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カマ堰復旧工事が難航
~水車設置でお祭り~

当地はまだ蒸し暑く、異常な高気温が続いています。

今回の大洪水は、激しいものでした。広大なカマ郡は、何とか堰の部分崩壊で持ちこたえましたが、冬に予測される渇水で、復旧工事が急がれています。最初、「10日ほどで片づく」とタカをくくったのが祟ったのか、容易でない事態になっています。詳しくは、別の報告をご覧ください。

河道の復旧は膨大な手間がかかります。現在、動員できる限りの重機と人員を集中し、休日返上で総動員態勢をとっております。この一週間でかなり進みましたが、優に一カ月はかかりそうです。数日後に犠牲祭のイードを控え、急ピッチで工事が進められています。

イード明けには、マルワリード=カシコート連続堰の工事が本格化します。現在、大量の石材の輸送中で、10月中旬には一挙に始め、濃霧がくる12月初旬までに見通しをつけたいと考えています。しかし、カマ堰に足をすくわれて動きが取れなくなる可能性があります。

今秋は二正面作戦が避けられそうにありません。ここは緊急事態とし、財政面で多少負担を掛けるかも知れませんが、宜しく御協力下さい。

水車が間もなくつきます。カンレイ村の予定でしたが、治安上、基礎工事が難しくなり、ガンベリ沙漠の近く、第二候補地のクナデイ村の新開地に設置しようとしています。

相も変わらず河の中で、変わりばえしない報告ですが、ここはカマ郡30万農民の生活にかかわる場所です。イード明けまでには何とか見通しをつけたいと思います。

平成25年10月11日 記

工事開始直後の中州の様子。ベスード側の河道が中心に寄り、護岸沿いの傍流になっている。カマ第一堰と中州の接合部が大きく抉られている。工事は、砂州と河道をほぼ元の形に復旧しようとするもの。
2013年10月3日

砂州Ⅰの上流端(工事前)。写真左手のベスード側へ寄りつき、河道を閉塞、河道②が中心へ大きく屈曲している。
2013年10月2日

ひたすら掘る。ひたすら掘る。ひたすら掘る。ひたすら掘る。旧河道②はこの10日間の作業で少しづつ回復してきた。
2013年10月10日

砂州Ⅰ右岸を削って、同左岸を埋め立てる。単調だが、これ以外にない。ひたすら掘り、ひたすら埋める。
2013年10月10日

ひたすら埋める。ひたすら埋める。ひたすら埋める。夏は砂州全体を激流が越える。カシコート堰と同様、籠を大量に河床に落とし、強度を増す。蛇籠は用水路壁だけでなく、様々な用途に使われる。とくに砂利の砂州に埋設されたものは大きな働きをする。この10日で約500の籠が使われた。
2013年10月11日

旧に復する河道。作業開始から連日10日、休みなしの強行軍。河道は徐々に戻ってきている。
2013年10月11日

砂州Ⅰ先端からカマ第一取水堰と取水門を望む。斜め堰は驚くほど強靭。ほとんど損壊がない。手前の急流が抉られた接合部の背面。
2013年10月11日

マルワリード取水口から約18㎞地点(N2区)に設置中の揚水水車。サイフォンの下流端で、流水圧は十分。長年待ち望まれたものだけに、村民の喜びもひとしお。この日は、まるで祝日のような気分に浸り、イードが早く訪れたようだった。性能は先ず先ずのようで、来週また写真を送ります。
2013年10月10日

最近のN2区の様子。2008年3月に開通してから約5年。三つのサイフォンをくぐり、洪水をかわす。
2013年10月10日






-- カマ第一及び第二取水堰の復旧工事 --

カマ郡は30万の人口、7000ヘクタールの耕地を有するナンガラハル州最大の穀倉地である。灌漑は全面的にクナール河からの取水に依る。だが近年の気候変動で取水堰が壊れ、2008年12月までに冬の取水が完全に途絶、住民は半数以上が難民化していた。

同取水堰は、旧ソ連やアラブ系団体、PRT(地方復興チーム)など、多くの者が手掛けて成功せず、「不可能」と言われていたが、PMSはマルワリード取水堰の経験を生かし、2011年3月までに主幹水路を復活させた。2009年12月にカマ第一堰、2010年10月に第二堰が、PMSの手で着工され、それぞれ一年をかけて完工した。送水量は両堰を併せると一日100万トン以上、ほぼ全域を潤し、住民は全て帰農した。

第二堰は「JICA共同事業」として実施され、対岸3.5㎞の護岸を含む大規模河川工事となった。これによって、対岸ベスード郡の洪水対策とタプー堰建設が成り、同郡の一部も安定灌漑に浴することになった。

2013年6月~8月の大洪水は、堰にほとんど損傷を与えず、農業生産に大禍なかった。しかし周辺河道の変化は、対岸と堰先端に影響を与え、放置すれば深刻な取水困難に陥ると判断され、2013年9月下旬、河道回復工事が始められた。

-- 河道変化の概要(地図参照) --

同部の河道は、左岸カマ側岩盤沿いに流れるもの(河道1)、右岸ベスード側を流れるもの(河道②)に分けられる。カマ第一取水堰より下流の河床は河道1が約1~2m低い。河道②は約500m先で更に二つに分かれる。直進するもの(河道②A)と、砂州Ⅰと砂州Ⅱとの間を流れるもの(河道②B)に分かれ、下流へ向かう。

全体の流量は、厳冬期で400~600m3/秒、真夏で3,000~4,000m3/秒、今回の洪水では推定10,000m3/秒に迫ったと思われる。カマ堰完工時(2011年3月)の河道分割工事で、河道1;約30%、河道②A;約50~60%、河道②B;10~20%程度に、それぞれ流水量を分けてカマ取水堰にかかる水圧を減じ、成功を見たものである。

2013年9月現在、河道1・河道②が合流して第一堰を越流、同砂州との接合部背面を洗掘、幅約20mの深い急流を作っている。砂州Ⅰの右岸上流側が著しく右岸ベスード側へ寄りつき、河道②を狭め、河道1を広げている。砂州Ⅰの左岸全体が後退、右岸全体が砂利堆積で増加している。このため、砂州Ⅰ全体が右岸ベスード側に盛り上って移動したように見える。

河道の流量は推定800m3/秒前後、うち河道②;10%以下、河道1;90%以上である。但し厳密には河道1に大きな変化なく、河道②との合流部で水量が著増したと言える。堰そのものに破損はない。

洪水による変化と河道回復工事の概要(カマ・ベスード)

-- 考察と対策 --

今回の大洪水で最大の変化は、①先ず河道②Bの砂利堆積で河道②Aの流量が急増、対岸護岸の一部を決壊させ(推定6月)、②第二波で河道②全体に砂利堆積(推定7月)を生じたことである。③砂州Ⅰの上流端から約200m、右岸上流の護岸が140mにわたって決壊、強力な石出し水制を築いたが、これが水を刎ね、河道②を中心側へ押しやったことも、②に影響している。

この結果、河道②が中心へ寄り、堰先端(カマ第一堰と砂州Ⅰとの接合部)を背面から洗掘、河道1と合流して主流を成し、砂州Ⅰの左岸側の洗掘を起すと共に、第二堰に相当な流水圧を加えたと思われる。また、砂利堆積によって砂州Ⅰの右岸が盛り上がり、河道②を著しく狭めた。堆積は河道1の入口部で著しく、河床を高くしたために、砂州Ⅰ上流端から幅広く扇状の流れが河道②へ向かって発生、洗掘部に集中したと思われる。

印象的なのは、斜め堰の強靭さである。堰体は殆ど無傷に近く、かなりの流水圧に耐えている。各地で取水困難が続く中、驚異的ですらある。これはマルワリード=カシコート連続堰、ベスード第一堰、シェイワ堰らも同様で、ほぼ健在であった。

問題は、カマ第一堰の接合部背面の深掘れで、放置すれば年々、深い中心河道を成し、河床低下で第一堰の用水が乗らなくなる恐れがある。また第二堰に異常な水圧がかかって崩れやすくなると思われる。対策は;

1)先ず旧河道の回復で、とくに河道②Bの流れを十分にとって河道②全体の流量を増し、堰にかかる負荷を減らすこと、

2)その上で洗掘部を捨石工で閉塞、カマ第一取水堰の越流長を増すこと、3)上流右岸の石出し水制の影響(水はね)を考慮し、砂州Ⅰ上流端を強化すること。

以上を施工して年間の変化を更に観察する。

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