【報告】中村哲医師、アフガニスタン大統領より勲章
現地住民や政府に、大きな意義をもたらしたPMS方式
ジア ウル ラフマン/中村 哲
ペシャワール会報135号より
(2018年4月1日)
授与式に至るまでの経過
PMS副院長・医師・ジャララバード事務所長
ジア ウル ラフマン

2000年、アフガニスタンを大干ばつが襲いました。なかでも東部ナンガラハル州は深刻でした。ナンガラハル州の住民はほとんど農民で、収入の100%を農業に依存しています(註・干ばつが起こる以前のアフガニスタンの穀物自給率は93%と言われ、豊かな農業国であった。現在の穀物自給率は60%を切っている)。

同州約10万ヘクタールの灌漑農地のうち、25%が河川から、75%が雨水、洪水の際の溢水、カレーズ(地下用水路)や泉などから農業用水を得ていますが、50〜75%の土地が完全に干上がっています。河川から灌漑水を得ることが出来ている25%の農地も、取水システムが適切ではないため夏に大洪水が発生すれば破壊されてしまいます。一方、冬に河川の水量が減ると灌漑水が全く得られなくなってしまいます。このような状況下、住民の多くは家を捨て国内の他地域や国外への非難を余儀無くされています。

この事態を見た中村医師は、「緑の大地計画」という名の下に2003年から灌漑事業を開始しました。そして中村医師の指導の下、夏季には洪水から住民を守り、冬季には灌漑水を確保する水利事業が進められました。現地では「PMS方式」と呼んでいる灌漑方式にもとづき、マルワリード用水路をはじめ、更にクナール河沿いにシェイワ、シギ、カシコート堰を建設し、2016年10月からはマルワリードU取水堰の建設に着工しています。ベスード郡ではクナール河側にミラーン取水堰、カブール河側にカシマバード取水堰を、カマ郡ではクナール河沿いにカマTとカマU取水堰を建設しました。PMS方式による灌漑地の総面積は約1万6,500ヘクタールになろうとしています。

これまで他の支援団体が何度も試みてはうまくいかなかった取水設備が、PMSの灌漑方式を取り入れることによって適切に機能し続け、各取水門から十分な水量が得られるようになり、現地住民や政府にとって大きな意義をもたらしました。

さらに同事業の成功によってFAO(国連食糧農業機関)の協力を得て、PMS方式の取水設備を各地に拡大することを目的に訓練センターが建設されました。そして中村医師はこの訓練プログラム向けの教科書(英文技術書)「アフガン・緑の大地計画」を執筆しました。

この技術書がFAOから土地管理局のジャワード・パイカル氏を通してモハンマド・アシュラフ・ガニ大統領に届けられ、パイカル土地管理局長より「中村哲医師の経歴書を送るように」との連絡を受けました。
その後、モハンマド・アシュラフ・ガニ大統領がドクター中村に会いたがっているとの知らせがあり、2月7日、大統領公邸に赴いたのです。
この叙勲がさらなる協力の輪に
PMS(平和医療団・日本)総院長・ペシャワール会現地代表
中村 哲

2月7日、ガニ大統領から会見の希望があり、カブールの大統領官邸に赴きました。干ばつの現実を強く訴えるつもりで行くと、既にガニ大統領は熟知されており、「私は問題のカギを探していた」とおっしゃるのです。これは意外でした。そして「君の仕事がカギだ。会いたかった」とおっしゃいます。ひと月ほど前「緑の大地計画(英文)」がFAO経由で届き、6時間かけて一気に熟読したそうです。その後、官僚たちを叱咤して「全力を挙げてこれを学べ」と伝達、2月4日に農業省=FAOで説明会が開かれています。農業省の灌漑専門技術者、ジア医師とディダール技師が出席し、出版された教材を元に、今までになく突っ込んだ内容の検討がありました。
技術書は「単純に見えても深い内容」との評でした。厳しい情勢の中、和やかな雰囲気で夕食会が催されました。
大統領は小生と同年配、パシュトゥン遊牧部族出身、見識のあるかたでした。

声が為政の中枢に届く
鈴鹿日本大使、パイカルと意管理局長、ドゥラに農業大臣の列席のもと行われた授与式。
今回の叙勲は、私たちPMSにとって、特別嬉しいもので、全職員、大いに励まされました。長年の灌漑の仕事が地元で評価され、私たちの声が為政の中枢にも届いたからです。2000年の大干ばつ以来、私たちは干ばつと飢餓の克服を訴え、「緑の大地計画」実現に努力を傾けてきました。 この間、世の流れはあまりに急であり、戦争や政治的な話題ばかりが伝えられ、話題が去ると恐怖だけを残して忘れ去られていきました。この40年間、ずっとそれが繰り返されてきました。

しかし、戦乱や干ばつの中にあっても、人は生きていかねばなりません。多くのアフガン農民にとって、先ず生存することが目前の課題でした。「アフガン復興」の明るい報道と、「対テロ戦争」の勇ましい掛け声の陰で、多くの人々が餓死に直面し、難民化していきました。その実態は国際社会に伝わらなかったのです。

悠久のアフガニスタンは、戦では滅びませんが、温暖化による干ばつで滅び得ます。水の仕事は自然が相手で、効果を得るまで長い時間がかかります。一世代で解決できる事ではありません。幸い多くの内外の良心に支えられて、東部の一角に確かな実例が築かれようとしています。私たちにできることは、この確かな希望を身を以て守り育て、将来に備えることです。この叙勲がアフガニスタンの官民を問わず、敵味方を問わず、更に大きく協力の輪を広げる動きであることを祈ります。
賞状
メダル
アフガニスタン・イスラム共和国
我が国の兄弟国の日本国出身であるPMS代表に
ガジ ミール マスジッド カーン勲章の授与

勲章
 我が国の兄弟国である日本国出身でPMS代表である中村哲医師は、我が国で人々のために医療、灌漑、農業の分野で専門的な支援を長年行ってきた。特に、ナンガラハル州およびクナール州においては、医療センターを設立し、農業および灌漑の分野でも最善を尽くして支援を行った。このような活動によって、彼は保健および農業の分野においてわが国の人々に多大な影響を与えた。
中村哲医師のこのような功績を讃え、我が国の憲法第19条64項に基づいて、ガジ ミール マスジッド カーン勲章を授与する。
 中村哲医師のご健勝と今後の活動におけるご成功を祈念致します。
アフガニスタン・イスラム共和国大統領
モハンマド アシュラフ ガニ