深刻化する気候変化
―沙漠化と豪雨被害の中、灌漑地が唯一の希望に

PMS(平和医療団・日本)総院長/ペシャワール会現地代表
中村 哲
ペシャワール会報138号より
(2018年12月05日)
空前の規模の干ばつの再来
ベラ村の浸食を食い止めたマルワリードU5.6km地点の護岸。低水位期になって石出し水制による著しい河床低下が見られる。ミラーンでの経験は大きく、この護岸方式が浸食対策の定番となっている(2018年10月29日)
みなさん、お元気でしょうか。
今年は日本も世界も災害で荒れました。
私たちの周りでも、集中豪雨、異常高気温、大型化した台風が襲い、自然の猛威を肌身に感ずる時代を印象づけました。国外でもあらゆる場所で天変地異が起こりました。

これまで会報等で訴えてきたように、アフガニスタンでも気候変化は深刻化し、今年はまるでダメ押しのように、空前の規模の干ばつの再来となっています。国連筋によれば被災者が1,000万人を超え、餓死の危険百数十万と見積もられています。すでに今春から国連機関・アフガン政府を筆頭に、必死の救援が続けられていますが、冬を目前に犠牲が増す可能性が高くなっています。

用水路も保全に青息吐息
【上】マルワリードU堰。造作後2年を経て、ほとんど目立った変化が見られない。本堰は地理条件にも恵まれて、最も安定した堰である。岩盤下流側は著しい土砂堆積が問題であったが、水門付近の砂利吐きが奏功している。(2018年9月24日)
2000年以来、私たちPMSはペシャワール会の全面支援の下、「百の診療所より一本の用水路」を合言葉に、その備えに力を尽くしてきました。その結果、東部アフガンの一角に安心して住める地域を復活させたのは確かですが、圧倒的な自然の前には力不足を感ぜざるを得ません。沙漠化だけでなく豪雨被害を勢いを増しているのが近年の特徴で、既存のマルワリード用水路も保全に青息吐息の状態となりました。

カマ第一堰改修は予定通り進んでいる。今回は砂州との接合部の工夫が主題の一つだ。全体に手際よい作業工程で、作業員は巨礫の取扱い。砂利の活用らに習熟している(2018年10月28日)
しかし、私たちが「緑の大地計画」で築いてきた安定灌漑地=60万人の農村地帯は、周辺農民の唯一ともいえる希望となっています。更に、アフガン東部で多くの周辺被災者がこの地域に逃げ込み、かろうじて職を得て生きているのを見ると、責任の大きさを自覚せざるを得ません。災害の質量に変化の兆しがある現在、PMSは新たな保全態勢を敷くと共に、敵対よりも協力を呼びかけ、安全な生活圏拡大を目指し、干ばつと対峙し続けます。力を合せれば、決して不可能なことではありません。

温暖化による災害が世界中で起き、アフガニスタンだけが被災地ではありませんが、人間共通の課題としてこの問題に向き合い、ご理解を賜りたいと存じます。
これまでの温かいご関心と多大のお支えに感謝します。
良いクリスマスと新年をお迎えください。
2018年12月
ジャララバードにて