混乱の政情下、水利事業は総力戦へ
用水路建設のべ5万人動員、取水口工事は今冬完了

PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長
中村 哲
ペシャワール会報78号より
(2003年12月17日)
主流の堰き止め工事(右手に見えるのは中洲)2003年12月9日
用水路工事、雪解け前の正念場
みなさん、お元気でしょうか。冬に入った現地では、今PMS(ペシャワール会医療サービス)の事業が最大の山場を迎えました。これまで、再々会報などを通じて報告してきた用水路の仕事が、正念場に入っているからです。

取水するクナール川は、インダス河の支流にあたり、河川敷の幅1キロメートル以上、とてつもない大河です。ヒンズークッシュ最高峰の連山の雪から溶け出す水は、季節変動が激しく、夏と冬の水位差が3.5メートルを超えます。
あと3ヵ月もすると、洪水のような雪解け水が押し寄せます。従って、今冬に取水口部を仕上げないと、工期を1年延ばすことになります。

取水口工事現場。2004年1月15日
そこで、「この2、3ヵ月が我々の将来を決める」と宣言、6百数十名の作業員による人海戦術だけでなく、大型掘削機(ユンボ)4台、ダンプカー3台、大型ローダー(ショベルカー)2台、コンクリート・ミキサー5台、トラクター10台以上と、これまでにない機械力を投入、取水口から2キロメートルまでの地点に作業員がアリのように殺到、突貫作業が開始されました。

先ず主流を堰き止めて傍流を作り、川底を干して取水口部と水門の工事を行います。初めの2キロメートルは相当な水量、毎秒約8〜9トンを引き入れるので、水路両岸の洗屈が起こらぬよう、万全の護岸工事を行わねばなりません。どの部分が遅れても失敗しますので、チーム分けを適切に行い、無駄なく短期間のうちに終えねばなりません。

水路護岸工事。布団籠の上に土嚢を積み、その間に柳の苗を植える/2003年12月7日
小生も現場に張りつけになり、全てに優先、陣頭指揮をとっています。橋本君を初め、農業や水源事業にかかわる日本人10数名、160名の現地職員、それをペシャワールのPMS基地病院が全面的に支えています。
取水口および最初の3キロメートルだけで、護岸に使う蛇籠が3,000個以上、66トンの針金が使用され、これも現場のワークショップが6月以来奮闘して生産を完了しました。5月以来の作業員はのべ5万人を突破、岩盤のダイナマイト爆破回数は,6000回以上、現在1日100発の爆破が行われています。

文字通りの「総力戦」で、10数万人の旱魃難民が帰農できるか否かの瀬戸際です。地元民もアフガン政府も固唾を呑んで見守っています。

ここで私たちが採用したのは、現地の人々が独力でも維持できる伝統工法です。取水口とトンネルを除けば、全て石と土、植林で水路ができます。護岸のために使用する柳の木は、日本在住の或るアフガン人が寄付してくれ、約3万本が用意されます。
水路工事現場。蛇籠、布団籠に石を詰める作業員達。2004年1月13日
水路工事現場。左蛇籠、右布団籠の上に土嚢を積み上げる
2003年12月7日
用水路工事現場。2004年1月14日
用水路工事現場。2004年1月14日