マルワリードUの開通とカマ第U堰の改修完了
治安悪化、大量送還難民、異常少雨の中で突貫工事

PMS(平和医療団・日本)総院長/ペシャワール会現地代表
中村 哲
ペシャワール会報135号より
(2018年4月1日)
準突貫工事態勢
みなさん、お元気でしょうか。
3月になりました。冬の間中、異常少雨でハラハラしていましたが、最近になってやっと小雨がぱらつくようになりました。十分ではないですが、河の水位も上昇し始めました。人々は落ち着きを取り戻し始めています。

用水路工事では、帰還難民の作業員も多い(2018年1月24日)
今冬はアフガニスタン中治安が悪く、作業現場でも緊張して仕事が進められました。その上、異常少雨がここ2年連続して起き、PMSは「緊急事態」と見て、準突貫工事態勢で臨んできました。現作業地区の4.9kmの主幹水路の造成(2016年着工)、カマ第二堰改修(2017年11月着工)が、これまでにない速さで進められました。

村々はパキスタンからの送還難民で膨れ上がっており、少雨が重なって帰農が困難、すばやく農地を回復して働けるようにしなければなりません。ともかく全地域に灌漑を行き渡らせることが当時の「難民対策」と確信し、作業を急いだのです。

この結果、2月下旬までに主幹水路全長4.9kmを開通、カマ第二堰も同じ頃第一期改修を終えました。この上に一昨年から進めてきたガンベリ排水路の工事を進めながらの話です。事務所と現場が一体となり、職員たちの働きは八面六臂、猛烈な努力の賜物でありました。犠牲者が出なかったのが不思議なくらいです。

現作業地のコーティ、タラーン、ベラ、カチャラの4ヵ村は、繰り返す洪水被害、渇水、湿地化で人が住めなくなり、村民の多くがパキスタンへ難民化していた地域です。昨年からの大量送還の煽りで失業者があふれ、危機的な様相を呈していました。 普通このような所が、警官、傭兵、国軍兵士などの武装要員を供給します。食うに困った村民が傭兵として出稼ぎに出るのです。実際、治安の悪くなったジャララバードから見ても危険地帯とされ、恐れて誰も寄りつきませんでした。

カマU堰改修工事(全体略図)
カマ第二堰。堰の越流水と、砂吐、洪水吐からの流れ及び河道UAの流れは下流の中央で合流する。山田堰とそっくりである(2018年2月21日)
クナール河に設置された石出し水制群(マルワリードU堰から約4〜5km周辺護岸工事。2018年3月1日)
工事中断の可能性もありました。昨年7月以来、「水さえあれば百姓仕事で生きられる。まずは灌漑だ」と唱え、村民との全面協力で作業が進められました。今年2月の主幹水路の開通は、全地域住民に安心感を与え、荒れ地は急速に緑が回復してきています。洪水対策で施工された約6kmの堤防も壮観、記録的な物量が投ぜられました。まだ終わった訳ではなく、仕事はたくさん残っていますが、後は年余をかけ、仕上げを確実に行うことができると見ています。

カマ第二堰大改修
カマ第二堰改修も苦戦しましたが、こちらの方もカマ自治会の並々ならぬ協力で、無事改修を終えました。カマはナンガラハル州最大の耕地(約7,000ヘクタール)と人口(30万)を擁し、「緑の大地計画」の最重要地点です。同堰はJICA(国際協力機構)共同事業の第一弾として2011年に竣工しましたが、今回はPMS単独の事業で、その後の観察で得た知見をもとに、より耐久性のあるものに仕上げて住民に譲渡する計画でした。改修の要点は、これまで脆弱だった砂吐を鉄筋コンクリート製の部分可動堰に変え、周囲の自然地形になじませると共に、堰体全体の強化を図って異常低水位に備えることでした。PMS方式の取水設備も年々完成度が高くなり、その粋が生かされています。

ここでも悪条件が重なりました。異常低水位と無政府状態です。治安悪化で困るのは何もテロや犯罪の横行だけではありません。内部の秩序の弛緩で組織が解体することです。まるで工兵隊のようなPMSにとっては致命的です。着工直後、相次ぐ緊急工事で疲労が見られた現場には多少の緩みが見られ、工事が大幅に遅れていました。

昨年11月から開始したカマ堰改修事業の土砂吐部の工事。写真左は2011年完成したカマ第U取水門(2017年12月19日)
一方、河は人を待たず、増水期の3月初めまでに仕上げなければ、工期を1年延長しなければなりません。非常事態とまではいきませんが、この時ばかりは全作業地に号令をかけ、全力をカマ第二堰に集中しました。重機・ダンプカー約30台をまる1ヵ月総動員し、約3,000台分の石材採取と運搬を達成、コンクリート作業班が異例の速さで工事を行いました。

カマ側もこの努力に呼応し、地域挙げて工事現場を見守りました。異常少雨と河川水の減少で、大干ばつの再来が人々の間で悪夢となっていたのです。PMS側では、昨年12年26日の住民集会までに基礎工事を終え、今年1月22日の住民大会で送水を開始、堰造成を2月22日までに完了するという、離れ業のような進行でありました。

堰の改修中に用水路内の掃除を地域住民が行う。カマ第一王水路(2017年12月26日)
この結果、カマ第二堰はPMS方式の堰の中で最も完成度が高いものとなり、全住民に安心感を与えました。堰幅200m、堰長45〜135m、石積み面積1万1,000m2、堂々たるものです。堰の開放で水を流した時、美しい流水の姿にみな息を呑み、涙を流す以外に、言葉もありませんでした。
堰の形状や機能も、驚くほど福岡県朝倉市の山田堰に類似したものとなり、「生きた模型」として今後の普及活動にも大いに役立つでしょう。

より多くの地域に希望を
一連の動きを通じて思えることは、職員全体の機敏かつ組織的な動きです。今後20年の継続態勢は、このPMSという集団がある限り実現します。ペシャワール会の変わらぬ尽力によって、より多くの地域に希望を与えることになります。ことは単に地域の復興にとどまらず、全アフガニスタンの温暖化=沙漠化の中で、具体的な局面での対応策として裨益ひえきするところがあろうかと考えています。アフガニスタンは戦では滅びず、干ばつで滅び得ます。PMSが敵味方を超えて協力を呼び掛けている理由もここにあります。
これまでの多大なご協力に対し、住民一同と共に深い感謝をお伝え致します。
2018年3月 ジャララバードにて