我々の事業を支えているのは信頼関係です
PMS院長代理・看護部長
藤田千代子
ペシャワール会報76号より
(2003年07月09日)
庭でくつろぐ患者さん達
軍事行動が撒き散らす不安
お元気でしょうか。
ペシャワールの病院の庭は庭師の小父さんたちの努力の成果が花盛りで現れスタッフや来院者を楽しませています。男性患者さん方は芝生に円座をつくり話し込んだり、寝転んだり、コーランを読んだりお祈りしたりと気ままに庭に出て酷暑前の一時の花園を満喫しているように見えます。
さて、こんな中で山岳地の診療は定着して来ています。

東部アフガニスタンにあるワマ診療所はこの2年間数回にわたる地震の為、建物の一角にある台所の天井と壁が崩れ落ち、ビニールを張り付けたりしてしのいでいましたが、とうとう新築する事になりました。またダラエ・ピーチ診療所も同様に地震で崩れ、今年の冬の降雪で更に悪化してしまいました。

両クリニックは現在新築中で、ダラエ・ピーチ診療所は昨年ペシャワール会が沖縄平和賞を受けた時の賞金が使用されることになり、名称も「沖縄ピースクリニック」と決定しました。

この診療所のある地区の中心地であるチャガサライには数カ月前から米軍が駐留しており、診療所から戻って来るスタッフ達は、ジープ等をヘリコプターで輸送しているのを何回も見たと言っていました。3月19日に新しい水路計画の起工式がダラエヌールクリニックの近くのシェイワという村でありそれに出席したのですが、式が始まる前にヘリコプターの飛行音がし1機が何かをぶら下げて飛行していました。その周りに警護するように3機のヘリがいました。カーブルから戦車を輸送している所だとの事でした。

また、チャガサライでは米軍がある人物を捕獲する為に医療チームを装い住民を集め診療行為を行っている途中でそれがばれて戦闘になり、目的は果たせず住民が数人死亡しました。その後外国NGOに対する不信感が広がったため、私達のチームも安全に気を配らなければならなくなりました。

2月、中村医師がダラエ・ピーチとダラエワマ診療所へ行く事になっていましたが、危険だという地元スタッフの進言で、用心しながら沖縄ピースクリニックの進行状況のみを早足で視察されました。モハメッドアリという別名を持ち自由に行き来していた中村先生でさえこうですから、よっぽど不信感が強くなっているのでしょう。

沖縄ピースクリニックの建築風景
コーヒスタンでの教訓
パキスタン側に開いたコーヒスタン診療所(現在一時閉鎖中)等を含めて山岳地での診療をしながら分かって来たことは、地元に受け入れられなければどんなに医療の必要な所でも活動が出来ない事です。一時閉鎖しているコーヒスタン診療所では、以前外国団体が宣教活動をしていた事があり、外国NGOへの敵意が住民達の嫌がらせの理由の一つでした。

また、アフガン内の診療所ではペシャワールから派遣したアフガン人の男性医師が女性患者への問診で何か問題のある尋ね方をしたため、その患者が家族へ不満を訴えた事により問題となり村の住民達がその医師を派遣しないように要求した事もあります。これとは別にスタッフと住民間に問題が発生し、住民達が再度問題のスタッフが派遣されてきた時には暗殺すると計画していたこともあり、驚きました。

私達はアフガニスタンとパキスタンで活動をしているわけですが、井戸掘りでは水が出れば良しとし、農業計画では村人とサイレージを作り牛の1日のミルクの出が以前より増えて「牛も栄養失調だったのだ」と言って喜び、診療所ではリーシュマニアの患者が増加しているため、治療に使う注射薬が少し高いけどほっておくわけに行かないので薬品の量をどうかしなければと頭を悩ませ、ペシャワールの病院ではトレーニング中のナース達に勉強をしなさいと脅したりして過ごしています。

聞こえるのは不穏な情報ばかり
PMS病院の医療スタッフ達(左からサンダルワークショップ親方、検査技師、看護師
私達のここでの活動は目的がはっきりしています。それを続けるには地元の人たちに信頼されなければなりません。それは彼らに高い給料を支払う事でもなく、機嫌をとる事でもなく、一緒に働く者が欲を持たず本当に彼らの事を心から考えることだと理解しています。

アフガニスタンの地図を見るとペシャワール会の作業地はほんの一点に過ぎず、時々アフガニスタン全体の旱魃の事や医療過疎の事を考えると気が遠くなり絶望的になりそうな時がありました。タリバン政権崩壊後はたくさんの国が援助に入り旱魃対策、医療対策が進められて行くだろうと期待していましたが、聞こえて来る情報は毎日起きている襲撃、捜索、住民への不当な扱い、空爆、戦闘ばかりです。

多くの援助団体が入っているにも関わらず状態は悪化しているようにも見え、真剣にアフガニスタンの事を考えているのだろうかと思う事もあります。政権交代から1年以上経った今でも米軍による空爆は続けられています。政権が変わる時、いくらかの混乱は避けられないのかも知れませんが、この長すぎる混乱はますます住民の信頼を失い、私達の活動も危くなってくるのではないかと少し憂えています。これをアフガン人達の自業自得というにはあまりにもむごい感じがします。