まで力を尽くしたいと思います。 |
普及活動への準備 PMSは以後の工事を「他地域展開への準備」と位置づけ、FAO(国連食糧農業機関)と協力、訓練所の建設と教材の準備が16年度から進められてきた。 日本側では、山田堰土地改良区とペシャワール会が協力し、山田堰の模型やビデオなど、訓練のための教材作成が進められた。教材は普及の上でかなり力があり、特に『緑の大地計画』英訳版は、関心のある多くの人々に親しまれ、希望を与えた。 訓練所は18年1月に開講、予定通りに受講グループを、PMS職員、作業地の農民指導者や水番、作業地外の農民指導者や政府の技術者らに分けて実施、地域指導層の理解が深まった。現段階は事実上、見学にとどまっているが、好評であり、今後少しずつ具体的な項目で技術拡大を図る予定である。また、「水の使い方」なども伝える場となり、「地域農業技術指導センター」の役目も期待されている。 3.農業・ガンベリ沙漠開拓 ◎PMSガンベリ農場
水稲は5.8ヘクタールで18トンを収穫した。ヘクタール当りの収量は、開墾直後の土地なので、何れも目標に及ばない。肥沃な土地にするためには、まだまだ努力が必要である。その他、季節の野菜、落花生、スイカなど多様に栽培されている。 オレンジが実をつけ始めているが、果樹園が広大なため、作業は出遅れている。現在集荷態勢を整備中。
17年1月〜12月の植樹数は4万869本、大半が新設用水路沿いの柳枝工と護岸工事に伴う樹林帯造成で占められる。18年3月までの総植樹数は95万2,111本である。うち6割がヤナギで、果樹は2,197本、果樹のすべてが柑橘類である(別表3)。 4.ワーカー派遣・その他 ◎現地PMSとの交流 現場に中村1名が常駐した。 実情を知る上で現地との交流を活発にすることの必要性が痛感され、17年4月、10月の2度にわたり、JICA共同調査の一環として、ジア副院長、ディダール、ファヒム土木技師、アジュマル農業技師が来日し、交流を深めた。 ◎共同調査 JICA共同調査は、各方面の協力を得て、17年4月から始まり、18年12月に結論が詠出される。評価は「緑の大地計画」全体のもので、灌漑前後の農村の変化、水利施設の機能について行われている。 2018年度の計画
河川・灌漑関係では、予定通りカマ堰改修を完了する。マルワリードUでは、 1.4ヵ村の完全灌漑を早期に終え、 2.護岸堤防8,5kmの完成、 3.植樹の完了を目指す。 ゆとりがあればカチャラ上流のゴレーク堰の調査を始める。 普及計画では、隣接地域(ラグマン州、クナール州など)の指導者や水主との接触を始め、将来の可能性を探る。他の河川流域についても、小規模な交流と研究を始める。 全体に現下の情勢は予断を許さず、短期的に計画の変更や延期が臨機応変にあり得るので、事態を注視して頂きたい。 2017年度を振り返って
どこで区切りをつけたらいいのやら、次々と色んなことが起きてきます。2017年度は「将来に向けての態勢づくり」が全体の大きなテーマでした。干ばつと戦乱が収まる気配はなく、かつ有効な対策が皆無に等しい現在、PMSが過去築いてきた水利施設を地域と共に維持し、これを一つの範として、隣接地域に徐々にPMS方式を普及していくという方針が出されました。このためにミラーン訓練所が発足し、日本側でも「20年継続態勢」、PMS支援室強化が打ち出され、現在に至っています。 一方、「マルワリードU計画」やカマ堰改修などは着実に行われ、安定灌漑領域は目標に達しつつあります。 だが干ばつと飢餓はやまず、多くの人々が依然として飢餓と貧困にあえいでいます。そのためのPMS方式の普及計画ですが、この終末的と言ってよい状態の中で、この事業が変わらずに続いている、そのことに希望があるような気がしています。 こんな時にこそ、人の気持ちが分かります。現場でまじめに働く作業員から、政府高官に至るまで、この仕事を貴いと感ずる人々の共感と心意気が継続の主なエネルギーだと感じています。戦乱の中にあっても、この人の和を大切に、最後まで力を尽くしたいと思います。 変わらぬご支援に感謝します。 平成30年 5月記
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