*74号以前は未掲載ですが高橋修指導員の記事だけ掲載しております
魅力あるパイロットファームを目指す
農業指導員
高橋 修
ペシャワール会報73号より
試験農場にて、(右から橋本ワーカー、高橋指導員)
1. 技術的な確認事項
今年の春「緑の大地計画」の核としてパイロットファームがスタートしたが、この半年間はまさに手探りの状況で経過してきた。しかし今回の訪問で、おぼろげながら技術的な課題とか改善の方向が見えてきたように感じている。列記すると次の通りである。

1) 当初、パキスタンから導入したコーン4品種の内の2品種、豆類2品種(2種類)、日本から導入したソルゴー2品種の内の一品種は地域適応性が確認できたので、今後一般農家への普及に努めていく。今後、今秋播種したアルファルファー、イタリアンライグラスとともに、コーンの4月播き品種、大豆の大粒品種及び甘藷の種芋を新たに日本から導入して適応性を検討する。

2) 潅漑用水の制約によって、栽培農地が限られているに係わらず意外に土地利用率が低い。例えば5月中旬に麦刈り後7月1日前後にならなければコーンを播かない等である。理由は中途半端な時期の播種はコーンが実らないとのことである。ローカル品種の特性によるものと考えられるので、日本で専門家と相談して四月播き品種を導入し、更に麦間播種方式で土地利用率を高める技術を試みる。

3) ラッキーソルゴーUの高収量性が確認できたので、来年は4月播として年4〜5回刈りを試みる。(今年は7月上旬播種で年3回刈り)なおこの構想はブディアライ村のパイロットファーム担当農家のアイデアに基づくものである。

4) ブドウについては、圃場と定植区画も確定したので、穂木の提供者及びPMS病院の庭師と十分連携しながら、穂木の保存、挿木時期等技術的な判断を誤らないよう注意しながら着実に準備を進めていく。

5) 茶については失敗と困難が続いている。特に硫黄華によるph調整効果の発現が遅れている。専門家によればもう少し時間がかかるとのことであるが、未熟有機物の施用、ph7井戸水による潅水、耕耘による硫黄華と有機物の分解促進、ほうれん草と小松菜栽培による石灰分の吸収除去、両野菜に対する硫安、硫加の施用等、ph低下に向けてあらゆる手段を講じていく。
また、茶苗提供を約束してくれているパキスタンの農業研究所と、機会を作って連携を深めるように努めていく。

6) 過剰な潅水による用水の浪費に止まらず発芽・生育障害が発生している。特にカライシャヒ村のパイロットファームの豆類において著しい。このため今後、パイロットファーム担当農家に対して適正潅水量の指導を徹底するとともに、原則的に豆科作物は畦立栽培で、また稲科作物は平畦栽培で対応する。

7) 一般に耕土が10〜15phと浅く、根の伸長を妨げまた旱魃被害を助長している。特にトラクター耕起の圃場が浅いように見受けられる。今後浅耕と深耕との比較展示等によって深耕の必要性を啓蒙していく。

8) 土壌中の有機物が極端に少なく、低収量と旱魃被害の一因となっている。家畜飼料の確保で精一杯でありまた畜糞の燃料化によって有機物確保が困難な情勢にあるが、パイロットファームでの比較展示等によって有機物施用の効果を啓蒙していく。場合によっては夏場の飼料が豊富な時期に、緑肥作物の栽培が必要になるかも知れない。

9) 旱魃被害の軽減を目的に実施した不耕起栽培は、生育遅延とか低収等問題があるので、今後は実施しない。

ぶどう園
2. 来春の作付計画
前項の技術的な確認事項に基づいて、来春の両パイロットファームにおける作付計画を協議した。圃場別の栽培計画は下表の通りであるが、節水技術と地力増強対策及び土地の有効利用をベースに置き、食用作物、飼料作物の増収を目標に置きながら、一部に永年作物を取り入れるスタンスで取り組むこととした。

パイロットファームの技術ソースは、中長期的に見て現地の先進事例が最も有益である。ジャララバードからダラエヌールに向かう道中、橋を渡った付近に優れた農業地帯があるので、是非そこで一、二戸親しい農家を作ってノウハウを得て欲しいと橋本さんに依頼した。

3. 運営上の留意事項
1) 来年は「緑の大地計画」の2年目に入るので、少しずつ具体化を図らなければならないと考え、研修の開始及び研修対象者の選定について日本人関係者のみで協議した。

その結果、パイロットファームが魅力のある教材になり得るかどうかが基本であること、パイロットファームが成功すれば必ず一般農家の関心が高まること、その段階であれば適切な研修対象者の選定が容易であること、研修対象者は30歳代後半から40歳代が適当であること、を確認し来年度中の研修開始に向けて、当面パイロットファームの充実に主眼を置くこととした。またパイロットファームの技術内容を一般農家に周知するため、各圃場毎に技術内容の要点を現地語と英語で書いた看板を立てることとした。看板の内容はMrワリーに案を作らせることとなった。

2) パイロットファーム担当農家との契約がまだ終わっていないようである。担当農家の要求(レーバー費、超過時間手当等)がエスカレートする兆しがある(カライシャヒ村)。橋本さん川口さんはかなり厳しく対応されているが、それにも自ら限界があろう。できるだけ早く文書での契約を終わる必要がある。

現地スタッフと打ち合わせ中の高橋指導員と目黒ワーカ
日当もレーバー費も資器材費もPMSが負担・貸与し、かつ生産物の半分を担当農家が受取る仕組みの中では、パイロットファームの成果が上がったとしてもその成果は普及性に乏しい。担当農家が頑張れば収益が上がる仕組みがないかと考えてみたが、今のところ名案が浮かばない。私としても早急に検討してみたい。現地でも是非ご検討いただきたいと思っている。

終わりに
取り急ぎ報告書を取りまとめたが、欠落とか間違いも多いと思っている。また独断と偏見もかなりあるので是非ご意見をいただきたいと願っている。
終わりに、多くの皆さんのご配慮で毎日を楽しく過ごすことができ、また体調にも恵まれて業務を遂行できたことに感謝を申し上げ報告を終わる。

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